国籍の現場に関して、専門のイミグレーションコンサルタント兼行政書士がQ&A形式でお答え致します。ロシアの場合については、Q12に詳述しております。
- 国籍喪失・国籍取得の現場Q&A
- Q1: アメリカでは生まれた場所がアメリカなら、アメリカ国籍を取得しますが、日本ではどうですか?
- Q2: 私は夫婦双方が外国人ですが、今度子どもをもうける予定があります。何とか子どもに日本国籍を与える方法はないですか?
- Q3: 私たちはオーバーステイの夫婦ですが、子どもを出産したときに役所には届け出しませんでした。摘発されるのが怖いので・・・。この子どもの国籍はどうなるでしょうか?
- Q4: 子どもが無国籍になると困るので、親戚の夫婦の子どもとして届出することにしました。これで安心ですよね?
- Q5: 摘発されるのも子どもが無国籍になるのも困ります。ではどうすればいいのですか?
- Q6: 国際結婚すると、子どもは当然に二重国籍になると友人から聞きましたが本当ですか?
- Q7: 私は日本人ですが、妻との関係が冷え切っており、現在、ある外国人と内縁関係にあります。ちなみに妻の側も本国に夫がいますが、離婚の交渉中です。妊娠中に役所に行きましたら、内縁の妻の側が独身でないといけないとか何とかよく分からないことを言ってましたが、昨日、彼女との間に子どもが生まれました。日本人の子どもは日本人になるという話を友人から聞きましたので、早速この子を、自分の子どもであると、役所に申告する予定です。出生届けというのは、生まれた後にするものですから、大丈夫ですよね?
- Q8: そんな法律があったとは夢にも予想しておりませんでした。日本人同士の内縁関係と同じように考えていたのです。どうすればいいのでしょうか?もうだめなのでしょうか?
- Q9: 胎児認知とは何でしょうか?
- Q10: 出生後の認知は無駄ですか?
- Q11: 私は日本人ですが、配偶者が某国に帰化したところ、法務局に自分の子どもが日本国籍を喪失したので、手続するようにと言われました。本当でしょうか。
- Q12: ロシア国籍の親と日本人の親(両者が婚姻しているものとします。)の間に生まれた子どもの国籍はどうなりますか?
- ○ロシアで出生するか日本で出生するかが運命の分かれ目
- ○間違った理解をしている職員の説明で勘違いする夫婦が多数
- ○世間一般の「常識」とは違う
- ○ロシア国籍法には旧国籍法と現行国籍法の両方があります
- ○「日本国籍を喪失したことを一生隠そう。」は「正しい」のか。
- ○何をさせているのか
- ○本人の住民票が抹消されます。
- ○日本国籍が無かったという「法律効果」は遡及します。
- ○子どもが大きくなったらどうなるか
- ○子どもの子孫は?配偶者は?
- ○「不法滞在外国人」への政府の扱いは保証がない。
- ○就職や学校に影響する。
- ○賢明な対応とは?
- ○不法滞在状態では、帰化はできません。
- (出入国管理及び難民認定法)
- ○不法残留または不法入国状態の場合
- ○「在留特別許可」を得た人の「永住許可」や「(日本への)帰化許可」
- ○「国籍喪失届」受理後に市区町村からもらう書類とは?
- ○「在留特別許可」をいかにして得るか、「在留特別許可」を迅速に得る方法。
- ○国相手の訴訟について
- ○まとめ
- ○ロシアの国籍法が改正されれば、子どもは救済されるか。
- ○ロシア国籍放棄を選ぶ?
- ○法律の世界で実務や通説を知るとは?
- ○国籍喪失後の帰化申請
- ○アメリカやカナダの場合との比較と旅券発給拒否のリスク
- ○駐日ロシア大使館サイトの日本語版についてのコメント
- ○最後に
- ДВОЙНОЕ ГРАЖДАНСТВО (Россия, Япония)
国籍喪失・国籍取得の現場Q&A
Q1: アメリカでは生まれた場所がアメリカなら、アメリカ国籍を取得しますが、日本ではどうですか?
