配偶者ビザ申請の際の出入国在留管理局の考え方につき、本稿では、「IF (イミグレーション・フロード)の疑義」という切り口からポイント等を解説致します。
配偶者ビザ申請の際の出入国在留管理局の考え方について知っておくべきこと
イミグレーションの基本な考え方は実は国際的には共通する部分が大きく、特に日本のイミグレーション制度は米国のイミグレーション制度を参考に設計したものとされています。日本人がアメリカに渡航する場合に、「自分にはアメリカで”人権”が保障されているので、入国を認めるように。」という主張がアメリカに通用するでしょうか。アメリカではアメリカ人と結婚している場合でもビザは保障はされません。同じように、外国人が日本に渡航する場合に、「自分には日本で”人権”が保障されているので、入国を認めるように。」という考え方は、既に日本の最高裁判所で「外国人に入国と在留の人権はない」と否定されています。つまり外国人に関する制度では、普通の国内の一般的な社会の仕組みとは、全く異次元の制度になっているため、常識が通用しない部分があり、頭の切替が必要です。
「外国人に入国と在留の人権はない」と否定された最高裁判例を「マクリーン事件」と言います。日本のイミグレーションはこれが全ての根幹だということを理解することが非常に重要です。
一 外国人は、憲法上、わが国に在留する権利ないし引き続き在留することを要求しうる権利を保障されていない。
二 出入国管理令二一条三項に基づく在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由の有無の判断は法務大臣の裁量に任されている。
※引用:裁判所
IF (イミグレーション・フロード)の疑義とは
IFとは、“Immigration Fraud”(イミグレーション・フロード)の略であり、イミグレーションに関する不正行為と好ましくない行為の総称を意味します。
イミグレーション・フロードについては、「自分たちには不正はないので全く関係ない」と考えの方も多いのではないでしょうか。しかし、イミグレーションは「外国人」を専門としており、「普通の行政機関」ではないため、実際のイミグレーションの現場はそれとは異なり、「いかなる善良な人でも関係があります」。具体的には、イミグレーション・フロードは、本人が意図的か善意かを問わないこと、及び、イミグレーション・フロードの疑義があれば不許可にできる権限がイミグレーション側にあること、これが重要なことです。たとえ善意であっても、イミグレーション・フロードの「疑義がある」とイミグレーション側で判断すれば、「許可できない」=不許可、ということになります。また、イミグレーション・フロード「の疑義はない」ことの立証責任は、イミグレーション側には存在せず、申請する個人の側に、そのことを証明するようにと、責任が課されます。ですから、いかなる善良な人でも関係がありますので、知識として押さえておくべき事項です。なお、私たちはイミグレーションの現場のプロですので、以上の事項は机上の空論ではなく、エビデンスがある実際の、しかも多数の実話に基づきます。
在留や入国の手続きにおいて事実と異なる情報や虚偽情報を提出したり、不正に在留資格を獲得しようとしたりすることを、国際的な用語で、「Immigration Fraud」といいます。「Immigration Fraud」は様々な国がその対策に力を入れる国際的なイミグレーション問題になっています。
DF(ドキュメント・フロード)の疑義とは
「Immigration Fraud」は、多様な形式で行われます。DF(ドキュメント・フロード)とは、Document fraudの略で「文書不正」を意味します。
具体的には、事実と異なる書類を提出して在留資格を取得しようとする行為や、存在しない架空の会社に就職していたことを装ったり、架空の雇用のポジションに就職を仮装する行為などが挙げられます。
Document fraudは、意図的な場合は、在留許可の申請が難しいため、あるいは金銭的利益や社会的地位のために行われます。ただ、Document fraudは故意ないし未必の故意の場合には、犯罪の構成要件該当性があり、在留資格の取り消しや不法残留や国外退去などのリスクがあります。
では、故意ないし未必の故意ではない、過失の場合はどうでしょうか。ほとんどの方は、悪意はないのではないでしょうか。しかし、審査官から見た場合、故意、未必の故意、過失。どれなのかは、直ちには「見えない」のです。なぜなら、故意、未必の故意、過失はいずれも「主観的構成要件要素」だからです。そして、イミグレーションの審査の実務上は、申請人が、ある特定の書類につき、Document fraudの疑義がある場合に、それが故意、未必の故意、過失なのかを特定する必要はありません。
具体的には、「虚偽」とは事実に反することを言いますが、イミグレーションでは客観的真実を調査するとは限りません。なぜなら限られた審査時間しか個々の案件には割当できませんので、よりシンプルに不許可にできるなら、審査官はよりシンプルな方法を選択します。例えば、第一申請で出された資料と、第二申請で出された資料に食い違いがあれば、いずれが真実か不明ですので、イミグレーションの審査官は、疑義ありで不許可にできます。また第二申請内の資料相互に齟齬があれば、疑義ありで不許可にできます。第一申請と、第二申請に疑義なくとも、第一申請と、第三申請との間に齟齬があれば、疑義ありで不許可にできます。
イミグレーションは元々、構造的に齟齬が生じやすい分野です。具体的には、COEの申請にせよ、必ずしも本人が直接申請はしておりません。入管法上の代理人である学校や企業等が申請していたりします。そのとき、代理人である学校や企業等は本人が意図しなかった資料を勝手にイミグレーションに出している場合もあります。配偶者ビザも、前の結婚では、今とは別の「本体者」が代わりに申請していることもあります。また申請資料は本人が全て作成しているわけではありません。さらに言語や通訳の壁もあります。難民認定申請等では、そもそも本人は書いておらず、たまたま近くにいた外国人に書いてもらっている場合もあります。そして資料は出せばよいものでもなく、過去の資料の中に、不適切な資料や余計な資料が混じっている場合もあります。
