ここではオーバーステイ(在留特別許可)に関して、専門のイミグレーション戦略コンサルタント兼行政書士がQ&A形式でお答えいたします。
‡イミグレーション戦略コンサルタント兼行政書士からのオーバーステイ(在留特別許可)のご説明‡
この在留特別許可のポイントは、在留特別許可で日本人の配偶者等のビザを希望する場合、まず、実態を伴った法律婚であることです。また、在留特別許可という「申請」はない、というのが従来の入管です。つまり「申請」という表現は入管では用いないようにしているのです。ですから「申告」とか、「嘆願」、「在留希望」等と称したりします。また、オーバーステイの状態で、入国管理局へ出頭申告しても、「不法滞在」はその後も続きます。そして、許可されるまでは、原則として働くことはできないことに注意する必要があります。
- オーバーステイ(在留特別許可)の法務Q&A
- Q1: 在留特別許可とは、どのようなものですか?
- Q2: 在留特別許可の要件(基準)は何でしょうか?
- Q3: 日本人配偶者に該当しないときでも在留特別許可は与えられるのですか?
- Q4: 私はオーバーステイしています。日本人との間に子どもがいますが、彼には別の奥さんがいるので結婚はしていません。胎児認知はしています。在留特別許可はどうでしょうか?
- Q5: 私はオーバーステイで、日本人と婚姻していますが、子どもはいません。私のビザはどうなるでしょうか?
- Q6: 私は日本人ですが、この度、オーバーステイの外国人の妻と婚姻し、在留特別許可を得ました。ところで、私は自営業で外パブを行っています。フィリピンパブなのですが、妻にお店を手伝ってもらってもよいでしょうか?つまり、更新の審査に響かないか、ということなのですが?
- Q7: 在留特別許可を与えられた妻の連れ子をフィリピンから呼ぶ方法はありますか?
- Q8: 在留特別許可がされたあとは何をすればよいですか?
- Q9: 在留特別許可の申し出をしたのに、特別審理官にも、「不法残留」と認定されてしまいました。いよいよ強制送還かと思うと夜も寝れません。私はどうなるのでしょうか?
- Q10: 在留特別許可と上陸特別許可は何が違いますか?
- Q11:日配での在留特別許可の審査基準の基本的な視点は何でしょうか。
- Q12:自主出頭で収容される例はありますか。
- Q13:国会で制定された新入管法ではどうなりますか?
- Q14:自分たちだけで準備してできるでしょうか。
- Q15:摘発先行ケースで、摘発時の同居期間について、一定の長さを要求することが言われてきましたが、現在はどうでしょうか。
- Q16:全く仮装の申請資料により、短期等で入国した場合、在留資格の有効性はどう考えるべきでしょうか。
- Q17:なぜ不法滞在や不法就労がよくないのでしょうか。
- Q18:在留希望で出頭申告した場合で、審査中に翻意し、帰国を希望する場合、出国命令制度の適用の余地はなくなるのでしょうか。
- Q19:オーバーステイでの申請は権利でしょうか。それとも権利とは言えない性質でしょうか。
オーバーステイ(在留特別許可)の法務Q&A
オーバーステイで申請の権利性があるのか否かがときどき議論されるようです。ただ、結論から申しますと、オーバーステイでも申請の権利性は存すると解されます。誤解を招かないようにわかりやすく申し上げますと、実務では従来は申請とは言いません。オーバーステイでの在留特別許可自体は本来は例外的なものですから、無論、審査の結果、不許可になることは、普通にありますので、許可の請求権ではなく、オーバーステイで審査を「申請」できるかどうかです。ここでは、オーバーステイで不許可になる理由や、許可になる要因等について、解説致します。
Q1: 在留特別許可とは、どのようなものですか?
A1: 在留特別許可とは、典型的には、オーバーステイの場合に問題になり、主に、入管法50条1項3号によるものです。「オーバーステイ(不法滞在)」は犯罪ですので、処罰されることがありますが、それと行政処分は別論です。
(法務大臣の裁決の特例)
第五十条 法務大臣は、前条第三項の裁決に当たつて、異議の申出が理由がないと認める場合でも、当該容疑者が次の各号のいずれかに該当するときは、その者の在留を特別に許可することができる。
一 永住許可を受けているとき。
二 かつて日本国民として本邦に本籍を有したことがあるとき。
三 人身取引等により他人の支配下に置かれて本邦に在留するものであるとき。
四 その他法務大臣が特別に在留を許可すべき事情があると認めるとき。
2 前項の場合には、法務大臣は、法務省令で定めるところにより、在留期間その他必要と認める条件を附することができる。
3 第一項の許可は、前条第四項の適用については、異議の申出が理由がある旨の裁決とみなす。
Q2: 在留特別許可の要件(基準)は何でしょうか?
