出入国在留管理局の用語辞典
数字英字
【5条】
入管法5条は上陸拒否を規定する。「本邦に上陸することができない。」とは、指定期間又は永久的に上陸できないことを意味する。実務上、特に問題になるのは、5条1項4号(一年以上の懲役若しくは禁錮又はこれらに相当する刑に処せられたことのある者)、5条1項5号(麻薬、大麻、あへん、覚せい剤又は向精神薬の取締)、5条1項7号(売春又はその周旋、勧誘、その場所の提供その他売春に直接に関係がある業務に従事)、5条1項9号(退去強制や出国命令により一定の上陸拒否期間を規定)、等である。また、5条1項14号には「法務大臣において日本国の利益又は公安を害する行為を行うおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者」とあり、包括的に拒否できる規定になっていることも留意が必要である。
よく誤解されていることに、5条1項4号に関して、執行猶予を得れば入国できるかのように言われることがある。これは、入管法24条4号リ(退去強制事由)に、「ただし、執行猶予の言渡しを受けた者を除く。」という文言があることと、法5条の「上陸拒否事由」を混同したものである。裁判官、検察官等の法律家でもこの退去強制事由と上陸拒否事由を混同している場合が多く、注意が要る。
【10条】
入管法10条は上陸審査の場面における特審官の審理を規定する。これは実際には形骸化しており、実務的にはそこにまで至るプロセスが重要になる場合が多い。たとえば、日本人男性が外国人女性を短期滞在で招聘するべく、短期滞在査証の申請を行い、最近は極めて厳しいが、運よく査証が発給され、成田空港で来るのを待っていたとする。空港について、出てくるのを待っていると、突然、入管成田空港支局の職員から、当該日本人男性の携帯に電話が入る。曰く、「お友だちの○○さんですが、ただ今、審査に入っておりますので、お伝え致します。」と。男性は、「そうですか。よろしくお願いします。」と答え、この時点では上陸拒否されることなど微塵も思っていない。約2時間後、電話がある。「○○さんですが、上陸は拒否されました。審査は終了致しました。」。これが実務の実際である。
【19条】
入管法19条は資格外活動を規定する。資格外活動という概念を説明するには、まず、外国人の日本での就労活動は広汎に規制されていることを理解する必要がある。たとえば、通訳として人文知識・国際業務の在留資格で在留している場合に、勝手にマッサージ店等(業種は問わない)の企業を経営する場合、これは資格外活動で違法である。違法というのは、法70条1項4号で罰則が規定されており、この違反行為は「犯罪」として前科が付く行為である。また、たとえば、知人の会社社長が虚偽の在職証明書を発行する等により、この外国人の資格外活動行為を幇助した場合で、その社長も逮捕され、全国に実名で報道されたこともある。このように、外国人に関わる法規制は極めて峻烈な処罰規定になっており、日本人の一般人の常識が通用しないことに注意が要る。そして、このような資格外活動は、法70条1項4号で「犯罪」である(刑事処分)のと同時に、法24条で退去強制対象になる(行政処分)のである。
【24条】
入管法24条は退去強制事由を規定する。法5条(上陸拒否事由)と似ているが同一ではない。実務上、特に問題になるのは、法24条1号(不法入国)、法24条4号イ(資格外活動)、同条同号ロ(不法残留)、同条同号チ(薬物事犯)、同条同号リ(無期又は一年を超える懲役若しくは禁錮に処せられた者)、同条同号ヌ(売春又はその周旋、勧誘、その場所の提供その他売春に直接に関係がある業務に従事する者)、等である。
これもよく誤解されていることであるが、たとえば、一年を超える懲役に処せられたが、執行猶予が付いた場合、法24条には該当しない場合もある(薬物事犯等の場合は別論である。)。しかしながら、そのような場合、遅かれ早かれ、在留資格を維持できくなくなる場合が多い。更新等まで射程に入れて判断しなければならない。
【COE】
Certificate of Eligibilityの略で、在留資格認定証明書のことである。日本人の間ではあまり用いられないが、日本に来る外国人の間で使われることがある用語である。在留資格認定証明書は、査証に対する推薦状のようなものと考えればよい。もっとも、その査証は上陸許可に対する推薦状である。したがって、COEは、上陸許可に対しては、推薦状(査証)のそのまた推薦状という意味になる。なぜ推薦状なのかと言えば、在留資格認定証明書があっても査証が不発給になる例は無数にあるし、上陸拒否される例もあるからである。
【SOFA】
Status of Forces Agreementの略で、日本では日米地位協定のことである。SOFAには問題が多く、元SOFAの状態から不法滞在に至ったり、あるいは、仮装の対象者が入国を企図する例もある。
あ行
【アルバイト】
Part-time Employment。外国人の留学生や就学生のアルバイトは原則として禁止されている。しかし、例外として、資格外活動許可(入管法19条2項)を得た場合には、当該許可の範囲内に限り、資格外活動、つまりアルバイトを行うことができる。この「原則」と「例外」を履き違えている場合が多い。資格外活動許可には申請が必要であり、許可されるとは限らない。また、許可されても、留学生や就学生が外国人パブで就労することは資格外活動許可の範囲外なのが通例である。そのような場合で店舗で摘発に遭った場合には、退去強制事由(法24条4号イ)に該当するか、「専ら」「明らかに」の文言解釈が問題になる場合がある。しかし、仮に法24条4号イに該当しない場合でも、法19条1項1号には「専ら」「明らかに」という形で規定されていないこと、及び、在留資格の更新は、広汎な裁量に係る相当性判断であるため、後日の更新申請時に、留学や就学の在留資格の更新ができないことがある。
