「ブログ」的なものでも情報発信自体は創業当時から継続しており、ブログ歴20年以上となります。イミグレーション戦略コンサルタント兼行政書士の私たちも、多忙の中、皆様に少しでも情報を送り届けたい、という気持ちでおりますが、リアルのサポートを待っているお客様もおられ、頭の中に入っている情報量のわずか1%程度しか書けません。しかし、今後とも、情報発信の姿勢、内容の柔軟性に留意しつつ、書いてまいります。
移民法学エッセイ3
3:「摘発・収容されたとき」
このページは収容の話です。
大切な人が摘発・収容された場合、様々な対応策が必要です。もし今そのような状況にある場合、冷静かつ迅速な行動が必要でしょう。
まず、多くの事案は、日本人等と婚姻しているのか否かで変わります。但し、日本人と婚姻していてもそれ自体が在留を保障するわけではありません。いずれにせよ、婚姻していなければ、その方と婚姻する意思があるのかをはっきりさせることです。
以下は同居の実績があり、なおかつ日本人等と婚姻している(又は婚姻する)場合を前提に概説致します。日本人等には、特永者等も射程に入ります。法的な解釈論・実務運用の説明です。
【刑事手続】
まず、警察に摘発されたときは、刑事手続きの問題になります。警察・検察の場面では最初の段階では送検しないことや、起訴猶予を求めることが中心になることが多いでしょう。この段階では、早急に私選で弁護士を付けることをお奨め致します。入国管理局は行政権なので、その仕事は行政書士ですが、裁判所は司法権ですから、それは弁護士の仕事です。国選弁護士よりも私選弁護士のほうが色々と弾力的な対応ができると思います。
もし起訴されたときは、裁判になります。オーバーステイはそれ自体が犯罪ですので、ただのオーバーステイでもその長さ等によっては起訴・処罰され得ます。裁判になった段階では、保釈や執行猶予を求めることが主な防御活動になるでしょう。ただ、在留資格の無い外国人や、在留資格があっても配偶者等が無く、特段の事情の無い外国人の場合、保釈が困難なのが通例です。なお、執行猶予と起訴猶予は全く違います。起訴猶予は検察官の職権で行うものであり(刑訴248条)、有罪を前提とする執行猶予と区別されます。
ここで、注意しておきたいのは、外国人の場合、起訴猶予や執行猶予になっても釈放されるとは限らない、ということです。つまり裁判終了時点で、在留資格がないときは、執行猶予を得ても、判決言い渡し直後に、傍聴席の最前列あるいは最後列等で控えていた入管の職員がそのまま入管へ連れて行き、そのまま退去強制手続を始めるのです。
【渉外戸籍手続】
したがって、そもそも警察に身柄拘束された直後から、入管のことを射程に入れた法的防御が必要なのです。具体的には、婚姻していない内縁関係であれば、渉外婚姻手続きにつき、迅速に完了し、外国大使館領事部(館)や本国政府等と速やかに手続きを終えねばなりません。
一例ですが、たとえば、収容されている方が中国人でなおかつ、婚姻していないとき、婚姻要件具備証明書を中国大使館領事部から得るには、被収容者と手紙でやりとりしたりする場合も無いとはいえないので、かなりの時間がかかることも想定されます。中国は婚姻については本人出頭主義をかなり徹底するためです。訳文の手配も失念してはなりません。
ただ、実務的には、入管収容等の身柄拘束状態の場合(収容されていない場合に比べ)、具備証明書が無くても、即日受理可能な場合が広がるという見方もありえます(いわゆる申述書に加え、請願書等での説明の仕方にもよる。また、区市町村の担当者にもよる。)。中国の場合、役所でも件数が多いので、近時は弾力的な対応も見られます。
なお、具備証明書のないときのいわゆる申述書に関しては、差し入れ+署名+即時宅下げになります。また、旅券は警察は、なぜか宅下げする場合がありますが、入管はまず宅下げしません。その場合は処遇部門で謄本を発行して頂きます(本人申請。原則、翌日交付。なお、旅券のないときは、中国の場合は、国籍公証書で代用。)。これらは広い意味では、「渉外戸籍手続」とか「渉外戸籍法」などといいます。
その一方で、担当官との交渉も必要ですし、お二人の婚姻関係の実体の存否の証拠資料をいかに集めるか、また、無いときはいかに収集するのか、周到に配慮が必要です。実務的な感覚で一番重要なのは、スピードです。
【入管手続】
さて、起訴猶予になった、又は執行猶予により入管へ引き渡されたとき、あるいは最初から入管に収容されたとき、それ以降は、入管での手続きになります。これは刑事手続きとは区別される行政手続きです。警察と検察も全く違うのですが、それらと入管も全く違います。このような外国人のオーバーステイ関連案件では、入管が本人の在留を許可するか否かの法律上及び事実上の決定権を有しています。つまり警察や検察にはそのような権限は無いのです。したがって、どうしても大切な人を守りたい、いっしょに暮らし続けたい、と考えるときは、むしろ入管という「行政」との手続きが重要になります。