A2: 在留特別許可というのは、「法務大臣が特別に在留を許可すべき事情があると認めるとき」、になすことができます。そして、実際には、判例と先例の集積が判断基準になります。
一般に許可の可能性が高いのは、日本人配偶者があり、同居期間も長く、子どももいて、日本人側に収入や職業が確かで、偽装婚等の嫌疑に乏しいような事案です。また、社会事情等の変動により、許可率も変動します。
この点、入管実務においては、日本人等の配偶者がいるなどの特定の事情において類似する案件を分類し、類似の先例などと比較しながら判断するという事務手続も採られています。しかし、あらゆる事情が全く同一の案件は存在しないため、機械的に結論を決定するというような意味での類型的処理を行っているものではない、とされています。
Q3: 日本人配偶者に該当しないときでも在留特別許可は与えられるのですか?
A3: 与えられることはあります。たとえば、定住者の在留資格を与えられることがあります。在留特別許可はその許可により、それぞれの申し出人の在留状況に適合した在留資格が与えられます。たとえば、「留学」もあり得ます。
Q4: 私はオーバーステイしています。日本人との間に子どもがいますが、彼には別の奥さんがいるので結婚はしていません。胎児認知はしています。在留特別許可はどうでしょうか?
A4: このケースで入管実務でもっとも問題になるのは、その子どもの父親たる日本人と、あなたの関係がどう評価されるか、です。この点、入管の審査官にも色々な考え方をされる審査官がおられ、微妙な事案では、審査に関わる全ての審査官の意見が一致するとは限りません(裁判官で、多数意見や少数意見が生じるのと同じことです。)。
すなわち、そのような場面では、「愛人関係」であるとして、在特に強固に反対する審査官が実在するのです。しかも、珍しい存在ではありません。
また、この場面では、あなたと子どもの父親に婚姻意思のある婚姻関係が無い限り、お二人の関係それ自体は入管法上の保護には値しない、という認識においては入管での審査官の見解はほぼ一致しています。
そこで、問題になるのが、子どもの保護です。子どもが親と同居等をする権利ないし利益等の見地から判断されます。つまり、仮にあなたが在留資格を得られるとしても、それは子どもの保護の「反射的利益ないし反射的効果」ということになります。
ですから、在特の申し出に際してはこのような人道的理由をよく説明することが大切です。立証責任は申し出人側にあり、きっちりと立証(疎明)資料を揃えてください。
Q5: 私はオーバーステイで、日本人と婚姻していますが、子どもはいません。私のビザはどうなるでしょうか?
A5: 子どもがいなくても在留特別許可はなされ得ます。
Q6: 私は日本人ですが、この度、オーバーステイの外国人の妻と婚姻し、在留特別許可を得ました。ところで、私は自営業で外パブを行っています。フィリピンパブなのですが、妻にお店を手伝ってもらってもよいでしょうか?つまり、更新の審査に響かないか、ということなのですが?
A6: 通常、その場合、在特で配偶者の在留資格を1年のデュレイションで許可されているはずですから、すぐに更新の審査がされることになります。この場合、基本的には、夫婦関係の実体を疑われるような行為は避けるべきです。一概には言えませんが、ご自分自身がフィリピンパブの経営者でしたら、入管は店で働かせていたら、夫婦関係に疑念を持つことはありえます。
Q7: 在留特別許可を与えられた妻の連れ子をフィリピンから呼ぶ方法はありますか?
A7: あります。一般には、定住者の在留資格認定証明書の申請を行います。ただ、この場合の特殊性として、フィリピンから呼ぶわけですから、フィリピン法上の問題として、未成年を国外に連れ出すときは、フィリピン政府等の許可が必要な場合があります。つまり日本の入管とフィリピンの政府等の両方の許可が必要なわけです。
この点、フィリピン本国政府からの私宛の直接の回答書(英文)を持っています。日本の移民法律家という立場で照会したものです。
それによりますと、基本的には、その子どもに父親がいるか否かで異なり、父親がいるときはその父親の同意が原則必要であるとされています。
他方、これがいないときは基本的には当局の許可は不要ですが、事案によっては異なりますし、フィリピン法の改正もあり得ますから、その都度、フィリピン政府に確認せねばならないでしょう。
Q8: 在留特別許可がされたあとは何をすればよいですか?
A8: まず、外国人登録の変更を行ってください。また、本国に一時帰国するときは、必ず再入国許可を得てください。本当に再入国できるのか、と心配されるかたもおられますが、特段の事情がない限り、問題なく再入国できます。さらにパスポートの期限等が切れていましたら、再発行や期限延長を行ってください。ちなみに、許可時には、仮放免許可書も持ってゆきますので、紛失されないようにされてください。
Q9: 在留特別許可の申し出をしたのに、特別審理官にも、「不法残留」と認定されてしまいました。いよいよ強制送還かと思うと夜も寝れません。私はどうなるのでしょうか?