A1: 日本では生まれた所が日本かどうかではなく、親の国籍が日本か否かで決まります(原則。例外、国籍法2条3号。なお、最二小判平7・1・27。)。
もし、アメリカのように生地主義を基調としていれば、「在留特別許可」のかなりの部分が不要になるでしょう。たとえば、生まれながら日本国籍を与えられるのであれば、日本人には「在留資格(ビザ)」は不要である以上、その子どもに関しては「オーバーステイ」の余地は無くなります。
※なお、日本とロシアの国籍(または外国国籍ないし外国旅券を取得したことによる日本国籍喪失)については、Q12をご覧下さい。
Q2: 私は夫婦双方が外国人ですが、今度子どもをもうける予定があります。何とか子どもに日本国籍を与える方法はないですか?
A2: そのままでは日本国籍を取得することはありません。方法としては、出産前にあなたが帰化することが考えられます。
Q3: 私たちはオーバーステイの夫婦ですが、子どもを出産したときに役所には届け出しませんでした。摘発されるのが怖いので・・・。この子どもの国籍はどうなるでしょうか?
A3: 放置すれば、その子どもは「無国籍」になり、どこの国からも保護されないことになる場合があります。
Q4: 子どもが無国籍になると困るので、親戚の夫婦の子どもとして届出することにしました。これで安心ですよね?
A4: 刑事責任としては、公正証書原本等不実記載罪で処罰される可能性があります。なお、協力者は(共謀)共同正犯または従犯です。他方、民事上はその子どもの将来の法的地位が不安定になり、トラブルの原因になります。
Q5: 摘発されるのも子どもが無国籍になるのも困ります。ではどうすればいいのですか?
A5: 正しい法律上の手続きを採ってください。入管法等に詳しい人に相談することです。
Q6: 国際結婚すると、子どもは当然に二重国籍になると友人から聞きましたが本当ですか?
A6: 「生来的に」外国籍も取得していない場合、当然には重国籍にはなりません(たとえば、ロシアの場合、日露カップルの子が日本で出生すると、「生来的に」は外国籍を取得しません。)。たとえ「生来的に」外国籍も取得した場合であっても、外国で出生した場合、国籍留保の手続きをしないと、日本国籍を失います。期限があるので注意してください。
Q7: 私は日本人ですが、妻との関係が冷え切っており、現在、ある外国人と内縁関係にあります。ちなみに妻の側も本国に夫がいますが、離婚の交渉中です。妊娠中に役所に行きましたら、内縁の妻の側が独身でないといけないとか何とかよく分からないことを言ってましたが、昨日、彼女との間に子どもが生まれました。日本人の子どもは日本人になるという話を友人から聞きましたので、早速この子を、自分の子どもであると、役所に申告する予定です。出生届けというのは、生まれた後にするものですから、大丈夫ですよね?
A7: その子どもは、原則としてその状態では日本国籍は取得できません。つまり、日本国籍を与えたかったのであれば、その子どもにつき「胎児認知」する必要があったのです。
Q8: そんな法律があったとは夢にも予想しておりませんでした。日本人同士の内縁関係と同じように考えていたのです。どうすればいいのでしょうか?もうだめなのでしょうか?
A8: 出生後3か月以内に親子関係不存在確認の訴を起こし、家裁での審判が確定後14日以内に認知の届出を出す必要がああります。
なお、このような事案においては、胎児認知の届出が不受理になることがありますが、不受理なら不受理で、不受理証明を得ておいてください。
Q9: 胎児認知とは何でしょうか?