誤解を怖れずに言えば、はっきり言って、入管法違反だけの場合、裁判所で有罪判決を受けても受けなくとも、入管での審査には大きな影響を与えない事案もあります。裁判所で有罪判決を受けなくとも、不許可になって、退去強制される事案は無数にあるし、逆に、裁判所で有罪判決を受けても、在特される場合もあるわけです。裁判所のほうが重要ではないと言うつもりはないですが、入管のほうがはるかに重要なのは確かです。
入管では、入管法に規定された退去強制手続きにのっとって、手続きが進行します。原則、30日という期間制限があります。つまり、特段の事情のない限り、その期間以内、とりわけ口頭審理までには、原則、証拠資料の一切を提出せねばなりません。また、担当の審査官、特に、審判部門の特審官や統轄等の十分な理解を得ることが必要です。
実務の実情ですが、彼らは朝9時から夜23時まで入管に残って仕事しているほどハードワークです。山のような資料を抱えています。したがって、分かりやすい審査資料を用意しなければなりません。たとえば、出す書類には一覧表や法的な立証趣旨を明確に付けておくのが望ましいでしょう。また、付箋を付けて、何の資料なのか明確になるようにしてください。さらに原本が必要なものとコピーでよいものとをはっきりと分け、原本なのか写しなのか付箋で明示しておくべきです。写真については何の写真なのか説明書きを付してください。また、交際経緯を証明・疎明する写真はパブリッシングソフトで編集して写真記事風にして提出するのもよいでしょう。特に請願理由乃至申請理由は重要であり、具体的かつ詳細である必要があります。収容案件では陳述書だけでは通常、不足です(厳密に言えば、収容先行案件では、いわゆる在宅用の陳述書が要求されるわけではなく、基本は、供述調書中心。)。
さらに、在留特別許可の嘆願の資料の提出と併行して、仮放免許可申請も行わねばならないことが多いでしょう。そして、入管では、在特許可のための資料を提出する部署と仮放免を申請する部署は違うことにも注意が必要です。これらに加えて、請願書の収集や親族の理解、本国のご家族との連絡、及び収容されている方のメンタルの支援も必要です。また、在特用と仮放免用とで、資料の相互重複の調整等も行う必要があります。
このように入管との手続きが始まっている時点で、婚姻要件具備証明書の入手困難や待婚期間や離婚等、何らかの事情で婚姻手続が遅滞していたときには、区市町村の戸籍担当部署(戸籍課、市民課等)で、婚姻届の受理伺い証明書や、預かり証明書を入手するよう努め、それを入管に提出するのが相当な場合が多いです。但し、日本人と異なり、外国人との婚姻届には様々な添付書類が必要ですから、書類不十分の段階では区市町村は通例、難色を示します。
ある意味最後の「取調べ」になるのが口頭審理です。口頭審理は極端な場合、朝の10時から夜21時までかかることもあり得ます(普通はそこまではかかりません。)。口審まで来た時点では、収容からかなりの時間が経っています。この間の被収容者に与えているメンタル面のダメージは、少なくありません。
以上のように、手続きは進みますが、最初の段階で出張所(警備の)で配偶者の調書を作成する場合もあります。いずれにせよ、最後は法務大臣(or地方局長)の判断へ至ります。そこで在留を特別に許可するかどうかが決まります。もし、法務大臣等が不許可にしたときは、場合によっては訴訟になりますが、全体から見ると、非常に稀です。理由は、被収容者が、長い裁判中の収容の継続に耐えられないからです。
ただ、元来、日頃から入管という「行政」に出入りしていて一番詳しいのは行政書士ですから、本来、行政訴訟への関与は、税理士の税務訴訟と同じで、立法論上、検討すべきでしょう。入管関係の勝訴率が低いのはこれも原因の一つと解されます。
それにしても、なぜ行政書士試験に「行政事件訴訟法」や「国家賠償法」が業務に関し必要な「試験科目」になっているのでしょうか。必要ということは活用すべきだということですよね。東京地区の行政書士だけでしょうか。こういう関心があるのは。
正直な話、審判の統括の意見として「できるだけ透明にしたい。」という話を統括から直接聞いたこともあります。透明な行政の実現は国民の利益になるわけですから。
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さて、努力が実り、彼女(彼)が帰って来るケースには二種類あります。一つには在特された場合、一つには仮放免された場合です。収容後の駆け込み婚ケースで妻や夫が帰って来るケースもあります。退令発付期限の数日前の場合も多いです。但し、必ずしも多くあるケースではありません。関係者の深甚なる努力、法的支援、入管の理解、等の総合です。
なお、入管法ではなぜか「容疑者」と書いてあります。刑事手続きでは「被疑者」です。このことは法律の専門家の先生方でも周知されてはいないでしょう。つまり「容疑者」はマスコミ用語の俗語であり、「素人」の方が使うものだ、というのが法律業界ではかなりの社会通念とも言えますが、実は入管法ではなぜか「容疑者」という法文の文言があるのです。