【違反】
Violation。入管法に「違反」する場合、二つの効果が生じる場合が多いことに注意が要る。たとえば、駐車「違反」の場合、懲役刑などにはならないのが通例である。しかし、入管法違反は、懲役刑も含む。これが一つ目の効果で、刑事手続上の効果である。次に、入管法24条により退去強制対象者となりうる。これが二つ目の効果で、行政手続上の効果である。
このような入管に係る法令に違反した外国人の人権であるが、日本人の場合と比べて極めて制約されている。入管では、違反者を取り調べる部門の一つに「違反」審査部門という名称の部署がある。違反者は入管では「容疑者」として扱われる。なぜなら、入管法の文言で「容疑者」という表現を用いているからである。確かに、入管法に違反する場合、同時に処罰規定にも抵触する場合が多い。しかし、入管は刑事手続ではなく、あくまで行政手続である。そのためとも言えようが、入管では刑事手続のいわゆる「謙抑性」の概念は弱い。
およそあらゆる外国人は、入国管理法の厳しい規制に違反する危険性が常にある。これは予定されたシステムであると考えられ、畢竟、外国人を自由に処分できるようにしているのである。かくして違反した外国人は、たとえばオーバーステイ(不法滞在)した場合、職務質問等で警察に逮捕されれば、いずれ入管へ送られ、強制送還になる。その場合の上陸拒否期間は、法律上は、初回の違反でも5年間入国できないし、5年経っても不法滞在での違反歴が残っているので、入国は困難である。
企業で不法就労者を雇用しているような場合、同時に企業も違反をしている。昨今、新聞等で報道される企業は、不法就労を知らなかった事案もあるが、逮捕を覚悟で使っていた事案も多い。
【永住許可】
Permission for Permanent Residence。永住許可とは、在留期間が永久のものとなり、在留期間の更新の手続きが不要となるというものである。 この永住許可は、既に何らかの在留資格を有する外国人が永住者への在留資格の変更を希望する場合に、与えることのできる許可であり、在留資格変更の一種である。永住者になると、金融機関から融資を受けやすくなる等の日常生活や仕事上のメリットもある。そのため、実際、永住しようと思った動機は、家を購入しようと銀行等に融資を求めたところ、永住の在留資格の無いことを理由に断られたため、というものも多い。永住の許可の要件は、(1)「素行が善良であること」、(2)「独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること」、(3)「法務大臣がその者の永住が日本国の利益に合すると認めた」こと、という要件である。注意すべきは、これは許可の必要条件だが、十分条件ではないということである(「許可することができる。」と規定している。)。要するに要件が具備されていても許可されるとは限らない。
【オーバーステイ】
Overstay。オーバーステイ(不法滞在)は犯罪であり、逮捕と起訴、刑罰の対象である(入管法70条1項5号)。法定刑は3年までの懲役刑が規定されており、実際に懲役刑の前科を付与されるものである。オーバーステイ(不法滞在)では、刑事責任と行政上の責任が生じるため、刑罰を科されたのち、身柄を解放されないまま、直ちに入管へ送られ、強制送還に至る例が見られる。このような事案では人権救済を行ううえでも、時間の猶予が存しない場合が多い。オーバーステイ(不法滞在)の場合、在留期限を超過しても直ちには、摘発されない事案も見られ、そういう状態が数年間続くこともある。また、逃亡生活を送っていれば、摘発に至らず、10年間以上不法滞在している例もある。しかし、オーバーステイ(不法滞在)は、基本的には、いつ逮捕ないし収容されてもおかしくないものであり、摘発の日は、突然訪れるものである。
か行
【外国人】
Alien。日本国籍を有しない者をいう。国籍というのは比較的簡単に得喪を生じるものである。たとえば、日本人男性と外国人女性との間の子であるからといって、ア・プリオリに日本人であるとは限らない。また、現在、日本人であっても将来も日本人とは限らない。
【外国人登録】
Alien Registration。外国人登録とは、「本邦に在留する外国人の登録を実施することによつて外国人の居住関係及び身分関係を明確ならしめ、もつて在留外国人の公正な管理に資する」ための制度である(外国人登録法1条)。外国人登録とビザは全く違い、正確に言えば、外国人登録、ビザ(査証)、在留資格、のこの三者は全て異なる。外国人に住民票は無い。その代わりが、外国人登録であると解釈可能である。
【外国人登録証明書】
Certificate of Alien Registration。証明書という表現であるが、これはカードタイプである。外国人登録されると、偽造対策を凝らした外国人登録証明書カードが交付される。この外国人登録証明書カードは、日本人で言えば運転免許証のようなもので、身分証明書の役割がある。なお、子ども用のものは、手帳タイプのものであり、写真欄が存しない。
【外国人登録原票(の写し)】
Certified Copy of of Alien Registration。外国人登録原票(の写し)は通常、一般には用いられない文書である。これは、通常、B4サイズの両面印刷であり、本人の顔写真が添付されている「原票」である。かつては、指紋も搭載されていたが、現在では指紋の箇所はスミ塗りとなっている。帰化申請等の身分事項を広汎に確認する必要のある手続き等で用いられることがある。詳細な文書であることから、入管実務的にもこの文書で事実関係を認定するべき場合もある。なお、この文書については、市区町村の受付では、あたかも入手自体ができないかのような(あるいはそういう文書の存在自体がないかのような)外観になっている。
【外国人登録原票記載事項証明書】