以上のことから、配偶者ビザを新規に申請して行く場合、それが第二申請の場合には、第一申請を、第三申請の場合には、第一申請と第二申請を、必要に応じて、内容を確認しておくことが重要なポイントです。そして、直接的に内容を確認できない場合には、本人に聴き取りし、内容を確認しておくことと、もしも本人もよく知らない場合には、現存する可能な限りの資料と状況から、どのような申請だったのかを可能な限り正確に推理することが大切です。
MF(マリッジ・フロード)の疑義とは
MF(マリッジ・フロード)とは、Marriage fraudの略で「婚姻不正」を意味します。
マリッジ・フロードはイミグレーションにおける深刻な問題であり、出入国管理局はこれを厳密に審査しています。
マリッジ・フロードは結婚する本当の「意思」がない場合を言います。
一見すると、ほとんどの方はこれには関係ないように見えますが、実際はどのような夫婦でも関係があります。
それは次のことが理由です。
(1)立証の世界では、「意思」は主観的な要素と言い、目には見えません。
(2)マリッジ・フロードではないことの立証責任が当事者にあって法務省(入管)や外務省(在外公館)は立証責任を負わないこと。
(3)マリッジ・フロードかどうかを法務省(入管)や外務省(在外公館)が特定(立証)する必要はなく、「CCMS(婚姻のCredibility, Continuity, Maturity, Stability)」=婚姻の信憑性・継続性・成熟性・安定性に「疑義」があると、個々の審査担当官が「疑義」が「ある」と(裁量権を行使して)「考えれば」、「不許可にできる」仕組みだからです。
では具体的にはどのようなことなのか、詳しく見ていきましょう。
まず、審査官の立場でみることが重要です。
この点、裁判や入管などの立証の業界では、「権利外観理論」という非常に重要な概念があります。
「権利外観理論」は外観を作り出した者はその責任を負うという考え方です。
そして審査官は、限られた審査時間で行う外観(=書類と証拠あるいは申請人の過去から現在に至るまでの状況と入管が既に持っている申請人の情報やデータの)審査が初動の基礎になることに注意致しましょう。
まず、架空の結婚では、通常、夫婦間のコミュニケーションが不足しているのが通例です。
すると、文化や言語が異なるカップルの場合で、夫婦間のコミュニケーションが不足している(かのように外観=書類と証拠と既存データで見える)結婚は、許可されないマイナス要因を抱えることになります。
また、架空の結婚の特徴は、友人や家族とのつながりが希薄であることです。
すると、夫婦に共通の友人や家族のつながりがほとんどない(かのように外観=書類と証拠と既存データで見える)場合、イミグレーションはその関係の信憑性に疑義があると認められる等と決裁書類に記載して、これも許可されないマイナス要因になりえます。
さらに、また、MF(マリッジ・フロード)は、短期間で結婚を決め、同棲歴もないカップルが一般的です。そうすると、カップルが出会ってしばらく経ってから結婚を決めた場合ではないケースや、同棲期間がない場合や、短い場合(であるかのように外観=書類と証拠と既存データで見えるとき)にもマイナス要因になりえます。
他にも様々なケースがありますは、一番のポイントは、「本当は違う」、「誤解である」場合でも、裁判と同じで、「時機に遅れて提出された攻撃防御方法」は却下されますし、刑事手続と同じで、いったん初動の審査や調査の段階で、一度、疑義(嫌疑)ありだと、内部文書で事実認定して書かれてしまった後は、それをリカバリーするのはハードルが上がるのが実情だという部分です。
またこのような審査に関わる行政の共通事項で、許可・不許可の要素を曖昧にすると、決裁実務では差し支えますし、疑義ありだと書類に書いた審査官の組織内での立場もあります。このため、いったん疑義あり方向になった場合には、不許可の要素としてピックアップできそうなものは、あらゆる不許可の要素をピックアップする方向に審査官が動いてしまうこともあります。
このような理由から、一般の方でも疑義ありになり、配偶者ビザが発給されない可能性があります。そのため、ご夫婦で十分な立証構成を考えることが重要です。
まとめ
米国の移民法令では、『移民マリッジ・フロード修正事項』(Immigration Marriage Fraud Amendments)というのがあり、これによると、日本で言うところの配偶者ビザは、米国では条件付きのものであって、原則として、移民ビザ取得後2年を経過する直前の時期に米国の入管で、(それまでの約2年の)「結婚が有効なものであったこと、及び、現時点でも有効であること(was and is a valid one)を証明」しなければならず、証明できない場合には、国外追放(deportable)となりうるという非常に厳格な制度です。
If they cannot show their marriage was and is a valid one, we may terminate their conditional immigrant status and they may become deportable.
※引用:米国政府
では日本のイミグレーションではどうかというと、全く同じ法令はありませんが、実は無関係ではありません。具体的には、イミグレーションのプロとして現場の入管の審査の実情で申し上げると、日本の入管も実務では同じようなことを(配偶者ビザ取得後の更新審査のとき等に)職権で行う場合があります。米国との違いは米国はそれが明確に制度化されている点です。
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