弊職はイミグレーションコンサルタントがメインで、それに行政書士が兼備している立場ですが、職務上、弁護士や税理士の先生方に依頼されたりします。実際にも弁護士会の元監事の弁護士等からも依頼されますし、近時では面識のない弁護士や税理士や司法書士や社労士等の先生に、ご紹介頂いているようです。最近に至っては、同じ行政書士からまでお電話を戴きますので、この場を借りて、御礼を申し上げます。
移民法学エッセイ4
4:「行政書士が教える入国管理局」
ちなみに弊職は、憲法、民法、刑法、商法、刑事訴訟法等の司法試験を教えていた経験もあります。早慶や中大、東大の学生、社会人、主婦等を中心に、先生方ご存知の論文などは数千人分は採点させていただきました。1クラス100人くらいを相手にマイクを握って教えていたこともあります。当時は、国家一種試験をクリアして、現在、官僚として勤務中だという方にも教えたことがあります。ですので、私に採点された先生方も必ずおられることでしょう。ちなみに、直接、口頭で指導させて頂いた方の中にはその後、裁判官になられた方もおられます。また、事後的な検証なのですが、当時、いわゆる「優秀答案」に、私が推薦した方は、やはりその後の「当たり」が多く、私の答案を見る目は正しかったようです。私の場合、答案を採点する際は、研究者の本を50冊くらいは見て採点していました(当時から六法で500冊くらい持っていましたので。)。
ちなみに、このような膨大な論文採点作業等が、意外に行政書士業務に役立っています。たとえば、いわゆる「理由書」の作成です。また、クライアントが作成した理由書を法的な視点でチェックできます。指に豆ができるほど論文をチェックした経験のある人はそうはいないことでしょう。
入国管理局の業界における「理由書」とは非常に重要なもので、弁護士で言えば「弁論要旨」のようなものです。
しかし、現状の行政書士業界で一般に作成されている「理由書」の実態は、司試的な発想でみれば、問題が多く、単なる御願いの文章に過ぎません。たとえば、司試の採点的な言葉で言えば以下のとおりです。
「蛇足があります。」
「不明快です。」
「問題の所在の把握にズレがあります。」
「問われていないことを書いています。」
「意図に答えていません。」
「非論理的です。」
「敷衍されていません。」
「論点抽出力がありません。」
「判例・条文を引用しましょう。」
「問題提起・規範定立・あてはめ、を守りましょう。」
・・・等々。理由書はもっと法化した文章にできるのです。もっとも、入管業界では「定立」すべき規範そのものが定かではありません。実は、入管の「規範」はあまり定まっているわけではないのです。無論、他の法分野の規範も定まっているわけではないのは周知の事実ですが、入管は他の分野と比較しても、ずば抜けて定まっていません。つまり、「規範」はまだ未成熟であり、我々実務家が生成してゆかねばならないのです。入国管理局に来るのは、正直な話、行政書士バッジを付けた人ばかりなのですから、こうした規範を生成する社会的責任があるという自覚も必要だと思われます。たとえば、行書試験にも論文を課すことは検討に値します。単に合格率を2%とか5%とかにするだけでは、「超ウルトラクイズ」と相違ありません。
ところで、当時は、熱心に書いた方には申し訳ありませんが、論文の採点は「あら探し」が採点の主要方法でした。試験委員もそうなのではないでしょうか。ただ、男性と女性とで、答案を書く能力(知識や技術)には、全く能力差がないことに、当たり前のことですが、感慨を深くしたものです。
さて、思いますに、その「あら探し」は入国管理局の審査に通じる側面があるように思われます。大量の文書を審査する場合、どうしても「あら探し」になり易いように思われます(この趣旨は現場の職員からも聞いております。)。成田空港等での上陸拒否に至っては、いったん止めた以上、ほとんど言いがかりに近い理由(一般人が回答できないような質問までされます。)で上陸拒否されることもしばしばです。
そこで、ここでは、入国管理局がどのように特殊なのか、等を、まとまりの無いもので、失礼致しますが、若干言及致します。なお、決して、悪意(民法的に言えば悪意というよりは害意)はなく、事実です。