Certificate Detailing the Registered Matters of Alien Registration。外国人登録証明書と似ているが、これは通常、A4サイズの書式で、外国人登録原票から必要事項を抜書きしたものである。在留資格に係る申請等では通例、これを用いる。
【帰化】
Naturalization。日本国籍を取得する制度ないしその行為をいう(国籍法4条1項)。帰化の要件(基準)は以下のとおりである(原則)。
一 (居住要件) 引き続き五年以上日本に住所を有すること。
二 (能力[成年]要件) 二十歳以上で本国法によつて能力を有すること。
三 (素行要件) 素行が善良であること。
四 (生計要件) 自己又は生計を一にする配偶者その他の親族の資産又は技能によつて生 計を営むことができること。
五 (国籍要件) 国籍を有せず、又は日本の国籍の取得によつてその国籍を失うべきこと。
六 (憲法遵守要件) 日本国憲法施行の日以後において、日本国憲法又はその下に成立した政府を暴力で破壊することを企て、若しくは主張し、又はこれを企て、若しくは主張する政党その他の団体を結成し、若しくはこれに加入したことがないこと。
【国際結婚】
Mixed Marriage。一般に国籍の相違する者の間での婚姻をいう。国際結婚について語られることは多いが、偽装結婚が300万、500万という単位で取引されていることはあまり知られていない。金額も高額なので、偽装結婚の手段は高度化する一方である。そのため、入管の審査は著しく防御的になっており、一点でも不審な点があれば、原則、不許可にする運用となっている。実際には、偽装結婚でない真実の夫婦の婚姻でも、入管の目で見た場合には、不審と判断されることが多い。また、敢えて不許可にして、申請人らがどういう態度を示すのかを観察するために不許可にすることもあると解される。したがって、そういう場面で対応を誤ると、2回、3回と不許可を繰り返す場合があり、1回の申請と審査に約4か月から半年かかるので、2年、3年と妻を呼べないケースも極めて多い(東京新聞等に報道記事もある。)。
また、入管が国際結婚による配偶者ビザを審査する場合、過去の違反歴も審査の対象になる。ここでいう違反とは、あらゆる法令違反であるが、入管法に関しては、(1)過去の研修ビザでの在留時に研修先を無断で逃走し、勝手に日本語学校で勉強していたとか、(2)興行の在留資格でショーパブで就労していた場合に虚偽の履歴書等で就労していた、あるいは「接客行為」をしていたとか(一種の不法就労)、(3)過去の申請資料と現在の申請資料の間に相互の矛盾点がある(虚偽申請)、(4)短期滞在で来て不法就労していた、等の場合は、不許可の理由になる。(1)は犯罪ではないが、(2)(3)(4)は犯罪に成り得る。日本の法令は、外国人は些細なことで犯罪に問われるような法システムになっているので、注意が必要である。
さ行
【在留資格】
Status of Residence。日本で適法に活動するための法律上の資格。逆にいえば在留資格のない場合、日本で適法に活動することはできない。法務省の地方入国管理局で許可する。
【在留期間更新許可申請】
Application for Extension of Period of Stay。「本邦に在留する外国人」が「現に有する在留資格を変更することなく、在留期間の更新を受け」るために、法務大臣に対し行う申請。「法務大臣は、当該外国人が提出した文書により在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由があるときに限り、これを許可することができる」(入管法21条)。留意点は「相当の理由」の解釈である。この「相当」性の判断には、一切の法令違反のほか、「好ましくない」という判断も含む。たとえば、日本語学校の出席率が低い場合には、「好ましくない」ので、更新は困難である。
【就学】
Pre-college Student。本邦の高等学校(中等教育学校の後期課程を含む。)若しくは盲学校、聾学校若しくは養護学校の高等部、専修学校の高等課程若しくは一般課程又は各種学校(この表の留学の項の下欄に規定する機関を除く。)若しくは設備及び編制に関してこれに準ずる教育機関において教育を受ける活動、のための在留資格。一般に「就学」というと、日本語学校の就学生が多い。
【就労】
Activities related to the management of business involving income or activities for which he receives remuneration。就労は入管の重要概念であり、「収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動」と表現可能である(入管法19条)。不法就労は犯罪である。そのことは不法就労の斡旋等に数百万、数千万単位の金が動くことからも、その可罰性は理解できよう。また、不法就労により、見えないところで、誰かの仕事を奪い、路頭に迷わせているともいえる。そして、ここでいう「誰か」には、日本で適法に在留している外国人も含む。雇用のパイは有限であり、失業率に直結する。
【就労資格証明書】
Certificate of Authorized Employment。外国人が行うことができる収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動を証明する文書(入管法19条の2第1項)。在留資格認定証明書と似ているが、全く別のものである。この就労資格証明書は、ある外国人が特定の在留資格を新規に求める場合に申請するものではなく、既に在留資格のある外国人が、いわば確認的に自己の在留資格を前提とする就労可能な法的地位にあることを、行政が証明するものである。
【就労ビザ】