A9: 胎児認知とは、胎内にある子を認知することであり、母の承諾が必要です。国際結婚の事実婚の場合に問題になり、この場合、認知された子は出生により日本国籍を取得します。
これは国籍を取得するうえで、非常に重要ですが、一般にはあまり知られていません。その結果、多くの日本人の子どもたちが「外国人」と扱われて、在留資格を問題にされたり、あるいは無国籍になっています。特に、外国人は在留資格が必要であり、国籍付与が急務な場合があります。国際結婚されるかたは、入国管理局、法務局、区市町村の戸籍課・外国人登録課、本国の大使館・領事館、本国の外務省、本国の区市町村、日本の外務省、日本の在外公館、家庭裁判所、等が複雑に絡み合うことに注意しておいてください。
Q10: 出生後の認知は無駄ですか?
A10: 準正がありますから、無駄ではありません。なお、認知のみでは不十分としつつ、準正による国籍付与を可能にしたのは、認知のみでは仮装認知の危険が大きくなるからです。
Q11: 私は日本人ですが、配偶者が某国に帰化したところ、法務局に自分の子どもが日本国籍を喪失したので、手続するようにと言われました。本当でしょうか。
A11: 実例で、法務局の過失だったことがあります。危うく国籍喪失の手続をする一歩手前でした。日本で一番詳しい行政のはずの法務局が間違えてしまうくらい、国籍は難しい事案があります。その件では、過去の行政先例や通達や専門的な文献を調査のうえ、上申書を作成する必要がありました。結局、法務局から当事者の面前でお詫びの言葉も頂きましたので、どちらの法務局かは、名誉のため、公開は控えさせていただきます。
Q12: ロシア国籍の親と日本人の親(両者が婚姻しているものとします。)の間に生まれた子どもの国籍はどうなりますか?
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◆注意!ロシア国籍をお持ちの方が同時にロシア以外の国籍(日本国籍含む)を持っている場合に露政府に届出する義務規定が制定、かつ、施行されました。
うちの事務所でも、前から話題になっていたことで、いつ実行されるのかと思っていて、何人かのお客様には事前に知らせていましたが、とうとう実行です。意図的に隠した場合は20万ルーブル(約60万円)の罰金、または400時間の義務労働が科せられるとのこと。海外居住の場合、一時帰国する場合等、要件、例外も含め、細かい運用はまだ今後の課題ですが、知らないわけにはいかないでしょう。「訴訟される方」は、日本国籍ありという解釈なので、この新法の適用対象となる余地があり(?)、「日本パスポートの発給拒否等の何か問題が起きるまで放置派」の方は、日本国籍ありとお考えなのか、日本国籍なしとお考えなのか、人によって異なると思われるので、人によってこの新法の適用対象となるとお考えになるかどうかが違うことになりそうです。他方、日本国籍喪失だと解釈し、放置する意思もない方は、喪失後~日本帰化までは、対象外(日本帰化時に対象)だというのが法理論的ですが、また頭痛の種が増えたという感ですね。二重国籍、悩みは尽きません・・・。なお、立法趣旨は「複数の国家の市民であるロシア人は愛国心への脅威である」とのことだそうです。一般論でいえば、それはそうかもしれませんね・・・。これはもう国際結婚の根源的問題に根ざしています。国際結婚はマイノリティなのだと痛感します。(<注>この新法の件を書いたのは2014年08月の施行直後です。露語と英語では報道されているのに、日本語のニュースではごく一部にしかないようですね。後日、法の運用が固まり次第、内容は変えるかもしれませんので、予めご了承くださいませ。)。
ちなみにですが、日本国国籍法には、なんと、こういう(重国籍者は)届出せよ、報告せよ、という命令、義務規定は(今のところ)ないのです(重国籍抑止のための関連する規定はあるのですが、こういう制度ではないです。)。しかし、将来、制定されても不思議ではないですね。
