刑事責任というものは刑法という一般法があります。これに対して、各種の行政法の中には、罰則が規定されているものがあります。これは刑法に対しては特別法になります。入管法も、その特別法であり、刑法総論の規定を前提としつつ、いわば各論の部分につき特別の罰則を規定している関係になります。ですから、入管法の罰則を理解するには刑法総論の解釈も押さえねばなりません。ここではいわゆる「不法就労助長罪」について簡単に解説します。
上級ビザ講座
上級ビザ講座1 「入国管理法上の刑事責任。」
法73条の2第1項1号乃至3号には下記のように構成要件が規定されています。
次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一 事業活動に関し、外国人に不法就労活動をさせた者
二 外国人に不法就労活動をさせるためにこれを自己の支配下に置いた者
三 業として、外国人に不法就労活動をさせる行為又は前号の行為に関しあつせんした者
一 事業活動に関し、外国人に不法就労活動をさせた者
これは「事業活動に関し」の文言が重要です。たとえば、通常の家庭において、不法就労の外国人を直接雇用し、お手伝いさんとして使役しても、通常、これには当たらないとされます。刑罰法規は限定解釈が基本であることを知っておくべきです(憲法31条)。
但し、その場合は本罪が成立しないとしても、資格外活動の罪の従犯(刑法62条1項)や教唆犯(同61条1項)や共謀共同正犯(同60条)はあり得ますので、刑事上の構成要件には該当しえますし、違法性がないわけではありません。
ただ、構成要件該当性と違法性、有責性は別々の要件です。およそ犯罪の成立要件は構成要件に該当し、かつ違法性があり、かつ責任があることです。それぞれの解釈は刑法の本で1冊当たり1000ページくらいで説明されています。
また、これは「故意犯」です。但し、未必の故意論に注意してください。
二 外国人に不法就労活動をさせるためにこれを自己の支配下に置いた者
「自己の支配下に置いた」、とは具体的には、就労ブローカーが不法就労の目的の密入国者を、自己の管理下にあるアパート等に監禁するような行為が該当するとされています。
なお、刑法各論の監禁罪の構成要件にも該当するときは、観念的競合(刑法54条1項前段)ないし、併合罪(同45条)もあり得ます。
三 業として、外国人に不法就労活動をさせる行為又は前号の行為に関しあつせんした者
下級審裁判例に以下のようなものがあります。短期で入国し、在留期間を過ぎてオーバーステイで残留している某国籍の外国人Aから就労の「あつせん」(「つ」が大文字なのは原文ママです。法令ではそういう表記のものが多く見られます。)を依頼され、当該外国人Aの不法就労活動を助長することを知りつつ(これは「故意」を意味します。)、Bスナックのホステスとして雇用して報酬を得る活動に従事させることを「あっせん」した行為につき、構成要件該当性を肯定しています。