Work Visa。人文国際や、技術等の在留資格(ないしは在外公館での査証)の総称を俗に「就労ビザ」と称する。就労可能な状態になるには、入国管理局の許可、いうなれば就労ビザが必要である。よく街で見かける外国人で就労している場合は、全て入国管理局の許可を得ていることが前提である。もし得ていないときはそれは「不法就労」となり、犯罪としての処罰(雇用主を含む。)と退去強制の対象となり得る。
【上陸拒否】
Denial of Landing。正確には入国拒否とは違うが、ここでは便宜上、同義として扱う。日本へ来るための申請(短期滞在等)をしたとき、興行等の申請での違法性等が露見し、入国拒否され、あるいは査証を得ても、空港で強制送還され、半永久的に、日本へ来れなくなる類型が見られる。日本もアメリカの移民局(市民権・入国管理局)と同様、違法な入国には過敏に反応する。不用意な発言が入国拒否や強制退去(強制送還)に結びつく。
【上陸特別許可】
Special Permission for Landing。本来、上陸拒否されるべき者を特別に上陸許可するような場面を指すが、客観的な事実関係を整えたうえで、裁判並みの法的な証拠資料を用意する必要がある場合が多い。
【招聘(へい)】
Invitation。入管用語で外国人を国外から呼び寄せする場合に用いる。「招聘企業」とか「招聘人」等の形で用いる。
【招聘理由書】
Reason for Invitation。一般には、短期滞在査証の場面で多く用いられるが、在留資格認定証明書の理由書のことを指す場合もある。在外公館での査証申請の資料の一種としての招聘理由書の作成には独特のコツがあり、その分量、構成、内容、書き方、論調等に細心の注意を要する。
【人文知識・国際業務】
Specialist in Humanities/Inter-national Services。本邦の公私の機関との契約に基づいて行う法律学、経済学、社会学その他の人文科学の分野に属する知識を必要とする業務又は外国の文化に基盤を有する思考若しくは感受性を必要とする業務に従事する活動(教授、芸術、報道、投資・経営、法律・会計、医療、研究、教育、企業内転勤、興行の活動を除く。)のための在留資格。一般には文系向きの在留資格である。
た行
【退去強制】
Deportation。1日たりともオーバーすれば、退去強制手続き(強制送還手続き)に載せるという運用は実行される。また、些細な道交法違反でも在留資格を失い、退去強制に至るものである。退去強制(強制送還)された場合の上陸拒否期間は、退去強制(強制送還)された時期により場合分けを行う。最近、退去強制(強制送還)をされたのであれば、リピーターでなければ、5年間上陸拒否される(但し、出国命令制度の適用があれば1年である。)。
退去強制手続をみるとき、いわゆる在宅案件と収容案件では、法的には共通の流れであるが、実際には、大きな差異がある。たとえば、出頭申告の場合、在宅案件になると、警備部門に長期間置いておかれる。その理由は、全件収容主義との関連と推定される。 他方、収容案件の場合で、収容して早々に帰国希望するような場合、特別審理官の段階まで行かないのが通例である。また、収容案件と在宅案件とでは、この審理の中身が全く違う。
【短期滞在】
Temporary Visitor。短期滞在とは、観光ビザ、短期滞在ビザ、親族訪問ビザ等とも言われることがあるが、本邦に短期間滞在して行う観光、保養、スポ―ツ、親族訪問、見学、講習又は会合への参加、業務連絡その他これらに類似する活動、のためのビザないし在留資格をいう。
短期滞在も虚偽・違法申請が多く、証拠資料の一切を捏造したうえで、日本で外国人パブや飲食店等で不法就労を行うために、短期滞在の在留資格を騙取しようと企図する事案が多い。そのため、外務省、法務省共に、短期滞在の審査は厳格化の方向にある。現在では気軽に呼べるようなものではなくなっている。
【通報】
Furnishing of Information。「何人も、第二十四条各号の一に該当すると思料する外国人を知つたときは、その旨を通報することができる。」(入管法62条1項)。24条は退去強制事由である。たとえば、オーバーステイや不法就労は、これに該当する。ゆえに、誰でも、オーバーステイや不法就労を発見したときは、自由に通報可能である。なお、通報は匿名でも構わないし、通報の動機が三角関係の恨みであるとかの私怨であっても問われない。これに加えて、市区町村の職員のような公務員に至っては、「通報しなければならない」と規定されており(同法同条2項)、通報が義務付けられている。したがって、不法滞在者が結婚するために市区町村に行った場合、通報することになる。
【定住者】
Long Term Resident。法務大臣が特別な理由を考慮し一定の在留期間を指定して居住を認める者のための在留資格(を有する者)のことをいう。現状では日系人が多い。近時の様々な事件を受けて、日系人の定住者の在留資格の要件が若干厳格化された。
【投資・経営】
Investor/Business Manager。本邦において貿易その他の事業の経営を開始し、若しくは本邦におけるこれらの事業に投資してその経営を行い、若しくは当該事業の管理に従事し又は本邦においてこれらの事業の経営を開始した外国人(外国法人を含む。以下同じ。)若しくは本邦におけるこれらの事業に投資している外国人に代わってその経営を行い、若しくは当該事業の管理に従事する活動(法律・会計業務の項の下欄に掲げる資格を有しなければ法律上行うことができないこととされている事業の経営若しくは管理に従事する活動を除く。)、のための在留資格をいう。外国人の起業のために活用が検討されてきたが、現状ではあまり活用されていない。
【特定活動】