まず入国管理局の世界は基本的に「(任意)代理」という概念を極力否定しています。もうこんな話は昔話になってしまったかもしれませんが、昔、ある弁護士の事務所からある日電話がありました。「入国管理局に代理で申請に行ったら、受付拒否された・・・。」。伺えば取次資格もお持ちで無いのに取次しようとされた、とのことです。従来は、「弁護士」資格では「取次」はできませんでした。最近になって、司法・行政改革の一環で、行政書士だけでなく、弁護士にも認めましょう、ということにようやくなったところです。ただ、入国管理局の代理は法定されている代理人との混同に注意が必要です。
最近は弁護士会(日弁連)での入管業務の研修会の講師にH先生等の行政書士が迎えられているようです。これを機会に行政書士会と弁護士会とでもっと協働してよいのではないでしょうか。
入国・在留の分野でも退去強制手続の分野でも行政書士のほうが圧倒的に多く扱っている現実があります。たとえば、日本で発行されている外国語の新聞をご覧下さい。行政書士の広告で埋まっています。また、ネットで検索しても、入国管理局関係で出てくるサイトは行政書士ばかりです。また、今は亡き英語版タウンページに広告を出していたのも行政書士でした。ちなみに私の場合、タウンページには広告は出しません。タウンページに広告を出しても、取扱業務や事務所の特徴等が不明なまま問い合わせされては、あまり意味が無いのです。実際、タウンページについては、「営業」の電話ばかり来て、迷惑なほどです。
入国管理局への取次ぎ資格等を持っていても、飾りになっている人もかなり多いようです。入国管理局にとって、入管法や基準省令その他の内部基準も知らない方に来られるのは問題なので、勉強が必要です。小生は、入国管理局用の「基本書」を作ったり、入国管理局の色々な情報をデータベース化しております。また、入国管理局も外務省もいつも忙しいようですので、特別扱いを要求しないようにするなど、なるべく負担をかけないような心がけが必要です。たとえば、面会の時間等も決まっておりますので、入国管理局で接見交通権があるわけではありませんから、事前に時間を確認するべきでしょう。
さて、在特の初回出頭で行政書士はクライアントを連れて、たとえば、朝早くから入国管理局前に並んだりしますが、これは電車を待つときの列と何ら差異はありませんので、順番はお守り致しましょう。但し、さすがに入国管理局ですので、油断していると、列を全く無視し、「私は6時から来ていた。」などと主張する外国人も存在しますが。
取次資格を得るには、研修会で定期的に研修を受けねばなりません。このことは取次制度の趣旨からして、将来、行政書士だけではなく、弁護士にも取次権限が与えられても同じでしょう(その後、やはりそうなることとなったようです。)。この研修会には、入国管理局から講師(概ね、実務の最前線にある責任統轄審査官等。近時は、バランスを考慮してか、首席審査官等に格上げ。)が派遣されており、既に行政書士会では伝統のある研修会になっています。この取次は法的には「使者」であるとされています。つまり、入国管理局は「代理」はおろか、「使者」ですら研修を受けないと、取次を認容していないのです。ただ、取次権限は実際には代理権の側面があります。ですから「代理」だと表現することは可能です。代理であると同時に重畳的に使者です。
そして、他の行政法規範と異なり、行政手続法が適用除外されていること、刑事手続で保障されている被疑者の権利が必ずしも入管法の「容疑者」には妥当しないことも特徴です。刑事の手続保障がどこまで準用されるのかは論点ですが、入国管理局に限って言えば、現状ではすこぶる消極解釈に終わっています。
次に、裁判と違うのは、基本的に職権主義であり、当事者主義構造ではない点です。このことは常に入国管理局ではつきといます。しかも証明責任は基本的に申請人側に課されています。また裁判所の職員と、入国管理局の職員は、法的知識の内容が大きく違います。入管法は知っていても、民法(家族法を含む。)や憲法等の知識は裁判所職員等とは違うと解されるのです(一部の職員を除く。)。ですので、ときどき法的社会通念に反する発言や処分に遭遇します。それゆえ、申請人や申告人が法的に不利益を負うことがありますから、そういう点を補うのが入国管理局での法務に関わる法律家の役割ともいえます。