◆訴訟された方へのネット上の批判について。訴訟された方につき、新聞等で報道されるやいなや、ブログや掲示板を拝見したところ、世間一般は、日露の親に対し、「全面批判」のようです。論調を拝見すると「親が悪い」「親が非常識」「話にならないのは親」という意見がほとんどのようです。国際結婚に関係のない一般の方の本音は、相当に厳しいものがあると思いました。・・・しかし、実際には個別の事情によっては、気の毒なケースや当事者に帰責性のない事案はあるわけです。きちんとした理由があって訴訟される方はこういった批判に負けないで頂ければと思います。但し、下記にも書きましたが、個別の訴訟で地裁レベルで仮に「自己の志望」に該当しないと判断されても、他の家族の安心の保証には全くなりません。どの家族にも一般適用される形式での判決が最高裁で必要なのです。なお、日露家族をお連れして伺った東京入管調査第三部門の担当官によれば、2014年度は、概ね、1週間に1家族程度の日露家族が東京入管調査第三部門にお子様の不法滞在の件で出頭申告されたとのことです。全くムゴイ話です。訴訟できる家族がごくごくわずかだと分かります。大変に残念です。子どもたちがかわいそうでなりません。
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A12: この問題については、きちんとした経験・能力のある法律専門家が、従来、正確に説明したことが全くありませんでした。いかなる法律学の大学教授ないし専門家であっても、下記の私の検討よりも詳しく検討した例はありませんし、ロシア法の理解も必要なので、今後もこれ以上のレベルの解説は当分出てこないでしょう。※なお、現行の法令の説明であって、過去の法令を対象にしたものではありません。また、以下の話は、ロシアの話ですが、他の国の場合でも似たような場合はあり、当てはまる事例があることを付言致します。
※単に行政実務の現状をご紹介したものですので、意見にわたるもの以外は、私の個人的意見ではないです。異論がある場合には当職ではなく、国(行政機関)と裁判所にお願い致します。
※当方は法律家というよりも、国際家族の一員ですから、身内に外国人のいないような一般の法律家の所詮は「他人事」の感覚で取り組んでいるものでは御座いません。
※最初に以下の文献等を必ずお読み下さい!法務省側の一般的解釈です。下記文献では旧露国籍法の事例ですが、基本的な考え方は現行露国籍法でも同じです。文献は他にも多数ありますが、さしあたりわかりやすいものだけご案内致します。戸籍実務で極めて重要な『戸籍時報』、『戸籍』、テイハンの『戸籍六法』は、大規模な図書館、大学図書館等のほか、ほとんどの市区町村にありますので、市区町村によっては、コピーをもらえます。まずは相手(国)の考え方を正確に知る、ということから始まります。
□日本加除出版『戸籍時報』684号(2012年)85頁~89頁
□テイハン『戸籍』858号(2011年)68頁~73頁
□テイハン『戸籍六法』の巻末・「出生による国籍取得に関する各国法制一覧」のロシアの頁(出生時に取得しない場合について明記)
□ロシア国籍許可証明書の見本
□駐日露大使館の「日本人側の同意書の書式見本」(国籍取得だと明記あり、出生届とは書いていません。つまり読めば分かります。)
□駐日露大使館の「ロシア人側の国籍取得申請書の書式見本」(国籍取得だと明記あり、出生届とは書いていません。つまり読めば分かります。)
□日本旅券発給申請書(出生で意思によらず自動的に外国国籍を取らず、その後に外国国籍を、国籍法11条1項の「自己の志望」で取得した場合の、旅券法違反の虚偽記載にならない書き方の見本です。但し、このように、きちんと正確に書くと、日本旅券の発給を拒否される場合があるのは勿論ですので、ご本人の自己責任でお願い致します。)
□ロシア連邦国籍法訳文(12条1項c号をご覧下さい。この場合出生時に取得しません。14条もご覧下さい。14条では、「外国人」とあり、14条の適用で許可された場合、許可前にはロシア国籍は存しなかったことを意味します。なお、条文配置若干変動あります。日露の国籍法は生き物です。今後も変動はありえますので、この記事のみで法律判断されないで下さい!)