Designated Activities。法務大臣が個々の外国人について特に指定する活動。実務的によく見る場面は、出国準備期間の「特定活動」である。これは在留期限前に正規に更新申請や変更申請を行ったところ、審査が期限を超えた場合に、その後不許可になった際、「特定活動」の在留資格を遡及させるような場面で生じる。この場面では通例、当該「特定活動」の在留期限内に必ず出国するとの誓約書を徴求される。なお、このような場面で「特定活動」を遡及させる義務は入管には無い。したがって、悪質な事案では、「特定活動」を付与せず、即時収容、退去強制(不法残留等を理由とする。)となる場合もある。
な行
【難民】
Refugee。「難民の地位に関する条約第一条の規定又は難民の地位に関する議定書第一条の規定により難民条約の適用を受ける難民」をいう(入管法2条3号の2)。法務大臣は、本邦にある外国人から法務省令で定める手続により申請があったときは、その提出した資料に基づき、その者が難民である旨の認定を行うことができる(法61条の2)。これを難民認定という。難民認定は要件が厳しく、容易に該当しない。
【日本国の利益】
The interests of Japan。法務大臣は、「日本国の利益」を害する行為を「行うおそれがある」と認めるに足りる相当の理由がある者を上陸拒否できる(法5条1項14号)。また、法務大臣は、「日本国の利益」を害する行為を「行った」と認定する者は、退去強制できる(法24条4号ヨ)。そして、「日本国の利益」は規範的構成要件要素ゆえ、法務大臣の裁量で判断される。
【日本人の配偶者等】
Spouse or Child of Japanese National。日本人の配偶者若しくは民法(明治二十九年法律第八十九号)第八百十七条の二の規定による特別養子又は日本人の子として出生した者をいう。在留資格認定証明書交付申請を申請せずに配偶者ビザでなく、短期ビザで日本に入国してしまった場合、どうすればよいか、という問い合わせがしばしばある。ネットや本を見ると、短期滞在からの変更は原則認められないとあり、困っているというのである。このような場面では、「直接変更方式」や、「2段階変更方式」等を、事案によって使い分けることが肝要である。
【入管】
Nyukan。入国管理局の略称。
【入管法】
Immigration Control and Refugee Recognition Act。出入国管理及び難民認定法(昭和二十六年十月四日政令第三百十九号)の略称。幾度もの改正を経てきている。近時は指紋押捺等で厳格改正の方向にある。なお、入管法は、入国管理局を対象にするが、外務省の在外公館の査証発給手続については、直接の対象にしていない。
【入国管理局】
Immigration Bureau。「外国人や日本人の出入国審査、日本に在留する外国人の管理、外国人の退去強制、難民の認定及び外国人登録に関する事務を行」う行政機関。
【入国管理センター】
Immigration Detention Center。全国に三つあり、東日本入国管理センター、西日本入国管理センター、大村入国管理センターがある。「センター」という名称ではあるが、これは違反した外国人を収容する専門の施設であって、監獄のようなところである。
【入国記録カード】
Disembarkation Card for Foreigner。正式名称を外国人入国記録カードという。入国時に用いるカードであり、これには、氏名、国籍、生年月日、性別、現住所、旅券番号、航空機便名・船名、乗機地、渡航目的、日本滞在予定期間、日本での連絡先、等の記載項目がある。このカードも重要な書類であり、一例であるが、本来、日本の恋人に会いに来る目的なのに、観光目的と答えた場合には、虚偽申請として不許可の原因になる。なぜなら、「観光」と「恋人の訪問」は、入管の法令の解釈では、違う意味に解釈されることになっているからである。
【入国警備官】
Immigration Control Officer。「第六十一条の三の二に定める入国警備官をいう。」(法2条13号)。法61条の3の2によれば、入国警備官は、入国、上陸又は在留に関する違反事件を調査し(61条の3の2第2項1号)、収容令書及び退去強制令書を執行するため、その執行を受ける者を収容し、護送し、及び送還する(61条の3の2第2項2号)。また、入国者収容所、収容場その他の施設を警備する(61条の3の2第2項3号)。なお、収容施設内では「先生」と呼ばれている。
【認定】
Findings。「認定」という語は、法9条、10条、47条のほか、法7条の2の「在留資格認定証明書」でも法令用語として存在する。そのため、永住審査部門や就労審査部門で単に「認定」と言うと、「在留資格認定証明書」を指す場合が多い。行政書士の間でも「認定」と言えば、それは通常、「在留資格認定証明書」を指す。他方、違反審査部門や審判部門では、「認定」と言うと、「退去強制対象者に該当すると認定」するかどうかという意味の「認定」である。
は行
【ビザ】
Visa。在留資格に向けられた推薦状。外務省の在外公館が発給する。出入国管理制度は、法務省と外務省の二本立てになっている。
【不法就労】
Illegal Work。不法就労は、ごく簡単に言えば、法務大臣の許可なく、収入や報酬を伴う活動をいう(入管法19条1項、70条1項1号、2号、5号、7号、7号の2)。法19条1項は在留資格が存在する場合の不法就労であるのに対し、70条1項1号、2号、5号、7号、7号の2は、在留資格が存在しない場合の不法就労である。たとえば、不法残留者や不法入国者の就労はそれに該当する。但し、不法残留者や不法入国者の就労は、不法残留等の構成要件で評価される。
【不法入国】
