収容という行政手続
【収容案件全体の流れ2】
:入国管理局の行政手続等がどのような流れになるか。以下は、あくまで一つのサンプルです。実際には、状況に応じて臨機応変に対応することが必要です。特に、収容案件では「スピード」が非常に重要な場合が多いです。
また、ごく稀ですが、難民認定申請等が絡む事案もあります。実際、たまたま担当した法律家が「難民認定申請」等が絡む余地があると気付くか気付かないか、それだけで、その人の運命が決まってしまう場合が、本当に、実際にあるので、入管に関わる法律家は必ず、あらゆる可能性を模索しなければなりません。難民認定申請だけではなく、「コロンブスの卵」のような話はたくさんあります。常日頃から、情報を広く得ておく必要があるのです。
[内縁の日本人側の調書]
特審官は取り調べの最後になって、日本人側の話も聞きたい(聴いてあげましょう、という感。)とのことで、別途に調書を取ることを告知することもありますが、取る場合は、午前中に日本人→午後に外国人の順に特審官による調書を取る類型が目立ちます。ただ、一概には言えず、順序は逆になる場合もあります。
さて、日本人側が当初、何をしたらよいのかも分からないまま、放置していた場合、時間をロスし、特審官側で、別途に調書を取るべき理由が、出ていなかったような場合、いちいち日本人側の調書を取らないことも多いです。実際にあった例で、当事者は収容後、直ちに、法律家に依頼したのですが、その先生が不運にも、何と入管が専門外だったので(民事が専門だったようです。)、入管以外の事案と同じ感覚で対応したため、収容後2週間も放置し、手遅れになった事案もありました。その夫妻は、残念ですが、人生が変わってしまいました。
この点、いくら外国人本人が、警備や違反審査段階で、「結婚する。」と言っていても、当の日本人側が何ら、動かず、あるいは仮に動いていても、それが入国管理局に認識されないものであれば、入国管理局には意味をなさず、入国管理局の担当者が動く理由が無いのです。
在特の見込みが無いか、希薄な場合(たとえば、同居していないとか、同居が極端に短い等の諸般の事情によりますが、その判断は極めて微妙かつ流動的です。)、たとえ婚姻していても、日本人側を別途に調書を取ることは入国管理局は、しないことが多いです(今後変わるかもしれませんが。)。時間の空費だからです。
いわんやまして、婚姻未了の場合に調書を別途に取るとなると、例外的扱いなのです。少なくとも、「預かり証明書」(婚姻届で受理証明書は発行できないが、受付する場合の行政証明の一種。)程度は違反審査が終わるころまでに出しておくべきでしょう。
この点、夫を別途に調書を取ること自体、見込みが少し、あるいはかなりあることの証左でもあるのです。ただ、特審官は1人で何役も兼ねる多忙すぎる役職なので、別途に取るのを失念している場合もあります。
なお、特審官がこうした調書を取るまでには、特審官が請願書等の各種資料を見ることが出来、内縁の夫(妻)等の調書を取ったり、意見書を起案する上で、参考に供することは可能とならしめておくべきでしょう(起訴状一本主義のような考え方は希薄です。)。
[裁決留保の請願書や婚姻届の審査の迅速処理の請願書]
諸般の人道的事情により、裁決留保の請願書を提出することを検討する場合もあります。このような事案では、他方において、同時進行で、婚姻届が受理照会中の場合も多く、婚姻届の審査の迅速処理の請願書も出す場合もあります。なお、婚姻届の審査は、入国管理局ではなく、地方法務局です。このようにして、朝早くから入国管理局へ行ったり(面会は延々と待つ。)、法務局へ行ったり、市役所へ行ったり、外国大使館へ行ったり、仕事を休んだりで、生活は破綻しかけます。
また、入国管理局も「書面主義」、すなわち、審査の基本は文書であって、主張内容等は、文書で行うものだということを押さえておく必要もあります。但し、審判での書類の提出は、「基本的には」、退去強制令書が発付されると、提出するのも困難になることも覚えておく必要があります。
[独身証明書等の追完]
そうこうするうちに、面会した本人から、明日か明後日頃には、「独身証明書」は家に届くはずだというような話が聞こえてくることもあります。届き次第、訳文を付けて、受理照会中の場合、即時に法務局に追完するべきです。
[収容期限の延長]