[問題]
外国人の内縁の妻がオーバーステイで(あるいは旅券不携帯等で)逮捕されました。法律家はどうすればよいか。
:まず警察・検察・入国管理局(全て「行政」です。)の役割の違いを理解し、有利な資料の収集と提出に努めることです。ただ、このような場面では、注意すべきは、警察・検察、そして裁判のレベルでも最後に待っている入国管理局での手続きを見据えて対応せねばならないことです。ところが、弁護士の大半は入国管理局のことは知りません。
設例ですが、医師法違反で懲役刑(1年以上)になった外国人の刑事弁護(私選。弁護費用約70万円とします。)を担当した弁護士が、執行猶予判決を得た後、当該外国人に、要旨、こう言う場合があります。「次回のビザは今3年ですが、それが今度は1年になります。ですが日本には居れます。」、と。これはウソです。その証拠にしっかりと更新不許可になってからあわてて当職に相談に来るのです。その種の案件では外国人同士の夫婦であって、特に在留が長期なわけでもない等、在特も非常に困難な類型であるとか、類型論的に見分ける必要もあります。少なくとも、通常の手続きで処理できるものではないことを予測する必要があるのです。
さらにまた、設例ですが、窃盗の弁護で50万円支払った弁護士に今後の入国管理局での手続きが何とかなると聞き、懲役1年半も受けているにも関わらず、通常の「就学>日配」の変更がされるものと信じて4か月待ち、ある日突然不許可通知が来て、当該夫婦が驚愕される場合もあります。これらはよくある事例であり、少しも驚くに値しません。当然です。
それだけではないです。実は、警察も検察もさらには裁判所も入国管理局のことはよく知らない場合が多いのです。入国管理局内部の職員ですら、自分の持ち場のセクション以外はあまり知らないのですから当然と言えば当然です(例、東永=東京入国管理局永住(日配)部門の担当審査官に聞いたら、6階にある調査第三部門の受付時間すら明確に把握していなかった。これは自分の持ち場の把握で精一杯で、他のセクションまで願慮している余裕はないため。)。
たとえば、外国人妻が逮捕され、日本人夫が地検の検察官に会うような場合、書類の山に埋もれた検察官の部屋のソファーで、日本人夫が驚くべき発言を聞く場合があります。担当検察官は、論旨、「え?最近はこういう外国人は入国管理局へ送られると許可されることがあるの?私、勉強不足で入国管理局のこと全然知らないんだけど。ま、あとで入国管理局に聞いてみますから。」等々([注]決して知らないふりをしているわけではなく、本当に知らない。)。
以上のような状況にあるので、こうした一連の手続きを支援する法律家の役割は重要ですが、結局、この種の案件では、全体として、当初から行政書士の意見も聞き、入国管理局へ行ったあとは基本的に入国管理局専門の行政書士等(と申しますより、資格の名称ではなく、本当に専門でやっている人。)に任せるのがよいでしょう。但し、建設業許可申請や風営等を専門に行う行政書士と、入国管理局を専門に扱う行政書士とでは全く違います。名前は同じでも別の資格業者と言ってよいほどです。
なぜ、そう言わざるを得ないのかと申しますと、たとえば、退去強制手続だけ勉強しても意味がないのです。一例を挙げれば、退去強制手続は在留資格該当性を踏まえて判断しなければなりません。したがって、いわゆる「ビザ」、つまり、入国在留の知識も必要なのです。
[設例1]
(あくまで一つの設例です。)
ある日、K行政書士が、クライアントでオーバーステイした外国人との日配案件で、東京入国管理局へ、同伴して行ったところ、8時頃には既に別のA行政書士が門前に陣取っていた。8時半開門で、事情に精通した行政書士たちは、駆け足で6階へ走っていった。「走らないで下さい!」との女性行政書士の声も聞こえたが、どうにも走らざるを得ない場合が多い。K行政書士の順番は三番であった。先陣のA行政書士は、自分が一番だと思っていたが、7時に来たので私が一番だと主張する外国人が現れた。ところが、その後、その一番だと主張する外国人のところへB行政書士が来て、それも行政書士の受任した案件であった。その日は1番から4番まで行政書士の受任した案件だった。B行政書士は余りに慣れているので、入国管理局職員の代わりに、調査第三部門の混雑した部屋で、バスガイドさんのように、順番の整理まで行っていた。(以下略)