※以上いずれも特別な書式ではなく、駐日ロシア大使館のものは、大使館に行けば通例頂けます。
※文面上も、当職の経験上も、「多くの」日露ご夫妻は、国籍を得る行為だという認識・認容を持ってこの申請をしており、夫婦の共同行為で行っていると考えられます。どうもそこの認識が違う方がおられるようですが、私が申し上げているのは「一般論」です。個別案件での状況の違いは、そこは裁判官が判断されるでしょう。
※しかし、中には、「出生届だと誤認されていた、ロシア国籍を取ることの認識・認容は一切無かった、ロシア国籍などいらなかった」、という趣旨でおっしゃる方がおられますが、本当にそうでしたら、それはその方の個別の事情の問題ですから、訴訟等で主張して頂くことになるでしょう。ただ、主観的構成要件要素である認識には色々なバリエーションがあると思われます。「出生届だと考えていたが、同時に、ロシア国籍を頂く行為だと考えていた」事案、「旅券を取る行為だと考えていたが、同時にロシア国籍を頂く行為だと考えていた」事案、「母の旅券に子どもの写真を貼る行為だと考えていたが、同時にロシア国籍を頂く行為だと考えていた」事案等々。そもそも、申請書面では、ロシア人側親が署名する書面、日本人側親が署名する書面、いずれも、国籍取得申請の趣旨で書いてありますし、ロシア国籍の許可証明書自体に「当該子どもに、ロシア連邦国籍を与えることにつき、反対しない。」といったことをロシア政府として公式に認定した事実も記載されています。仮に「ロシア国籍を取ることの認識・認容は無かった」という場合は、日本人側親もロシア人側親も、全てのご家族の皆様が、全員、書面を読まないまま、記載なさったという意味でしょうか。書面を見れば分かるのですから、ロシア人側の親も含め、全家族が書面を読みませんでした、ということは、ありえない話です。日本人側がロシア語をお読めになれなかったうえ、ロシア人配偶者側が日本人配配偶者側に説明する際、「国籍」という単語を知らず、別の言葉で説明し、かつ、日本人側に国籍の取得の認識・認容が一切無かったとしたら、それは個別の事情の問題ですので、訴訟で主張されるかご検討頂くお話かと思料致します。そもそも露国籍法では、ロシア人側の申請(意思表示)と外国人側の同意という意思表示が要件になっています。
このような場合、国籍取得の申請が自己の意思によるものと推定されるという見解もあります。また、仮に、そうした主張が「客観的真実」だとしても、訴訟で認容されるかどうかは、立証の問題を個別の事案でどう考えるかも含め、たまたま担当した裁判官の個別の判断になります。
(契約法の場面ではありませんが)法律学の根本法規範の一つである民法一般原則上、契約書を読まないでサインしたからというただそれだけの理由で、契約の効力を常に必ず当然に全否定されるとは限りません。「契約書の内容を読まずに署名してしまった」ので、今回の契約は無効でお願いしますと言って、通用するかどうか。そして、法律の世界には、「法の不知はこれを許さず」という法諺もあります。「自己の志望」ではなかったと主張する場合、成人の日本人がアメリカやカナダに国籍の申請をしてアメリカ人やカナダ人になった案件で、裁判でこれは「自己の志望」ではありませんでしたと主張すれば、全員が常に必ず国籍法11条1項に該当せず、二重国籍になると裁判所は判断するのでしょうか。関連する先例(裁判例であって最高裁判例はなし。)はありますが、迫害等から逃れる必要等のあった中国残留孤児等のケースです。