Illegal Entry。広義にいう不法入国には「第三条の規定に違反して本邦に入つた者」(法70条1項1号、24条1号)のほか、「入国審査官から上陸の許可等を受けないで本邦に上陸した者」(法70条1項2号、24条2号)も含む。不法入国は不法残留よりも罪責が重い。その関係で、摘発された場合の扱いが不法残留とは違う場合が多い。なお、不法入国者に住む場所を提供したような場合、その者も「3年以下の懲役」に処する(74条の8第1項)。たとえば、外国人の恋人(不法入国者)と一緒に住んでいる日本人男性(女性)や、同居しているその家族の場合がこの犯罪に該当する。なお、本条は刑法103条の加重類型であると解される。
【不法残留・不法滞在】
Overstay, Illegal Stay。オーバーステイは不法滞在であり、犯罪そのものである(法70条1項5号等)。すなわち、法定刑は、「三年以下の懲役若しくは禁錮」までが規定されている(法70条1項柱書)。そして、不法滞在者に住む場所を提供したような場合、74条の8第1項の適用は無いが、刑法103条(法定刑は2年以下の懲役まであり。)の適用はある。たとえば、外国人の恋人(不法残留者)と一緒に住んでいる日本人男性(女性)や、同居しているその家族の場合がこの犯罪に該当する。
【不法就労助長罪】
Crime of Helping Illegal Work。不法就労を助長する犯罪(法73条の2)の構成要件は極めて広い。法定刑は「三年以下の懲役」まで規定され、構成要件は、「事業活動に関し、外国人に不法就労活動をさせた者」(同条1項1号)、「外国人に不法就労活動をさせるためにこれを自己の支配下に置いた者 」(同条1項2号)、「業として、外国人に不法就労活動をさせる行為又は前号の行為に関しあつせんした者」(同条1項3号)である。
これだけ見ると、限定されているようにも見える。しかし、そもそも本条の不法就労は、「第十九条第一項の規定に違反する活動又は第七十条第一項第一号から第三号の二まで、第五号、第七号、第七号の二若しくは第八号の二から第八号の四までに掲げる者が行う活動であつて報酬その他の収入を伴うもの」をいう。したがって、普通の外国人パブの経営者は、「接客」という不法就労(法19条1項違反)を助長したものとして、ことごとく、本条の罪責を負う。
【法務大臣】
Minister of Justice。法務省の長である(法務省設置法2条2項)。法務大臣は出入国管理に関し、広汎な権限を持っている。たとえば、入管職員が、許可相当であるという意見を具申しても、法務大臣はそれには拘束されず、自己の判断で不許可にできる。このため、かつて、中村正三郎氏が法務大臣だった時期の処分につき、議論されたことがあり、参議院議員の照屋寛徳氏が質問を行っている。それによれば、「前法務大臣は新聞報道にもあるとおり、事件記録も十分に検討せず、大量の在特不許可処分(出入国管理及び難民認定法四十九条三項の「異議の理由がない」との裁決)をした疑いが強い。その結果、多数の行政訴訟が提起されているところ、そのほとんどの原告が身柄を収容されたままである。」。そして、「不許可処分を受けた外国人の多くは、身柄拘束による拘禁反応のため本国送還を受け入れ、多数の婚姻生活が破壊された。」、とのことである。そして、実はこのときから現在の入管のシステムは特に変更は無い。このように、入管は、法務大臣の判断だけで決められ、その判断は先例に拘束されない。したがって、過去の許可されたからといって、今後も許可される保障は全く存しないことに注意が必要である。今後、日本の保守化が進んでいく場合、極度に外国人を嫌悪する法務大臣が就任する可能性があり、同じことが起きる可能性がある。
ま行
【身柄の引渡】
Delivery of the Suspect。ある外国人が不法残留(オーバーステイのこと)で警察に逮捕され、送検され、起訴されて有罪判決を付与されたとする。さて、その外国人は、裁きを受けたのであるから、釈放されるのであろうか。答えは「釈放」はされる。しかし、身柄は解放されない。つまり、入管に引き渡されるのである。そして、退去強制が開始される。
では、警察に逮捕され、送検されたが、起訴猶予になった場合はどうか。この場合も同じである。即ち、「検察官は、第七十条の罪に係る被疑者を受け取つた場合において、公訴を提起しないと決定するときは、入国警備官による収容令書又は退去強制令書の呈示をまつて、当該被疑者を釈放して当該入国警備官に引き渡さなければならない。」(入管法64条)。したがって、退去強制が開始される。
それでは、送検もされなかった場合はどうか。この場合も同じである。即ち、「司法警察員は、第七十条の罪に係る被疑者を逮捕し、若しくは受け取り、又はこれらの罪に係る現行犯人を受け取つた場合には、収容令書が発付され、且つ、その者が他に罪を犯した嫌疑のないときに限り、刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)第二百三条(同法第二百十一条及び第二百十六条の規定により準用する場合を含む。)の規定にかかわらず、書類及び証拠物とともに、当該被疑者を入国警備官に引き渡すことができる。」(法65条)。したがって、いずれにせよ、退去強制が開始されるのである。
【自ら立証】
Establish the Fact by Oneself。一般には、入国管理局側には、在留資格に係る審査において、立証責任は無い。立証責任が無いということの意味は、外国人側が立証しなければならず、立証できない場合には、不許可になるという意味である。また、それゆえに、入管側がどのようにして立証したらよいかについて助言する義務は存しない。立証責任の不存在に関しては、明文の根拠規定があり、曰く、「前項の審査を受ける外国人は、同項に規定する上陸のための条件に適合していることを自ら立証しなければならない。」(法7条2項)、また、「前条の審査を受ける容疑者のうち第二十四条第一号(第三条第一項第二号に係る部分を除く。)又は第二号に該当するとされたものは、その号に該当するものでないことを自ら立証しなければならない。」と規定されている。
