不法就労は、ごく簡単に言えば、法務大臣ないし入国管理局長の許可なく、収入や報酬を伴う就労をいいます。
それゆえ、許可のない資格外活動や、不法入国者、オーバーステイ等での就労は不法就労になります。
この点、一般によく「就労ビザを持っているから、何の仕事でも働ける。」というような発想があるようですが、それは誤りであり、日本の場合、それぞれの在留資格ごとに、従事可能な仕事が決められています。
初級ビザ講座1「不法就労とは何か。」
現在、不法就労として問題になっている典型的な類型は、観光や親族訪問等の短期滞在で来日した外国人が在留期限を過ぎても帰国せず、そのまま在留し、オーバーステイとなって、働く場面です。この仕事の内容は通常の就労類型のビザでは認容されないようなホステスや現場作業員等の単純労働が多いと言えます。
不法就労とは
この点、建設関係等の業種の中には外国人労働者抜きでは会社の経営が成り立たないという場合もあると聞きます。しかし、そのことが潜在下していて表面に現れない不法就労を認容する根拠にはならないというのが入国管理局の考え方です。企業経営の在りかたについては、経済立法政策の問題です。
また、短期滞在の資格ではたとえ、ビザの期限内であっても原則として働くことはできず、不法就労になります。世界のどの国でも概ね、就労に対しては防御的な姿勢を採っており、日本でもそのことは変わりありません。
ただ、業として行うものではない活動、たとえばたまたま講演会に出て金一封を得る程度は不法就労ではなく、認容されています。
日本の在留資格は、就労可能なビザの中では、大きく分けて、就業(就労)系のビザと身分系のビザに大別されます。そして、就労系のビザは「就業査証」の類型であり、在留資格ごとに細かく活動が制限されています。たとえば、人文国際ビザの方が技術ビザに該当する仕事を行うことはできません(異説は存しますが、企業内転勤ビザは両者を兼ねるビザと解するのが相当と思います。)。また、人文国際の場合で、会社を経営することは通常できません。もし、行いたいときは資格外活動の許可を申請せねばなりません。このように「資格外活動許可申請」と不法就労は密接に連関しています。ところが、実務の現場の印象としては、「資格外活動許可申請」はさほど活用されているようには見えません。たとえば、投資経営に該当する「資格外活動許可申請」は、使い方次第で、かなり有意義なのに、あまり聞かれません。その原因は当事者に知識が無いのでしょう。
さて、他方、身分系のビザは、配偶者ビザが典型です。また、定住者ビザも基本的には、身分系といえるでしょう。これらは就労可能な仕事に特に制限がありません。ですから、日本人と(ほぼ)同様の意味での、法律に反する活動でない限り、「原則として」、どのような仕事でもかまいません。もっとも、偽装日系人等が上陸許可を取り消されたとき等は、遡及的に不法就労になります。
就労系ビザと身分系ビザの重要な差異の一つに「転職」の扱いがあります。この点、就労系ビザでは、実際には転職ごとに入管での何らかの手続きが求められます。他方、身分系のビザではそのような手続きは不要であり、手続き的負担が全く異なります。たとえば、人文知識・国際業務の在留資格で興行に該当する活動を行うのは不法就労です。多くは、次回の更新のときに発覚し、不許可になって、突然イベントに出られなくなり、損害を出して、興行の会社で大騒ぎになります。
そして、就労系でも身分系でもないビザには、留学ビザ、就学ビザ、等があります。なお、家族滞在ビザは身分に着目したものではありますが、これは日本人等の家族のことではないため、日本人配偶者ビザ等とは区別されています。しかし、実態として、家族滞在ビザは身分系のビザに分類しても良いでしょう。偽装婚も偽装親子関係も、配偶者等ビザ・家族滞在ビザに共通するもので、よく似ています。
さて、この留学等のビザでも資格外活動許可を得れば働けるのが日本のビザの特徴です。比較法的には、留学生等が広く働けるのは必ずしも普遍的ではありません。ですから、逆に日本人が海外に留学するときは注意が必要です。ただ、このような立法政策を日本が採ることにより若年層での、国際交流が促進される等の効果もあるかもしれません。