※この問題が、人によって意見が違う背景には、国籍取得時の認識が人によって違い、夫婦の各々の主観も違う場合があるという事情があります。ロシア語読める日本人夫も相当多いはずですが、読める人にとっては、国籍取得であることに普通は異議ないはずです。書いてあるんですから。国籍取得に異議あるならなぜサインしたのですかと。特に夫婦二人で行き、夫妻双方共にロシア語が出来る場合、ロシア人側の申請書も目にしますし、日本人側の同意書も見れば分かりますから、「出生届」という発想は出てこないのが普通です。この点につき、ロシア人と申請書面と同意書を見ながら議論しましたが、ロシア語読める限り勘違いすることはあり得ない、という結論になりました。
そもそも、日本で出生した日露の子どもの場合、「出生届」らしきもので、あるのは、「日本の出生届受理証明書に露大使館で翻訳認証したものを作成する作業」です。「日本の出生届受理証明書に露大使館で翻訳認証したもの」はその後、ロシア国内でも色々な作業で使うもので、ロシア国内で出生した場合のロシアの出生証明書に相当する役割を担います。
もし日本人側の陳述書が日本語か日本語訳文があったら、「出生届だと思っていた」などと弁明する方も減ることでしょう。ついでに、ロシア人女性とこの件を議論した際、以下の話を聞きました。「・・・ロシア人の奥さんの中には、奥さんはロシア国籍欲しいが、旦那さんはこれに反対で、ロシアの国籍なんか欲しくない場合がある。そういう場合に、奥さんがロシア語読めない旦那さんにこれは出生届だよとか言って、サインさせる場合がよくある。ウソついたので、ロシア大使館がそう言っていたと大使館のせいにして、奥さんは自分のウソだとは今更認めない。なんでそこまでして奥さんが子どものロシア国籍が欲しいかっていうと、ケンカや離婚した場合に、すぐに子どもをロシアに連れて行くため。そういう場合、そういう旦那さんのほうはそれが分かるので、ロシアの国籍はないほうがいいと思っている。・・・」・・・ということだそうです。・・・該当する方は、大変お気の毒です(こういう話まで含まれているので、ますます紛糾するんですね。奥様はウソだったと認めることはないかもしれません。最悪のケンカになりかねませんから。)。もし、真実、そういうケースであれば、そういうご主人は、堂々と「国籍取得の認識認容が一切無かった」と裁判で主張されればと思います(裁判官に認容されるかの保証はできませんが。)。ただ、訴訟上の主張の根拠が「妻に欺罔された」なのか「大使館に欺罔された」なのかという点を明確にする必要があります。
国籍法は刑法学の場面ではないですが、便宜上、刑法学の用語を借用して言うと、行為の客観面は、明らかに国籍を取得する行為なのです。申請書面と同意書見れば分かるはずなのに、「読みませんでした」という主張に近いです。ロシア人親側にとっては、国籍を取得する行為だと、書面上、一見して明白ですから、仮に、ロシア人側親が日本人側には正確に説明できず、日本人側の親の主観面は「出生届」だと認識していたとします。しかし、そもそもそれでは「何をするために出生届をした」のかを検討する必要があるでしょう。一般的には、ロシアに渡航するために便利になるようにと、子どものロシアビザが要らなくなるようにするために、子どものパスポート(母親の旅券の子ども欄に写真を貼る場合も法的には同じ意味)を頂くために行った行為ではないでしょうか。実際、この「手続」の直後にパスポートを頂いているのが普通です。パスポートを頂くとは国籍を頂く結果として生じるものと解されます。この点、そもそも外国国籍の取得とは名称を問わないと解されています(木棚コンメンタール342頁)。ですから主観面が、形式上、名目上、「出生届」であっても、「同時に」、外国国籍の取得の認識認容と、外国国籍の取得を希望することの内心的効果意思を含んだ意思表示があれば、11条1項に該当する場面は存在するものと解されます。
換言すれば、「国籍を得ることに錯誤なく、ただ、国籍を得る効力発生時期に錯誤あるだけの事案」が存在すると解されます。主観面が、出生届で、出生届時に国籍得ると、認識されていたか、主観面が、出生届で、出生時に国籍取得効果が遡及すると、認識されていたか、いずれであっても、国籍取得の認識認容ありと解釈可能です。
