在留資格に係る申請の不許可といっても、申請には種類があり、在留期間更新許可申請、在留資格変更許可申請、在留資格認定証明書交付申請、在留資格取得許可申請、永住許可申請、再入国許可申請、難民認定申請、資格外活動許可申請、就労資格証明書交付申請等の申請があり、各々について、不許可ないし不交付があります。
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他方、在留資格の種類をみると、外交、公用、教授、芸術、宗教、報道、投資・経営、法律・会計業務、医療、研究、教育、技術、人文知識・国際業務、企業内転勤、興行、技能、文化活動、短期滞在、留学、就学、研修、家族滞在、特定活動、永住者、日本人の配偶者等、永住者の配偶者等、定住者、があります。
したがって、観念的に計算すると、上記の申請の種類の数に、在留資格の数をかけた数の場面で不許可になることがあるということになります。また、ビザの不許可を広く捉えた場合には、在外公館での査証の発給の拒否の場面も含むことになります。
以下では、実務の現場でよく問題になる場面、つまり、日本人の配偶者等や、技術や人文国際等の典型的な就労の場合で、在留期間更新許可申請、在留資格変更許可申請、在留資格認定証明書交付申請等が不許可ないし不交付になったような場面を念頭に置きます。
「在留資格申請不許可の対応方法」
在留期間更新許可申請、在留資格変更許可申請、在留資格認定証明書交付申請等が不許可ないし不交付になることは珍しいことではありません。在留期間更新許可申請、在留資格変更許可申請の不許可の場合、出国準備期間になっていることも多くあり、迅速な対応が必要です。なお、在留資格認定証明書交付申請が不交付になっても、出国準備期間になっていることは少ないでしょう。なぜなら、在留資格認定証明書交付申請は、申請人が日本に在留していることを要件としないからです。
さて、不許可事案は当該不許可の理由の調査から始まります。申請時の書類を今一度確認し、ご自分の申請内容を確かめてください。
また、不許可事案の解決は難しいので、日本人のビザに詳しい人と行うのがよいでしょう。注意点として、不許可理由の告知は、建前では一回に限らないとされているものの、現場では一回しか行わないとの運用が強いので、最初の告知のとき、外国人だけで行かせるようなことはせず、必ず、事情が分かる日本人も付き添うことです。但し、本人との身分関係によっては、告知に同席出来ない場合があります。たとえば、単なる兄弟の関係や、雇用主の会社社長等が同席を拒否された事例が、実際にあります。
なお、外務省での「査証」の不許可は、以下とは別の対応が必要です。
この不許可の理由については、いくつかの類型がありえます。
まず、入国管理局の判断の前提となっている事実が真実と異なる場合もあります。ただ、その原因は、申請人の説明不足に帰責されるときもありますから、今一度誤認を招くような証拠資料を提出しているのではないかをご確認ください。
次に、入国管理局の法令や審査要領に対する解釈は、常に必ず誤謬が無いとは限りません。常に必ず誤謬が無いなら裁判所は要りません。大きな目でみた場合、入国管理関係の法令は、一般日本人を名宛人とした通常の行政手続とはかなり異なります。たとえば、行政手続法は適用除外せられています。しかし、それらの解釈に際しては、憲法31条の精神や他の一般国法秩序全体との整合性、そしてこれまでの最高裁の様々な憲法訴訟の判例法や、行政訴訟での判例法によって形成された法規範との比較衡量の法技術・法理論が求められます。また、行政裁量の範囲も一義的には明確ではありません。ですから、そう簡単には解釈できません。微妙な「グレーゾーン」の事案では、最高裁裁判官でも判断が割れることは日常茶飯事です。だからこそ、裁判所では「多数決」で判断しているのです。
さらにこのような大局的見地で見なくとも、個々の基準省令等の解釈につき、入国在留課と地方入国管理局が異なった解釈をしている場合もあります。
解釈に疑義がある場面では、入国管理局に当該解釈の当否につき、照会と打診を行います。私の経験では、それによって、従来、不明だった解釈が全国的に統一される契機になったこともあります。