なお、留学生等の資格外活動には時間的制限があることに留意が必要です。また、許可が必要なことを知らず「アルバイト」という不法就労をしている学生は多いです(就労への変更申請等のときに不許可になり、内定先企業で大騒ぎになります。)。許可が必要なことを知らず「アルバイト」という不法就労をしていた学生につき、内定先企業が、就労への在留資格変更許可申請の際に、不許可を予防するのは至難の技です。まず、学生本人がそういうことは内定先企業には言わないのが普通でしょう。また、学生本人自身、それが不許可原因になることを知らない場合も多いです。局により多少の地域差はあるかもしれませんが、現在の主要な入管実務を前提にする限り、「変更」は無視し(再審もほぼ無益。)、最初から「認定」にしたほうがよいのでは、という発想になりかねません。
そして、留学生とは異なる「就学」生は奥の深いビザです。ただ、実務的には留学より就学のほうがトラブルが多く、新聞やニュースでも不法就労と絡みやすいのは否めないでしょう。
不法就労に対する行政処分や刑事責任について
不法就労で摘発されると退去強制手続に付されます(入管法24条4号イ等)。これは行政処分です。また、不法就労の刑事責任としては、3年以下の懲役若しくは禁固若しくは300万円以下の罰金(平16・6・2法73号で30万円から変更。)、という罰則が規定されています(入管法70条1項4号、なお、法73条。)。また、不法入国やオーバーステイも同等の罰則があり、厳しく処断されてもやむを得ない規定になっておりますので十分ご注意ください
不法就労に係る企業のコンプライアンスとして重要なものの一つは、不法就労助長罪です。これは、三年以下の懲役若しく三百万円以下(平16・6・2法73号で200万円から変更。)の罰金に処し、又はこれを併科されます(73条の2第1項各号)。その構成要件は以下です。
一 事業活動に関し、外国人に不法就労活動をさせた者
二 外国人に不法就労活動をさせるためにこれを自己の支配下に置いた者
三 業として、外国人に不法就労活動をさせる行為又は前号の行為に関しあつせんした者
なお、企業の中には「知らぬふり」をしたり、敢えてビザをチェックしない企業もあるようです。確かに本罪は故意犯であります。しかし、入管法もいわゆる「未必の故意論」を除外するものではありません。したがって、社員の中に必ず、ビザや就労可能か、不法就労か否かをチェックできる人員を配置することが必要です。偽造文書も多いので少しは鑑別できるようにするべきでしょう。
[事例]
大手食品会社の「K」社の子会社が入管法違反容疑(不法就労助長)で摘発を受けてニュースになり、K本社がテレビで謝罪したことがあります。同社の株価にも影響するものです。K社の説明によると、外国人との雇用契約を更新するときに資格外活動許可書の期限を確認していなかったとのことですが、入管専門家の目で見ると、そのようなことは入管法を知っているプロならばあり得ないことです。そのような場合は外国人に任せっぱなしにしてはならず、会社で管理するしかないのです。
[捜査当局のK社への尋問のイメージ]
(あくまでイメージです。)
担当官:「外国人を採用するに付き、留学なら資格外活動許可が必要なのは知ってますよね。」
K社:「はい。」
担当官:「では、契約更新のときにそれを確認しなかったというのは、うっかり忘れたということですけど、それは大丈夫だと思っていたということですか。」
K社:「はい。」
担当官:「大丈夫と思っていたというのは、ひょっとすると期限が切れていることもあるかもしれないとは思っていたが、忙しかったし、留学の資格外活動許可は本人や学校の責任だし、悪気があってやっているわけではないからそれでも大丈夫、何とかなる、と思っていた、あるいは、後から手続すればいい、と思っていた、ということですか。」
K社:「・・・。それはその・・・。そんなことはありません。」
担当官:「そうですか。しかし、あなたの会社は、中国人、モンゴル人の男女合計、26人も不法就労で摘発してますよ。それから、期限切れだけでなく、制限時間も超過させている。26人も大量の不法就労者がいたのに全く気づかない、という事態が大企業の人事管理としてあり得ることですか?採用時にはK本社からの出向社員が旅券などの書類をチェックしているのに、その後の更新のときだけ26人もチェックしなかったというのは不自然ではないですか?」
K社:「・・・。」
(以下略。)