出入国在留管理局という行政
【収容案件全体の流れ1】
:ここでは、違反事案で収容された類型において、出入国在留管理局の行政手続等がどのような流れになるか全体像を示します(前提条件は、不残、具備証明書を発行しない国等の典型事例。)。なお、タイムリミットは基本的には30日ですが、実際的には、2週間から20日程度を目安とするべきでしょう。
[端緒]
多いのは職務質問等で、そこが摘発の端緒になります。そして、一定の基準により出入国在留管理局へ。たった2、3か月のオーバーステイでもしっかりと収容され、「本当に」、退去強制されます。多くの日本人側は、摘発まで具体的に手続を進めておらず、収容されて足元に火がついてから行動します。ところがもう火の手が回ってしまっているのです。病気でいえば、医師に「残念ですが・・・。」と言われる末期症状です。
[出入国在留管理局と裁量]
出入国在留管理局は外務省ほどではないにせよ、ブラックボックスで、秘密主義、裁量主義です。出入国在留管理局の裁量の広さを批判することが多いですが、出入国在留管理局は外交や政治に関わるので、裁量は不可欠です。また、裁量というのは、法の原則からは許可できないものを例外的に許可するという方向で働くこともある一方、不許可の方向で働くこともありますから、不許可の裁量だけ批判するのは問題があります。何でも許可するだけなのなら出入国在留管理局は要りません。特に自主出頭していなかった事案を許可するのであれば、自主出頭の意味が希薄になります。摘発先行案件が厳しいのは当然の事理で、「これを許可するのなら入管なんて要らないんですよ!」とは、東京出入国在留管理局の某統括が私に語ったことです。偽装結婚ならもちろんのこと、偽装結婚でなくともそうです。
[収容初日の重要性]
東京地区の警備では、実際には原則、初日で違反へ回します。注意すべきは、この最初の取調べの段階で、たとえば、外国人側が日本人側を気遣うばかりに(彼も罪に問われたらいけないなどと心配するケースがある。)、「私は1人暮らしです。摘発されたあのお店の2階に住み込みしてます。」などと言い、実は日本人側と長期間同居しているのに、それを一切、出さず、帰国に同意するような場合、出入国在留管理局は、その供述に疑念を抱くかどうかに関わらず、そのまま早々に帰国させるコースに乗せる、つまり、収容当日に即日、退去強制令書を発付し、困難な状況になることがある、ということです。出入国在留管理局は基本的には送還することを重視しています。
禁反言の法理により、自分の供述には責任をもつ必要があり、そのような事案の回復は困難です。つまり、収容された次の日に慌てて日本人側が出入国在留管理局に駆けつけても、もう遅かった、という事案もあるのです(再審情願も現実的な実行には困難なケースが多い。)。
これを防ぐためには、日頃から外国人側に対しては、在留を希望する意思が存するなら、出入国在留管理局には在留を希望する意思を明確に告げるよう、言っておくことが基本になるでしょう。
[準備]
収容が判明したら、在特の請願と仮放免申請の準備を即時的に行います。併せて、まず、地方法務局戸籍課へ照会し、収容案件での具備証明書無し類型の必要書類を確認。そして、自宅現場等で写真撮影等を行っておきます。
[面会等]
出入国在留管理局へ行き、面会。婚姻届書への署名と宅下げ、婚姻届用申述書への署名と宅下げ、仮放免の委任状に署名と宅下げ、仮放免誓約書に署名と宅下げ。及び、旅券の写しの宅下げを本人に「申出」「させる」。等々。これらもほんの一部です。実際には、状況の変動に応じて、臨機応変に対応してゆく必要があります。
[相手方母国への書類入手の依頼]
国によっては「国内旅券」の類の身分証明書が、独身証明書等の発行に必要で、しかも本人がそれを日本へ持ってきてしまっている場合もあります。そうした場合、早急に、当該国内旅券等の宅下げを受け、近くの郵便局の本局等まで行き、宅下げされた「国内旅券」の類をEMS等で相手方の国の妻(夫)の父母等宛てに発送する必要があります。遠い国でも3日前後で送り先に着くことが多いとされます。
[請願等の準備の続行]
配偶者用の請願書等を供述録取するべきです。作成はパソコンで構いませんが署名は付ける必要があります。また、完成度の高い写真集等も用意しておきます。但し、実際には、状況の変動に応じて、臨機応変に対応してゆく必要があります。
[色々な宅下げと差し入れ]
これについては私の著書で詳しく解説しています。
[本人とのコミュニケーション]
基本的には、面会、電話、手紙、(例外的に「伝言」)、です。但し、地方支局によっては、電話は設備的理由で非常に制限的です。
[婚姻届提出]
受理照会証明書や受理証明書の入手等。門前払いされるカップルもいます。
[体調管理]
収容案件では、突然の収容で外国人側も日本人側も体調を崩すことが多いです。外国人側は突然、密室で集団で管理される刑務所のようなところに入り、ストレスが蓄積し、最初はともかく、段々、以前と違うような精神状態になり、「隣で寝てる人のいびきがうるさい。」などと些細なことで我慢できなくなったりします。また、そのうち、被収容者の間で「隣の部屋の中国人の女がトイレで洋服飲み込んで自殺したらしいよ。今、入管が騒いでる。」などという噂が流れてきたりします。
ちなみに、出入国在留管理局ではちょっとやそっとの病気では仮放免もしません。たとえば、糖尿病を理由に仮放免を主張したところ、糖尿病用の食事もあるから大丈夫、と回答されたこともあります。裁判になったケースでは、廃人になって、言葉を発せなくなってから仮放免された事案もあります(ニュースにもなりました。)。
他方、日本人側も、当初は頑張って、毎日毎日、面会に行ったりします。ところが、それでも結局不許可の場合も、もちろん、あり、不許可通知を聞いたとたん、今まで気を張っていたのがプツンと切れ、面会室で意識を失って倒れることもあります。私自身、一回そういう現場にいて、警備官が多数出てきて修羅場になり、なぜか、警備官が倒れた奥さんを取り囲んで見ているだけで、なかなか救急車を呼ばないので、私は心配になって「早く救急車を呼んで下さい!」と言ったところ、ようやく呼んでくれて、東京出入国在留管理局の裏口から出て、一緒に救急車に乗ったことがあるのですが、処遇部門の現場の人に聞いたところ、面会室では過去にもそういう例があるのだそうです。ただ、倒れてもダメなものはダメです。
[請願資料の提出と仮放免申請]
審判と仮放免で、証拠法則に基づき、証拠書類を提出します。この時点では、特審官に、内縁の夫(妻)の調書を取る予定を組まれていないことが多いため、「私の話も聞いて下さい。●野●夫」等の趣旨の文言を添え状に添え書き的に記載することを検討します。然るべき添付資料や参考資料を付けます。
また、仮放免の書類は当然には審判の在特の審査で認識されるとは限らないために、可及的に、その写し乃至副本を在特のほうにも出します。そのうえ、提出書類は全て、撮影乃至、データを保管しておくことです。この時点で、請願書もかなり用意しておくべきで、仮放免と審判とに重畳的に提出します(原則、審判に原本。)。