この理は、刑事手続と対比すればより鮮明になる。たとえば、刑事訴訟では犯罪事実に関し、検察官に立証責任が存する。したがって、立証できないときは、有罪にできない。また、刑事手続では「疑わしきは被告人の利益に」であるが、在留資格に係る審査においては、むしろ、「疑わしきは申請人の不利益に」である。なぜなら、疑わしいということは、立証が相当ではないことを意味するからである。
【未成年者】
Person under Age。(1)たとえば、外国人妻の姉の子であるところの8歳の外国人の子どもを養子にしたとする。この子と一緒に日本で暮らせるであろうか。答えは、通常は否定である。なぜなら、養子縁組を理由とする場合、「6歳未満」であることを要するからである。6歳未満とは6歳を含まない。そして、このような場面で小学校や中学校に通うための在留資格は、制度的には予定されていない。そのため、かつてタイ人のMさん事件という問題が生じ、マスコミで大騒ぎになったこともある。ただ、Mさん事件のときのようにマスコミに登場できる事案ばかりではない。実際には、そこまでマスコミに出るのは嫌だという方も多い。しかし、Mさん事件型の対応方法も選択肢にはなる。
(2)たとえば、外国人妻の連れ子であるところの18歳の外国人の子どもを日本に招聘し、長期間在留可能な在留資格を申請したいとする。しかし、国によっては、18歳はもう法的に成年に達する年齢である。この場合の扱いであるが、入管法的には、日本法で判断するので、なお「未成年」である。とはいえ、扶養の必要性等の問題が生じ、申請には慎重を要する。
(3)たとえば、外国人妻の妹の子であるところの17歳の外国人の子どもを日本に招聘し、長期間在留可能な在留資格を申請したいとする。この事案ではMさん事件型の対応も困難である。そこで、就学、留学、就労、という類型を描いてゆく場合が多いと思われる。しかし、警鐘を鳴らしておく必要がある。配偶者や定住者といった身分系の在留資格と異なり、就学、留学、就労は、基本的には「エリート外国人」向けの在留資格であるといえる。朝から晩まで勉強しなければ在留資格も更新困難であるし、仮に大学まで卒業できても中途半端では、満足な就職もできない。就職できなければ(あるいは就職できても入管が許可しなければ)日本にいることもできなくなる。
や行
【容疑者】
Suspect。「入国警備官は、第二十四条各号の一に該当すると思料する外国人があるときは、当該外国人(以下「容疑者」という。)につき違反調査をすることができる。」(入管法27条)。つまり、入管法は退去強制事由に該当すると思料される外国人のことを「容疑者」と表現している。一般の日本の国語辞典の類では「容疑者」とは「犯罪の嫌疑の存する者」という意味合いで定義される場合が多い。しかも「法律用語としては『被疑者』という」などと注釈の付いている場合もある。しかし、この定義は不正確である。たとえば、入管法では「容疑者」は、「犯罪の嫌疑の存する者」ではない。あくまで「退去強制事由に該当する嫌疑の存する者」という意味である。もっとも、「退去強制事由に該当する嫌疑の存する者」が同時に「犯罪の嫌疑の存する者」である場合は多いのは事実である。しかし、あらゆる退去強制事由が同時に犯罪成立要件を充足するわけではなく、犯罪成立要件と退去強制事由を同心円で描けば、後者のほうが広い。
【容疑者の出頭要求及び取調】
Request of Appearance and Investigation of a Suspect。「入国警備官は、違反調査をするため必要があるときは、容疑者の出頭を求め、当該容疑者を取り調べることができる。」(入管法29条1項)。容疑者は取り調べの対象となっており、オーバーステイ等の不法滞在者や資格外活動は容疑者として、取調べの客体である。たとえば、ショーパブで興行の在留資格で就労している場合に接客行為をすれば、「資格外活動」に係る「容疑者」となる。
【容疑者の引渡】
Delivery of the Suspect。ある外国人がオーバーステイ(不法滞在)を理由に収容された場合、最初に取り調べるのは、入国警備官である。この「入国警備官は、第三十九条第一項の規定により容疑者を収容したときは、容疑者の身体を拘束した時から四十八時間以内に、調書及び証拠物とともに、当該容疑者を入国審査官に引き渡さなければならない。」(法44条)。現在の東京入管の警備の実務では48時間ギリギリまで置いておくということはせず、24時間以内で入国審査官に引き渡す場合が多い。この点、一般に人権救済手続きを行う場合、入国警備官に証拠資料を提出することも可能なのであるが、このように短時間のうちに入国審査官に引き渡すため、入国警備官に証拠資料を提出する例は例外的である。なお、本来、人権救済可能な事案であるにも関わらず、外国人本人が誤解により帰国希望の意思表示をしてしまう場合がある(日本人の内縁の夫を庇ったりする場合に、内縁関係があると言わない場合等もある。)。禁反言法理により係る意思表示は撤回不能な場合が多く、一つの夫婦の人生を破壊する例が存する。こうしたことから証拠資料の生成と提出は、一般に、早いほうがよい。ちなみに、入国審査官に引き渡すと言っても、収容施設に収容された状態には変わりはなく、書類の引渡となる。
【養子】
Adoption。「養子にすればビザを取れますか。」という話は非常に多い。まず、入管法では、養子縁組の濫用による不法就労、児童・女性売買、家族の呼び寄せ、等を避ける趣旨から養子縁組による在留許可を著しく制限している。この結果、「養子にすればビザを取れますか。」というアイデアを、ある人が思いついたような事案のほとんどにおいて、そのようなアイデアは無意味である。たとえば、妻の姉の8歳の子どもを養子にしても、通常の手続きでは定住者等の在留資格は得られない。なお、視点は変わるが、イスラム教国出身の子どもを養子にするのは困難な事例が多いものの、可能な場合が多いことを指摘しておく。この点、特別養子縁組は、実子に匹敵する法律効果をもたらすものであることから、実子のいない夫婦の事案において、実子にいる事案に準じる入管法上の影響を生じることがあることは無視できない。
