出入国在留管理局の実務
【出入国在留管理局と重婚と内縁、重婚的内縁】
:出入国在留管理局という行政の場面では、重婚がしばしば生じます。さらに、重婚的内縁も生じます。ここでは、仮に日本人男性Aさんと外国人女性Bさんが同居して生活していたところ、Bさんには、母国に夫がおり、離婚したいと思っていたが、なかなか離婚できていないとき、Bさんが路上で職務質問によりオーバーステイで摘発され、出入国在留管理局へ送られたが、在留を希望している、というような、出入国在留管理局ではよくある(どこにでもある)場面を想定します。
[日本人側の意識]
相手方が婚姻しているということは「不倫」とも言うようです。そのため、負い目があるのか、そのような状況では、特に行政に対しては、何かと消極的で、本人との真の関係を明らかにしていない場合が多いのですが、法律婚のほうが形骸化しているのであれば、むしろ実体の伴った内縁関係の保護を訴えるのが相当だと解します。出入国在留管理局は「不倫」というような倫理的な事由だけを形式的に不許可の理由にすることは想定されません。但し「愛人」には厳しいです。
[出入国在留管理局の反応]
このような類型では、外国人側は日本人側に対し、当該外国における婚姻関係が、実体は、法律婚であるのに、あたかも内縁関係である等の欺罔を呈している場合もあります。
たとえば、ヨーロッパ方面の某国と婚姻した夫妻の事案だとして、まず日本で創設的婚姻届をし、次に、相手方の国にも婚姻届を出したところ、相手方からは、日本人側の氏名の入っていない、単に「既婚」だという事実しか記載の無い「婚姻証明書」が送られてくることがあります。これでは、誰と婚姻しているのか分かりません。実は「既婚」というのは、別の相手かもしれません。
そのような場合、小生の経験上、その婚姻関係の真偽が如何であれ、疑わしきは不許可の法理により、在留を不許可にする見込みが濃厚です。
また、このような摘発事案では、警察の段階で、本人の身分関係を確認するために、本国へ照会し、婚姻関係等は確認されている場合が多いです。婚姻証明書だけではなく、親族の出生証明書等まで確認されることもあります。
他方、夫妻によっては、既に外国で離婚裁判等に着手しているケースもあります。このように離婚手続に着手していることも事案によっては大切です。また、同居ないし同棲、それ自体は、日配の場面では、プラスの材料(むしろ必須で不可欠の材料)なのです。たとえば、入管法違反以外の容疑(例、財産犯)で摘発された厳しい事案でも、収容30日以内に運よく、離婚の待婚期間が経過し、間に合う事案もあるのです。
[親族の反対]
重婚的内縁関係では、経験上、日本人側親族だけではなく、外国人側親族も反対している場合も多いです。相手方の家族が反対しているだけで不許可の黙示的理由の一つにできます。相手方親族と交流を深めておくべきでしょう。事案によっては、オーバーステイ中に相手方親族を呼べる例もあります。
[偽造文書の警鐘]
重婚的内縁関係では、外国人側が婚姻したいあまり、偽造の独身証明書等を用意してしまう危険もあります。外国によっては「偽造屋さん」が堂々と営業しており、偽造が容易です。それゆえに、出入国在留管理局は信用しなくなるのです。しかし、偽造は日本の国内法でも犯罪ですし(外国の公文書は私文書偽造。)、当該外国でも通例、処罰の対象でしょう。
出入国在留管理局での審査は非常に時間がかかる場合があります。それは、事案によっては、外務省を通して、本国に文書の真偽を照会するために時間がかかっていることもあるのです。
もっとも、偽造文書と混同に注意が必要なものもあり、たとえば、国にもよりますが、旅券のスペルは、可変的なものです。たとえば、タイ国の場合で、偽造ではなく、真正の旅券でも、以前入国したときとスペリングが違うことがあります。日本人でも外国で出生したような場合、出生証明書と旅券のスペルが食い違って同一人と確認困難になり、問題になった例があります。
現地の言語で構成されている本人の氏名を英文でどう表記するのかは、入管業界ではよく食い違いが生じて問題になることは指摘できます。たとえば、日本人でも「ツ」を「TSU」と「TU」の両方で表現します。また、国によっては、氏名が固定的ではない場合もあるうえ、それを英語に直すとなるとなおさらです。
[重婚罪]
重婚罪の構成要件は実際には、あまり機能していませんが、これは故意犯ですから、最低でも未必の故意(認識+認容)等が必要です。ただ、現場的にはこれで立件した話はほとんど聞きません。
[内縁時の日本人側の調書等]
出入国在留管理局では、この種の状況では、日本人側だけを単独で、調書を作成することはしない場合が多いです。これは、主に、婚姻していないためです。しかし、状況によりますが、日本人側の調書を採ってもらったほうがよい場合が多いので、調書を採るよう、出入国在留管理局に打診することを検討するべきです。
設例として、ある日本人男性が、外国人女性が収容され、出入国在留管理局へ何度も面会をしに行ったとします。出入国在留管理局からは、日本人男性の話を個別に聞きたいとは一回たりとも、言われませんでした。また、男性は何も出入国在留管理局には提出していませんでした。なぜなら、何も提出せよとは言われなかったからです。そして、あっという間に来た特審官の取調べについて、外国人女性側から電話で、立ち会ってもいいらしいよ、と聞いたので、立ち会いました。取調べはあっという間に終わり、ほとんど時間もかけられませんでした(このようなごく普通の案件で時間をかけている余裕は出入国在留管理局にはありません。)。その席で、男性は特審官に「すぐ結婚します。」との趣旨で言いました。特審官は「はあ、そうですか。」、との趣旨で回答しました。その2、3日後、男性はたまたま運よく、本当に女性と結婚届が受理されました。もちろん、重婚でもありません。そして、男性は、出入国在留管理局へ婚姻届受理証明書を出しに行きました。しかし、出入国在留管理局からは、もう退去強制令書が出たので、受け取れません、と言われました。退去強制令書は、特審官の取調べの翌日か翌々日程度で決裁されており、男性の意思は考慮されていませんでした。その夫婦も帰国を選択しました。
この話は出入国在留管理局ではごくありふれた話で、「日常」です。内縁関係の段階の出入国在留管理局での扱いは軽いものです。根本的な解決策は基本的には早急に適法に婚姻することなのです。但し、婚姻しても許可の結果は全く保障されてはいません。よく出入国在留管理局には「戸籍を返して下さい。」という苦情が行くようです。
[重婚的内縁関係の困難さ]
このように、重婚的状況でなくともすぐに婚姻できないため、間に合わないことも多いのに、重婚的事案では、ほとんど絶望的場合もあります(待婚期間も考える必要がある。)。ほとんどの場合、収容されてからでは遅きに失し、可及的早急に離婚等の手続を経ておく必要があるのです。