また別の日、K行政書士が、クライアントでオーバーステイした外国人との日配案件で、東京入国管理局へ、同伴して行ったところ、その日は朝一となった。K行政書士は、その日は日程が詰まっており、絶対に遅れられなかったので、他の外国人に割り込みされないよう、調三待合のカウンター前で突っ立ったまま、9時を待ち、朝早く着て疲れていると思われる夫妻には座って頂く。08時55分、その日は、仕切ってくれる行政書士がいなかったので、ギリギリまで誰も並ばなかった。しかし、C行政書士やD行政書士らが以心伝心により並ぶように誘導したところ、ぐちゃぐちゃに並びそうになったので、K行政書士も以心伝心により、一列に並ぶよう、「こちらに一列に並んで下さい。」と誘導した。その日の帰り道、同伴した夫妻から、あの人たちはお仲間なんですか?と聞かれたが、仲間ではないものの、いつも来る行政書士が多いし、何回も来ているので、自然にそういうふうになるということである。整理しないと口論になることがあり、私もアメリカ人に、「入国管理局ノマエデケンカシタクナイネ。」などと言われたこともある。当然ながら入国管理局職員が整理してくれることは無い。ただ、あそこ(調三待合)は、いすに座らないで、本来は、最初からカウンター前に並んだほうがよいのかもしれない(行政書士同士であれば、黙示的に1階に朝来た順番だということになっているので、混乱を来たすことは無いが。)。
9時になり、「リョケンは?」「雇用主取り上げ。これガイトウショウ。」「今日は?」「普通のニッパイ。」「書類は?」「あります。」などと職員と会話して、30秒で整理番号一番を引き、迅速処理に貢献。証拠能力を備え、婚姻関係の真実性を証する明白かつ高度の証明力を有する、必要かつ相当で、過剰でもない資料を所持していた夫妻は、午前中前半に、青空のもと帰宅した。なお、入国管理局の場合、行政書士が名刺を出そうとすると要らないかのような対応を採るのに、出さないでいると名刺を求めるという性質があるので、私の場合、原則、入国管理局に名刺を出すことにしている。ちなみに、行書が出したこの名刺は、しっかりと入国管理局でファイルされ、一件記録の目立つところに貼られているとのことである。
[設例2]
(あくまで一つの設例です。)
日本人と婚姻した外国人女性のDさんは、たまたま話をしに行った友人のお店で摘発に遭った。その関係で、日配の更新等の相談をしたくなった([注]まだ期限には余裕あり。)。そこで、夫の日本人のEさんといっしょに、某弁護士会の某有料相談センターへ行った。担当の弁護士は神妙な表情で、外国人カードの表面を見て、「あなたは既に不法滞在です。更新できません。」という趣旨で回答した。夫妻は、入国管理局のことはよく知らなかったので、「そうなのか・・・。」と思いつつ、帰路についたが、その人(弁護士)がカードの表面だけしか見ていないことに気づき、相談センターに抗議の電話を入れた。相談センターは「専門ではないので、すいません。」と誤りを認め、相談料を返金した。夫妻はあきれて知人の紹介でK先生(行政書士)のところへ相談に行き、その話を伝えた。(以下略)
[注意]
外国人カードを裏面まで見なかったのは過失ですが、実際には、客観的には、在留資格の更新がされていても、裏面に記載されていない場合もあります(旅券にはシールを貼ってあるが、カードの手続をしていない場合。忘れる人は多いです。)。つまり、外国人カードは、厳密には、在留資格の有無の判断資料にはなるとは限りません。世田谷区の外国人登録担当の現場の職員さんに聞いた話ですが、「外国人登録制度は形骸化しています。」、とのことで、これは私の実務的な実感とも一致します。
「・・・他者に支えられている私たちは、他者が倒れれば自分も倒れるのであり・・これから必要なことは一緒に生きのびていく知恵であり、行政書士と弁護士との関係も然り、世の中の人々の関係も然りである。・・・」(司法制度改革推進本部ADR検討委員/大東文化大学教授 廣田尚久氏。日本行政書士連合会研修センター開講での記念講演の概要。赤坂プリンスホテル。出典:月刊「日本行政」2004年01月号11頁。)。