入国管理局へ照会するときは、お昼の時間や忙しい時間を避けたほうがよろしいでしょう。なお、入管法に精通した訴訟代理人は法律業界の構造的に不在ですから、訴訟まで至る前の行政レベルで解決することが大切です。この点、入管の審査官によっては面倒なものは何でも裁判所任せ、にする傾向もありますが、裁判所は入管以上にコストパフォーマンスが良いとは言えないので、それを動かすのは大変な税金の投入になり、政府部門のコストがかさみます。
また、いわゆる法務省の基準省令その他の法令の要件を充足していない場合があります。この類型では、要件を充たすようにせねばなりません。但し、要件は事後的に気付く場合が多いです。
その他、入管職員の犯罪行為の場合もあります。本当にこんなことがあるのか、と驚くべき事件が時々生じています。たとえば、以下の事例があります。
在留期間更新許可申請を無断で勝手に不許可にしたとして、2004年01月22日、広島地検は、公電磁的記録不正作出・供用の被疑事実で、法務省福岡入国管理局長崎出張所入国審査官を逮捕した事件があります。
当該入国審査官は、中国人女性が2001年04月09日に申請した申請した更新許可申請を、2002年11月11日付で不許可処理したかのように、2003年03月31日ごろに、不正なコンピューター操作をした疑いがもたれ、この事件では、広島入国管理局の幹部が記者会見で頭を下げる事態となりました(2004年01月22日)。事の発端は当該職員の職務上の過失の隠蔽工作のようです。この事件では長期間、当該女性に何らの連絡もされていないにもかかわらず、女性側はよく分からず放置していたため、発覚が遅れたようです。このように長期間何らの連絡が無い状態で放置することは、入管業界の関係者(行政書士等)ならばあり得ないところでしょう。しかし、このような不正を確実にチェックするシステムが入管内部には必ずしも無い、という事実は覚えておくべきです。この事件では構成要件該当の実行行為時から不正の発覚まで1年前後かかっています。また、広島入管は、別の外国人三人の申請についても書類を破棄した等として告発しています。 その広島入管の告発によると、当該入国審査官は上記以外にも、2002年09月に電算システムを操作してフィリピン人男性の在留資格変更の申請を抹消し、書類を自宅に持ち帰る等をした疑いも持たれています。つまり申請したのに、申請を勝手に消されたことになります。申請していなかったことになれば、不法滞在等で退去強制になる恐れが生じることになります。
このような行為が堂々と行われてしまうのを防ぐには、公的な第三者を活用するのが、さしあたり、有効と言えるでしょう。残念ながら、本人だけで申請すると甘く見られるところがあるから、こうなるのです。おそらく、申請人本人をうまく言い含めれば、ばれない、等と考えたふしがあります。
専門知識のある第三者が介在することにより、行政の適正手続きが担保されます。この意味で、入管の専門家は、「出入国管理行政オンブズマン」のような役割もあると思われます。
さらに、入管職員の犯罪とまでは行かないものの、敢えて積極的に何とか不許可にしたい、との強固な意思を持ち、徹底的にあら探しをして、一点でも瑕疵を見つけたら不許可にする、というのがしばしば生じています。たとえば、こういう例です。日本人女性が中東の外国人男性と知り合い、交際し、婚姻するに至ったという、業界ではごく平凡な例を取りますと、入管も外務省も全力を振り絞って不許可にしようとする場合があります。それを善意解釈すれば要するに、今まで無数の配偶者ビザを扱って来たことによる「親心」(パターナリズム)のようです(それ以外にも理由はありますが。)。筆者も多くの配偶者ビザを扱って来ましたため、多くの夫婦を見てきました。たとえば、某中東の在外公館では男性職員が、「私にも娘がいるが・・・。」、「お母さんの心配が分かります。」、などと言いつつ、本人の女性とそのお母さん相手に切々と思いとどまるよう説き、さらに男性職員ばかりか、日本人の女性職員にまで否定的に言われたりしています。その他、ネットには書けないようなことまで言われ、こういうのはもしかすると、「イミグレーションハラスメント(イミハラ)」という新語を創出可能かもしれません。しかし、一方で、その大使館の職員には悪気はないのかもしれません。
再申請については、担当審査官が「事実上」受け付けないこともありえます。一人で行って受け付けられなかったときは、ビザに詳しい人に付き添いを求めることも必要です。
なお、既に日本にいて、在留資格が得られないときは、自主帰国、最終的には退去強制手続きに入る場合もあります。