【要急事件】
Emergency Cases。「入国警備官は、第二十四条各号の一に明らかに該当する者が収容令書の発付をまつていては逃亡の虞があると信ずるに足りる相当の理由があるときは、収容令書の発付をまたずに、その者を収容することができる。」(法43条1項)。この収容のことを「要急収容」という。この規定は刑事訴訟法上の緊急逮捕の場合と類似する。たとえば、入管法43条1項は、刑訴法210条1項前段の「検察官、検察事務官又は司法警察職員は、死刑又は無期若しくは長期三年以上の懲役若しくは禁錮にあたる罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由がある場合で、急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができないときは、その理由を告げて被疑者を逮捕することができる。」とパラレルに解せる側面もある(同じではない。)。また、入管法43条2項は、刑訴法210条1項中段に対比可能であり、同じく入管法43条3項は、刑訴法210条1項後段に対比可能である。
ら行
【留学】
College Student。留学とは、本邦の大学若しくはこれに準ずる機関、専修学校の専門課程、外国において12年の学校教育を修了した者に対して本邦の大学に入学するための教育を行う機関又は高等専門学校において教育を受ける活動、のための在留資格である。ここで次のような設例を想定する。海外の現地の高校を卒業した17歳の未成年の外国人がいるとして、その外国人は日本人男性の妻の妹の子どもであるとする。この子どもを日本に長期間在留可能な在留資格の状態にするには、就学・留学→就職による就労系の在留資格にすることにならざるを得ない場合が多いと思われる。さて、こうした外国人の子どもがその後、安定した生活を継続的に営むことができるかどうか、という見地から、以下のことを指摘しておかねばならない。この点、こうした就学・留学→就職、というコースを辿る場合、元来、日本国は、そういうコースは「エリート外国人」のために用意している制度なのである。したがって、少しでも落ちこぼれたりすれば日本にいられなくなるということを知っておかねばならない(留年や浪人は、原則、帰国要求を意味する。)。このことはどこの国もほぼ同じで、最近もフランスでは「移民選別」などという視点が強化されたりしている。
まず、日本の制度では、17歳で高校を卒業するような制度の国の出身の場合、大学進学等を考えるのであれば、「準備教育課程」という制度で認定された特別な日本の学校に通うことになるのが通例である。無論、無料ではなく、高額の学費もかかるうえ、日本に数えるほどしか存しない。この種の学校はカリキュラムもハードで猛烈な勉強をしなければものにならないし、たとえ卒業できても、その後が続かない。「準備教育課程」にいる間に、日本語は猛勉強しできれば1級を取っておきたい。そうでなければその後の大学受験等で通用しなくなる。「準備教育課程」から落ちこぼれれば、在留資格の更新ができず、帰国を要求される。
他方、「準備教育課程」とは区別される純然たる日本語学校に通うことも可能である。但し、在学できる期間には上限の年数があること、出席率や成績が、就学の在留資格の更新の審査に重大な影響を与えることを指摘しておく。こうした背景から、近時はまともな日本語学校は入学自体が厳しい。ただ、甘い日本語学校はその反面で入管が厳しいのである(学校が入学許可しても、入管が在留資格を許可しない。)。
大学受験については、留学生枠が存在する。しかし、ここでの考えを誤ってはならない。日本の上場企業の現状であるが、基本的には、有名国公立大、有名私大出身で、なおかつ、日本語がうまく、かつ、大学の成績優秀な留学生しか採用しない。このことは、筆者はそういう大企業の人事部門から直接依頼を受けて、採用した留学生がどういう留学生なのか、細かく把握しているので、厳然たる事実である。「「学歴社会」は終わっただのの話が昔、吹聴されたことがあったが、現実は全く違う。学生はその種の話に騙されないようにし、全力で勉強することである。このことはアメリカ等の他国でも同様である。なお、就職を考えれば、IT技術や半導体等の理系のほうがよい。
それだけではない。一般論として、上場企業は、就労ビザの申請の際に、予算を使って顧問の専門的な法律コンサルタントに相談し、瑕疵や学生に不利益のないよう、配慮をしてくれる。ところが、規模の小さい会社の場合、その部分のコンプライアンスは杜撰の一言である。たとえば、技術や人文知識・国際業務の在留資格該当性が無いのに、内定を出し、しかも、申請を学生本人に丸投げして、4月の入社時期になってもなお許可されず(それもそのはずだが。)、6月ころに不許可通知書が発付されて驚愕するに至り、本人は帰国を余儀なくされる。あるいは、申請したものの内容が極めて杜撰で、以前の履歴書と矛盾する等で入管に虚偽の申請をしたと判断されてしまい、半永久的に日本にいられなくなる、というのも典型例である。また、外国人の場合、あまり転職しないほうがよい場合が多いことも指摘できるであろう。
かくして、就学・留学→就職による就労系の在留資格というコースには「モラトリアム」というものが基本的に存在しない(モラトリアムを作ってしまうと不法就労に流用されるという問題点もある。)。「ごく普通の外国人の子ども」がその過程に耐えられるかは疑問である。おそらく、1日10時間程度勉強する生活を何年も継続することとなろう。しかし、日本でもフランスでもアメリカでも、基本的に、「自国の国民よりもレベルの低い外国人」は不要であると考えられている。