外国人雇用とは、ここでは、日本で企業等が日本国籍を有しない方(外国人)を雇用する場面をいうものと定義し(特別永住者等を除く。)、以下、入国管理法上の視点を中心に概説致します。
移民法学エッセイ2
2:「外国人雇用の方法(企業向け)」
外国人雇用の場合でも採用する外国人の方が決まっていないときは、各種の職業紹介機関等を利用できます。雇用しようとする外国人の方が決まったときは、次にその方が国内にいるか国外にいるかで区別します。国外にいるときは在外公館で査証申請することになりますが、原則的には在留資格認定証明書を得てから査証申請します。実際には、査免で来て、日本で変更申請する例がみられます。一つには、結局、入管と外務省の反応が遅滞するので、ビジネスレベルでは通用しがたい、という側面もあります。住居の準備等でどうしても早めに呼ばねばならないときは、短期で招聘しつつ、認定でも申請しておき、認定を特別の事情として変更申請することも検討可能です。但し、法律の原則は短期はあくまでいったん帰国する査証・在留資格であることには十分ご留意が必要です。
この点、参考ですが、短期→認定→変更は可なれども、認定→短期→変更は不可、と解するのが入管の基本的な姿勢だったケースもありましたが、弊所の約20年以上のイミグレーションコンサルタント歴でみると、その点は現場であまり徹底されてこなかったという認識です。この辺りは微妙なところです。特に理由がないときは、法令に沿って、完璧なコンプライアンスで行うべきでしょう。
他方、日本国内にいるときは、現に有する在留資格を確認します。就労系の在留資格はそれぞれ、できる活動が罰則付きで決められており、違反すれば犯罪として雇用主も処罰され得ます。つまり、外国人雇用の場合、日本人のような意味での「職業選択の自由」は無いのです。
三つのカテゴリー
在留資格は就労・外国人雇用との関係では大きく分けて、三つのカテゴリーに区分することも可能です。第一に、本来の就労系の在留資格であるが、活動範囲に制限のあるもの(例、人文国際)、第二に、本来は就労系の在留資格ではないが、資格外活動許可を得ることにより、一定の就労が可能なもの(例、留学)、第三に、そもそも特段の就労制限が存しないもの(例、日本人配偶者等)、の三つです。
第一の本来の就労系の在留資格は、どこまでが就労可能な業務なのかの判別が要求されます。たとえば、人文国際の在留資格でいったん雇おうとしても、その会社が特に人文国際の在留資格に該当するような業務が無かったり、あるいは、あっても在留資格の付与が可能なほどの売り上げ等がないときは、通常、在留資格は得られませんし、仮に得られても次回の更新のときに唐突に更新不許可になる場合が多いです。この外国人雇用で在留資格の付与が可能なほどの売り上げというのは、その会社全体の売り上げのことを言うのではありません。たとえば、新聞の販売店で、年間数億円の売り上げがあったとしても、国際業務を行うような貿易部門の売り上げが微々たるもので羊頭狗肉のような実態であるときは、外国人雇用で人文国際の在留資格の付与は困難です。
第二の本来は就労系の在留資格ではないが、資格外活動許可を得ることにより、一定の就労が可能なものは、実態としては留学・就学、が多数を占めています(ちなみに、法的には短期滞在でも資格外活動の許可の申請は可能なのですが、特殊ケース以外では許可されません。)。したがって、企業が留学生等を雇用するときは、資格外活動許可を得ているかを確認しなければなりません。近時、留学・就学についてはとりわけ厳しく、審査するようになってきています。特に学校への出席率を重視しています。
現在、日本で外国人雇用の相当部分をこの留学・就学の「資格外活動」が占めている状況があります。
なお、留学生が日本の学校を卒業後に企業に就職するときは、就労系の在留資格への変更を申請することになります。この申請には予め、一般には停止条件付きの雇用契約書を作成し、添付して申請することになります。ところが、企業側では、採用したい人材が来たときに、就労系の在留資格を現に持っていないからといって、外国人雇用を門前払いすることがあるようです。
