在留特別許可
在留特別許可
:在留特別許可で得るにはどうすればよいか。実際のところ、配偶者の事案で、入国管理局の現場では、「不法滞在」はどう評価されているのでしょうか。「オーバーステイ」などというと、軽く聞こえる感もあります。「不法滞在」とか「不法残留」、「不法入国」などというと、重々しく感じます。
重要なのは、在留特別許可を軽く考えてはいけないのは無論ですし、在留特別許可を悲観的に考えてもいけないのです。このサイトを見る人は、ほとんどがおそらく「軽く考えて」いるパターンだと思います。ですので、ここでは、警鐘を鳴らしておきます。
[学者の本 その1]
法律学者(研究者)の書いた本では、在留特別許可はどう説明してあるのでしょうか。実は、学者の世界でも入国管理局というのは特殊で、在留特別許可をまともに説明した本はほとんどありません。入国管理局の分野では、在留特別許可に一番詳しいのは、入国管理局に日頃から出入りしている人たちなのです。
有斐閣の「国際結婚の法律Q&A」は、在留特別許可にも言及があり、この分野の学者二名(成城大学教授、つくば国際大学教授)と、東京地方裁判所判事という現役の裁判官が書いた本です。有斐閣という出版社は、本当に著名な研究者や実務家、有力な学者等の本しか出さない最大手の法律系出版社で、この出版社から出ているというだけで、一定の権威があります。それゆえ、表紙の裏に書いてある「国際家族法の第一人者と実務家が丁寧に答える!」というPR部分はあながちウソではありません。実際、拝見すると、大変高度な内容にまとめられており、貴重な参考資料です。
ただ、それは、不法滞在や在留特別許可の箇所に解説には当てはまりません。同書の276頁のQ138は、次の条件で質問がまず設定されています。
*条件
・夫=バングラデシュ人、妻=日本人。
・不法残留(不法入国ではない)。
・本国に仕事はない。
・日本人妻は妊娠中
・まだ摘発されておらず、これから入国管理局へ出頭する類型(としか読めない。)
*これに対する「国際家族法の第一人者」の学者の答え
=「国外退去を強制される可能性が強い。」、「あなたの夫は不法残留者になりますので、所定の手続を経て、日本から退去強制されることになります。」。=在留特別許可はされない。
・・・いかがでしょうか。あなたは不法滞在を減らす(在留特別許可を得る)ために、怖がる外国人妻(夫)を説得して入国管理局へ行く気がしますか?この本をよく読んでみて下さい。
「可能性が強い」、ということは在留特別許可の請願をしても、不許可の可能性が高い、という意味だと思われます。つまり、入国管理局へ出頭申告してもだめです、ということです。
ではどうするのか。それに対する学者の答えは以下です。
=「退去強制処分がされたときは出国しなければなりませんが、収容されたり、仮放免などが行われることがあります・・・場合によっては、退去強制の処分の取消しを請求する裁判をおこすことができます。」
・・・在留特別許可不許可の場合、収容されるのが原則なので、「収容されたり」なのではなく、「原則収容」なのですが、「仮放免」はほとんど行われるようなものではありません。そもそも、実務では、在留特別許可の見込みすらないような案件は、原則(例外として、重病や難民関連等)、仮放免もしません。
実務での仮放免は、在宅案件では意識するものではなく、収容案件で意識するものなのですが、日本人配偶者等の事案では、在留特別許可の見込みと、基本的には、連動しているのです。
もっとも、非常に長期間収容されていた場合には、在留特別許可の見込みには関わらずに仮放免する場合もありますが、通常の国際結婚カップルはそれまで耐えられませんので、現実的ではありません。しかもこの設例では、夫=バングラデシュ人、妻=日本人、ですから、実務的に多いのは妻は主婦であって、しかも妊娠中ですから、夫が収容されたら生活もできないでしょう。
さらに、在留特別許可に係る裁判ができる、とのことですが、実際にはそこまでできるカップルは稀です。まず、裁判中、原則、収容されたままです。いつ仮放免されるかは全く保障がありません。その不安に耐えられる夫妻が少数です。次に、これに強い弁護士は、弁護士全体からみると、ほとんどゼロです。なぜなら、そもそも、裁判まで頑張れる夫妻はほとんど無いので、受任する機会自体が無いからです。そのため、弁護士にとって、特殊な依頼だということになり、夫=バングラデシュ人、妻=日本人のカップルが支出できる事案は稀です。極端ですが、あのライブドアはフジテレビとの訴訟等で弁護士等に約4億円支払ったそうです。
そうしたこともあり、そもそも引き受ける弁護士もあまりいません。20数軒も法律事務所を回り、全部断られたという話も聞きます。実際、入国管理局相手のこの種の在留特別許可に係る裁判はごくごくわずかです(難民認定絡みの訴訟が多い。)。
また、割と詳しい法律事務所も、受任に消極的な場合もあります。その背景には、そもそも、入国管理局で在留特別許可不許可にしたのを裁判でひっくり返せる事案など、全体の割合からみると、少ないということも知っているからなのです。その理由は、実は、入国管理局は常に、裁判を意識しています。「この案件を不許可にして、もし裁判になったらわが局は勝てるか?」を自問自答して判断します(入国管理局には訴訟のプロもいます。入国管理局の訴訟専門なので、普通の弁護士の知識レベルでは全く歯が立ちません。)。j
・・・以上から、上記の本を読んでも不安に駆られるだけだということが分かると思います。
しかし、そこまで悲観的に考えては不法滞在の数は減らないでしょう。在留特別許可に関して、もう少し積極的、前向きに考えられないものでしょうか。
[学者の本 その2]
「市民のための国籍法・戸籍法入門」(奥田安弘・中央大学大学院 法務研究科教授。執筆当時は北海道大学法学部教授。)の御本。明石書店。
奥田教授は国籍や戸籍等の分野で非常に著名で、権威ともいうべき研究者です。また、「外国人登録」という月刊誌(テイハンから出版されています。)で、「渉外戸籍入門」という連載をされてもいます。
この本の143頁から144頁では在留特別許可に関し、以下の記載があります。
「市区町村役場は、婚姻届を受け付けても、不法滞在者であることが分かった場合には、入国管理局に通報する・・・」
「在留特別許可は、・・・例外的に与えられるものである。したがって、日本人との結婚が有効に成立しているからといって、在留特別許可が与えられる保証はない。」
「次のような見解(在留特別許可を求める団体の運動等を指している。-筆者注-)は、あまりに楽観的であるといえよう。・・・」
・・・いかがでしょうか。奥田教授の在留特別許可に係る真意はどこにあるのでしょうか。私は奥田教授が在留特別許可の実務を知っていて敢えて、警鐘を鳴らすためにこう書いているのでは、という気もします。なぜなら、実務を知っている私も、どちらかというと、警鐘を鳴らしたいという感覚を持っているからです。
[実際はどうか]
上記のような学者の在留特別許可に係る「警鐘」を認識しておけばよいと思われます。その答えは私の書いた色々なサイトに示唆されていますので、必ず全体を読むことをお奨め致します。
また、お友だちに入国管理局のプロがいたら、必ず聞いてみることです。入国管理局の在留特別許可に係る審査は頻繁に変動するので、常に現状を確認して下さい。