このように書くと、主観面が「出生届」の場合であっても、必ず、11条1項に該当するなどと主張しているなどと誤解されますので、そういうことを申し上げているのではないです。先例では、「出生届」だと誤認し、国籍取得の認識認容が一切無かった事案で、11条1項に該当しないとした事案は、存在します。
結局、これを公的に明白に確定させるためには、訴訟を提起し、裁判官による判断が必要な場合がありますが、その場合、国側の代理人の主張と原告側の主張、そして裁判官の判断という流動的な要素で左右されてしまいます。裁判官側の「重国籍防止理念」重視の程度によっても動いてしまうでしょう。
私が申し上げたいのは、誰もが訴訟できるわけではないうえ、このような曖昧な主観面(したがって訴訟での判断は個別に変わってしまうと思われ、安定はしない)で子どもの人権を左右させる国籍法11条1項自体に疑義があり、子どもに対する関係では無効だということを最高裁で確定して頂くことです。
ところが、裁判官が「重国籍防止理念」をあまり重視せず、特定・個別の案件で、ある案件で、国籍取得の認識認容がなく、自己の志望に該当しないと判断したとしても、それは単なる個別判断に過ぎず、別件では別の結論が当然予想されるゆえ、国際家族全体を悩ます国籍法11条1項自体は、子どもに対し、有効に存続することになるため、この問題の根本的解決にならないのです。
※当方は憲法訴訟、及び、親の「外国国籍取得の認識・認容」=子どもの「自己の志望」であるという行政実務に関して最高裁まで訴訟することに係る賛成派です。
こう書くと、私が訴訟反対派だとみられるようなのですが、真意は違います。個別の事情で左右される、ある意味、不安定な親の「外国国籍取得の認識・認容」の解釈論の枠内で議論するのではなく、日露全家族のため、いや、全国際結婚家族のため、国籍法11条1項を、たとえ親に「外国国籍取得の認識・認容」があっても、(大人はほとんどの場合、「自己責任」でしょうが)少なくとも子どもに適用する場合については、最高裁で違憲無効ないし解釈上無効にして頂きたいというのが真意です。そういう意味では憲法訴訟に限らないわけですが、最高裁で決めて頂くことが重要です。国籍法11条1項の合憲性だけではなく、親の「外国国籍取得の認識・認容」=子どもの「自己の志望」であるという行政実務には「議論の余地」があるのはその通りでしょう(法解釈ですから、ほとんどどんなものでも「議論の余地」はあるのですが。)。実際に訴訟する場合には、他にも色々と裁判上の主張は可能ですが(訴訟では基本的には何か言うのは自由。認められるかは別論。)、既にこの頁の分量の限度ですので、控えさせて頂きます。
国籍法11条1項のためにどれだけの国際家族が心痛し、想像を絶する負担を強いられているかということです。たとえば、ある家族は、この問題に関連し、理由があって、ロシアに渡航する回数が増えたため100万円ほど費やしています。精神的苦痛も大きく、現在の行政実務では、兄弟姉妹で違う立場になってしまう場合もあります。兄弟姉妹で違う立場になっており、今から大人になったら、子どもにどう説明しようかなどと悩む必要まで出てきます。
※ちなみに、ロシア政府側の立場からすれば「自己の志望」ではなかった(内心的効果意思を伴う両親の意思表示ではなかった)などというのは、認めるのが困難だと思います。「自己の志望」ではなかったとなれば、ロシア国籍も許可できなかったのではないでしょうか。仮に真実、「自己の志望」ではなかったなら、ロシア国籍は遡及的に(といいますか原始的に)錯誤無効で内心的効果意思を欠缺し消滅し、ロシアへの入国はロシア査証を取らなかったゆえ、ロシアへの不法入国になるという理屈すら思い浮かびます(実際はそうはならないでしょうが、法理論的民法総則的発想です。)。ロシアも主権国家ですから、裁判官は、公的機関であるロシア政府が公式に「両親の意思表示あり」と認定した事実をどう評価するでしょうか。