A9: 在留特別許可は、申し出をしたところで、許可が保障されているものではありません。
しかし、もしあなたの事案が許可に値すると判断される事案なのであれば、近いうちに許可は出ます。ただ、専門家としての経験上、夫婦相互にお互いの知らない部分が多すぎると問題が生じることが多いです。
Q10: 在留特別許可と上陸特別許可は何が違いますか?
A10: 在留特別許可は、あくまで日本に在留している場面です。他方、上陸特別許可は、これから日本国内に在留しようとする場面です。この両者は別個の制度ですが、ある程度パラレルに考えられます。具体的には、5年間上陸できない期間内に早く上陸したい、というような場面で問題になります。その判断基準は、基本的には、在留特別許可のそれと同じなのですが、いったん帰国している以上、在留特別許可よりも厳しく判断されているのが、実務の運用です。
[注]上特の判断基準につき、比較的最近、実務の内部基準の概要が出ています。
ただ、その後、出国命令制度ができたので、2004年度春ごろから見られた基準は、出国命令制度の帰結と重畳する限度で把握する必要があると解されます。なお、新法につき、遡及適用はありません。したがって、従前の被退去強制者に直接適用はありません。但し、本省局長の国会答弁では、配慮はされると答弁されています。
Q11:日配での在留特別許可の審査基準の基本的な視点は何でしょうか。
A11:一応以下の視点を持つことが可能です。ただ、実際には色々な必要性と許容性の比較衡量と考えられます。Dが最難ということになります。扱ったDの事例で、売春中に摘発され、しかも日本人夫が事実(妻の売春)に不知という事案があります(消極)。Bの事例ですと待婚期間中だった案件があります(積極)。Aですと、10年オーバーステイというのがあります。Cは事案によってはAと大差ないこともあります。いずれにせよ、類似の事案というのは案外多いものですから、当事者のみで判断せず、客観的な第三者の意見も聞くほうがよいでしょう。
[注]
あまり単純化して考えるのは危険です。また、不法滞在の中には、人身売買で海外から誘拐されてきた事案や、家庭内暴力(DV Domestic Violence。夫や恋人からの暴力。)の被害者もおり、夫からの暴力から逃れる間に在留期限を徒過してしまう事案や、夫が外国人妻を意図的に不法滞在状態に陥れ、強制送還を企むような事案まであり、一概に非難可能性を判断できるものではありません。
・カテゴリーAの例
不法滞在(オーバーステイ)のみの事案で、自主出頭した場合。
・カテゴリーBの例
摘発後婚姻したが、かかる婚姻が退去強制免脱目的と認められないような場合。
・カテゴリーCの例
偽造旅券、不法入国、その他の刑事事件があったが、自主出頭した場合。
・カテゴリーDの例
偽造旅券、不法入国、売春、窃盗等があり、なおかつ摘発後婚姻の場合。
Q12:自主出頭で収容される例はありますか。
A12:あります。これは地方局によっても若干違います。また、最近、一部外国人の間には、入管を軽んじる傾向も出てきたため、「見せしめ」の恐れもでてきています。
なお、近時、入国管理局は、オーバーステイ・不法滞在者・不法就労者等の情報に関する市民からの匿名での通報を専用のフォームで受け付けるようになりました。早速、わずか数日で約200件もの不法滞在者等への通報があったと報道されています。匿名での通報を認めていますので、いつ隣人や元恋人や三角関係の相手方が通報するやもしれません。ちなみに、実務家としての所感を申し上げれば、実際には、ある外国人を追い出したいとの不当ないし違法な目的で、虚偽の通報をするケースも存在します(虚偽告訴罪の構成要件に該当する場合があります。)。
Q13:国会で制定された新入管法ではどうなりますか?