このような外国人雇用への消極的扱いは、入管法の誤解、又は、在留資格の申請の手続きを避けることも原因であると考えられます。そもそも、就労系の在留資格は、外国人雇用を行おうとする企業が特定して雇用契約書等がないと申請すらできません。当該外国人の完全な属人的な資格ではなく、外国人雇用を行おうとする会社との総合的判断で許可される資格なのです。その意味では、仮に就労系の在留資格を現に持っていたところで、そもそもそれは転職前の企業を経由して与えられたものであり、転職先の企業では妥当するかは何ら保障されていないことに注意が必要です(「就労資格証明書」参照)第三のそもそも特段の就労制限が存しない在留資格(「日本人配偶者等」等)の保持者を雇用するときは、偽装婚や偽装日系人に注意するべきでしょう。偽装案件については、外国人雇用を行おうとする企業としても社会通念上相当な注意義務は要求されるものと解されます。しばしばよくあるのが、日本に在留して数年経った日系人等が、ある日突然、入国管理局から呼び出し状を送致され、行くと「あなたの在留資格は虚偽の事実に基づくものですので、取消します。」などと告知され、不法滞在者になるケースです。
雇用契約書作成上の注意点
外国人雇用でも日本人を雇用するときとほぼ同じ意味でのコンプライアンスが必要です。ただ、日本人との雇用契約書というのは、通常、行政に提出するようなものではないですが、外国人採用をするときの雇用契約書は行政に提出するものです。したがって、高度なコンプライアンスが要求されると言ってよいでしょう。特に労働関係の法令には留意し、労働基準法等に違反しないことも必要です。
労働基準法のほか、外国人にも最低賃金法、労働安全衛生法、労働者災害補償保険法、等は適用されます。これに加えて、外国人雇用するときは、在留資格が付与可能か否か、という視点で雇用契約書の内容を吟味しなければなりません。以上の結果、ある程度、入管法独特の雇用契約書になります。
適正な労働条件
外国人雇用では(でも)、法定労働時間、週休日、賃金月払い原則、労働者名簿、賃金台帳、旅券等の預かりの禁止、等がコンプライアンスの内容を構成します。たとえば、ある外国人のかたが人文国際の在留資格の更新の申請をしたところ、入管は以前より当該外国人を問題視していたため、約4か月間経過観察したのち、実態調査に訪問したところ、当該企業には「賃金台帳」もなく、それが更新不許可の理由の一つになった、という事例もあります。
外国人雇用は煩雑か
外国人雇用は税務会計業務と同じようなものと言ってよいでしょう。ある程度は定型化しうるものですし、外国人雇用はの際、相当な注意義務を尽くせば企業は免責されるものです。そのためには注意義務を尽くしたという法的な証拠も残しておくことです。
また、外国人雇用の準備にはそれなりの時間はかかります。たとえば、外国人雇用で入管に出す書類のうち外国語のものは原則的には、邦訳文を付けねばなりません(入管法施行規則62条)し、国によっては(例、中国)公証書がかなり必要です。さらに雇用契約書の内容吟味や、事案によっては、外国人雇用の(招聘の)理由書も検討が必要です。翻訳文の扱いについては、微妙なケースもありますので、企業の場合、行政書士の専門家へご相談されることをお勧め致します。
外国人雇用では何に留意すべきか
あるとき、外国人雇用を行おうとするレストランからご相談を受けました。まず、個人事業主形態の場合、通常は、少なくとも有限会社にはするべきでしょう。外国人雇用で、入国管理局の就労の系の在留資格の許可を得るには、有限会社でギリギリというイメージです。
そして、外国人雇用では、レストランに限らず、一般に、勤務時間・勤務内容等で外国人に相当な負担がかかるので、その配慮が必要です。また、外国人パブに限らず、語学学校・語学教室でも、従業員や願客等との交際関係については制限的に扱うのが通常です。そこで、外国人採用時に、はっきりとした行為規範(ルール)を策定のうえ、文書にして交付しておくべきでしょう。
その他、「逃亡したら困る。」とか、「他の店に行かれたらどうする。」などの具体的な問題もあります。