たとえば、設例ですが、X月Y日(収容期限の前日。)の夕方頃に、外国人本人のところに、入国管理局の担当官が来て、収容期限の30日延長=裁決留保が告知されたとします。難民認定申請の事案でもないのに、いきなり+30日は例外的です。これは一般論的にはプラスと解しうる場合が多いでしょう。なぜなら、見込みの無い事案では、延長せずに、特審官が一通り、調書を取ったその翌日や数日後に、不許可の決裁をするか、あるいは、審理が混み合っていて決裁が遅れている場合に、せいぜい1週間程度延長して、当初の期限徒過後、数日程度で不許可決裁する場合が多いからです。
たとえば、請願等の手続が完全に遅れていて、成り行きに任せていた事案の夫妻の場合、婚約者の夫は、結婚すると特審官に伝えていましたが、特審官は「はあ、そうですか。」との趣旨で回答し、数日後、退去強制令書を発付しています。
[法務局が障碍になる場合もある]
ただ、こうした行政への請願手続の一方、法務局の支局でたまたま担当になっていた担当官が余り勤務態度がよくない場合があります。障碍は入国管理局だけではなく、法務局にも潜んでいるのです。
たとえば、市役所での婚姻届の際の不受理の指導をバックから流す、必要でもない「収容証明書」を入国管理局から持ってこいと指導する(これが苦労する。)、何が必要なのか早めに言ってほしい、と当事者が懇願するにもかかわらず、「審査の進捗状況に応じて必要であれば求めます。」としか答えない(単に分からないだけ。)、その結果、後から出生証明書まで出されたしと言い出す・・・等々、この結果、婚姻届の受理がかなり遅れてしまいます。そして、問題の多い実態調査が実行され、わずか1日の差で退去強制令書を出す方向に入国管理局内部で決まってしまうことも、「本当に」、あるのです。
ちなみに、出生証明書は、「普通は」、必須ではないのです。私はあったほうが望ましいとは、最初から当事者に話しておくことが多いのですが(九段下も同旨。)、普通は必須とは言わないので(実際、必須では、通例、ない。)当事者が収集していないと困ることになります。
[入国管理局の実体(実態)調査の問題点]
これについては私の著書で詳しく解説しています。
[退去強制令書発付か仮放免か在特か]
入国管理局は原則、収容後30日が期限になっており(延長で追加で+30日まで。)、通常の場合、この三つの選択肢、つまり(1)退去強制令書発付、(2)仮放免、(3)在特、しかありません。退去強制令書発付の場合、それまで収容令書で収容していたのが、退令で収容できることになり、本人が帰国しない意思のときは、無期限で収容できます。
仮放免は文字通り、仮に放免するだけですが、刑事事件とパラレルに考えた場合の差異は、身柄解放の要件が厳しく、またお金を積んでも解放されるものではない、という点等を挙げられると思われます。
在特は在留特別許可。つまり、スラング的にいう「ビザ」です。
[配偶者案件との関係]
現場では、見るからにほほえましい、真実のアツアツのカップルを大量に不許可にして、可愛らしい奥さん等を叩き出しています。それは国籍がどうかには関わりません。現実だと信じないのであれば、東京入国管理局の面会受付のところへ朝早く行き、まわりを見渡したあと、スーツケースを持って呆然とした表情で待っている日本人男性等に片っ端から聞いてみることです。
[他の国はどうなの?]
実は他の国でも「外国人」はほぼ同じように扱われます。日本人のあなたも外国に行けばこうなる可能性は十分にあります。そのため、入国管理局を研究する私は、海外旅行をしたいと思いません。
最近、ネットの発展で、海外発のサイトをリアルに見れるようになりました。その中で、韓国の入国管理局の事情を描いたサイトがありました。韓国というのは、最近は非常に発展した国で、WEB関連技術では日本よりも進んでいるところもあります。そのため、韓国は、中東や東南アジアの一部の国から見れば「コリアン・ドリーム」ともいうべき側面があるようで、出稼ぎ対象国で、夢の国のようです。
そんな韓国の入国管理局、日本に勝るとも劣らず、「外国人」を排斥している(表現を変えれば「厳正な出入国管理を行っている」)とのことでした。興味深かったのは、韓国でも日本と同じように、韓国人の人権団体がそうした韓国の入国管理局の横暴に対し、「外国人の人権を守れ!」とのことで活動を行っている模様が報道されていたことです。
どこの国の入国管理局も、治安か人道か、経済発展か縮小的安定か、等の衡量で判断してゆくのだと思われます。