A13:アメとムチの制度です。
(1)不法滞在(オーバーステイ)の罰金は、30万から300万円に引き上げる。
(2)悪質な不法滞在者(オーバーステイ)の上陸拒否期間は、5年から10年に引き上げる。
(3)出国命令制度(新設)の適用がされた場合に限り、上陸拒否期間は、1年とする。
(4)在留資格取消制度を法定し、偽りその他不正の手段により上陸許可を受けたり、在留資格に応じた活動を正当な理由なく一定期間行っていないなどの外国人につき、在留資格を取り消しする。たとえば、勤務先を辞めた後や学校卒業後、何もやっていないときに取り消される、等の例が考えられます。
(5)その他(省略)
Q14:自分たちだけで準備してできるでしょうか。
A14:裁判で本人訴訟を行って勝訴できるかどうか、と同じ類の質問です。「宝くじ」でもよいのであればそれでも足りるでしょう。普通の人でも、少なくとも、業界関係者等、事情をよく把握している人に相談くらいはすると思います。
Q15:摘発先行ケースで、摘発時の同居期間について、一定の長さを要求することが言われてきましたが、現在はどうでしょうか。
A15:未だに、基本的には、存在すると解されます。少なくとも、無関係とはいえません。
Q16:全く仮装の申請資料により、短期等で入国した場合、在留資格の有効性はどう考えるべきでしょうか。
A16:私見では、法秩序全体の精神を規律する民法96条1項等の規範に準じて解釈します。実務的には、短期で上陸した案件でも、実体は、欺罔>錯誤>処分行為>財物、利益移転、の事案は多いです。高度な違法性が存します。実例で7年程度前の欺罔行為が発覚し、退去強制された事案もあります。招聘人は通例、共同正犯です。
Q17:なぜ不法滞在や不法就労がよくないのでしょうか。
A17:従来、この制度趣旨がなおざりにされたまま、徒に不法滞在や不法就労がよくないものとして、摘発されているようにも見受けられます。法哲学的見地、経済学的見地、社会学的見地、刑事政策的見地、等があり得ますが、大きいのは、経済学的見地(脱税やいわゆるフリーライダーが常態になるほか、畢竟、GDPを押し下げる等のエコノミストの指摘あり。)と刑事政策的見地(犯罪の温床や誘発になる。)かもしれません。法哲学的見地については、坂中英徳氏他著の入管法のコンメンタールの序論部分には、刑事法で有名ないわゆる「カルネアデスの板」的な見地も指摘されています。また、一般に、日本の労働組合等が、賃金低下等の労働条件の悪化等を理由に慎重な姿勢を見せていることも配慮は必要と思われます(人流2005May・12頁)。労働組合等が反対するのは、米国も同様で、国際的な傾向と思われます。
低賃金労働者が多数入れば、それまで低賃金で就労していた既存の労働者(多くの日本人を含むが、日本人には限られない。)の労働条件が(リストラ等で)悪化するわけです。見えないところで既存の労働者の生存権(憲法25条)を侵害することすらあるかもしれません。
こうしてみれば、就労ビザの範囲等の問題は、経営者側と労働組合の調整の問題だと言い換えることも可能です。なお、私は特定の見解を採用するものではありません。
Q18:在留希望で出頭申告した場合で、審査中に翻意し、帰国を希望する場合、出国命令制度の適用の余地はなくなるのでしょうか。
A18:その場合でも警備部門で調査段階にとどまっているような場合、適用される場合はありますが、仮放免にまで至っている場合には、適用できないと解されています(東入、本省)。また、今回の出頭申告以前に、過去において、出頭申告しながら所在不明になった前歴があるような場合にも適用されないと解釈されています(東入)。
Q19:オーバーステイでの申請は権利でしょうか。それとも権利とは言えない性質でしょうか。
A19:たとえば、オーバーステイに関連する入管法49条以下で権利有りと解することや慣習法などと見ることもできますし、少なくとも、憲法16条に「請願権」が規定されております。しかもこれはいわゆる「抽象的権利」ではなく「具体的権利」です。ただ、請願権の場合、「お願いする権利」ですから、強制力がないと言えます。そして、16条には「何人も」と規定されていますから、いわゆる「文言説」を採ろうが採るまいが、外国人にも憲法上の人権として保障されています。このあたりは憲法解釈の問題です。ただ、仮に請願権の行使とみると回答義務が無くなってしまいますから、入管法49条以下を根拠とすることになりそうです。なお、実際の実務現場では、憲法等はあまり意識されておらず、オーバーステイ含めた入管の手続きでは、ほぼほぼ、入管法のみが意識されます。実際の公務員の方からすれば、憲法のような抽象的な規定では日々の仕事の上での手続きの枠組みにするのは困難であるとか、またオーバーステイの場合に、日本人配偶者を結婚し、配偶者ビザを希望しても、入管法に明確に書いていないならば、良くも悪くも、広汎な裁量権があるとしか解されない、といった見解があるようです。この「良くも悪くも」「裁量権」の部分は重要でして、仮に法律を改正して、明確に「申請」という言葉にしたとします。その場合に制度の枠組みから漏れてしまった国際結婚夫婦はどうなるかですが、明確に対象外にした以上は、オーバーステイに対する裁量権が狭くなったので、文字通り、ダメですと解釈するほかないという考え方が強まることもありえます。具体的には、退去強制令書発付後のオーバーステイ国際結婚夫婦のケースです。近年の法改正案ではこの場合が対象外となるような立法論もあったと聞きます。