※ロシア大使館側がこれは「出生届手続であって、国籍取得ではない」という趣旨の説明した事例があるとの話がありますが、間違った説明を言うというのは、それはあり得る話です。あり得ますが、常に必ずそういう説明をするとまでは言えないはずです。どの日露夫妻にせよ、365日、駐日露大使館の領事部窓口にて観察しているわけではないので、たとえば過去5年間毎日どうだったのかを正確にコメントできる方はおられないでしょう。私が現認した事例、及び、確認した事例複数ではそんな説明はしておらず、駐日露大使館の領事部窓口は、きちんと国籍取得だと言っていました。仮にある時期のある窓口職員が出生届ですと言ったとしても、申請書面では、ロシア人側親が署名する書面、日本人側親が署名する書面、いずれも、国籍取得申請の趣旨で書いてあります。水掛け論になるので、国相手の訴訟で主張して頂くほかないと思われます。
※ご不満お持ちの方はおられるはずですが、露国籍を取る行為だという認識・認容を持ってこの申請をした夫婦がいるのも厳然とした事実なのです。露国籍を取る行為だという認識・認容を持ってこの申請をした夫婦にとっては、「国籍法11条1項に該当するのは、仕方ないかな。」と思う場合や、「争うとしたら、11条1項の違憲無効か、親の「外国国籍取得の認識・認容」=子どもの「自己の志望」であるという強固な行政実務を最高裁まで争うかどうか。」と思う場合があるのも事実なのです。「国籍法11条1項に該当する」と事前に想定していた夫婦も存在します。感じ方は人それぞれです。そういう感じ方をする夫婦も、現にたくさんいるわけで、あたかも国籍喪失届や帰化申請をする多くの日露夫婦(便宜上「国籍喪失届・帰化申請支持派」と称します。)が間違っているかのように主張するのは、好ましいとは思われません。なぜなら皆さん、子どもの親です。誰だって、子どものことは真剣に考えます。それを間違っているかのように言われるのはいかがなものでしょうか。訴訟を全く考えない方もおられますし、訴訟中に旅券の更新が要る場合もあり、海外渡航や日本旅券の必要性等で、訴訟をできる状況にありながら、敢えて、訴訟しない方もおられますし、色々な理由で訴訟はできない方もおられます。色々な考え方があり、国籍の得喪や変遷にそれほど拘泥しない方もおられます。訴訟するエネルギーと時間を「子どものため」に別のことに使いたいという方もおられます。つまり「価値判断」ですから他者に押し付ける性質のものではないはずです(この論稿も他者に押し付けることを意図していません。単なる参考情報の提供に過ぎません。)。そして、現に法務局も(客観的に国籍喪失といえる事案は)国籍喪失届と帰化申請へ誘導されるわけで、それにしたがった方々をなぜ間違っているという趣旨で非難できるでしょうか。
また、国籍喪失届を決めるご夫妻の中には、露国籍取得=日本国籍喪失をしてから、わずか数日や数週間しか経っていないという状況の方もおられます。この場合、入管法上、不法滞在にならず、在留資格取得許可申請でカバーできるのです。特受を入れれば、結構長く申請受付可能です。しかし、入管側は国籍喪失届が受理され、戸籍から除籍されない限り、在留資格取得許可をしない立場です。このとき、このご家族が個別の事情からして客観的には「自己の志望」に該当する事案だったとして、「訴訟支持派」のおっしゃるように訴訟するべきだという意見を聞き、国籍喪失届と在留資格取得許可申請をしなかったらどうなるでしょうか。不法滞在にならなかったはずが、訴訟で勝たない限り、不法滞在に突入です。訴訟で勝てるかどうかは、個別事案での個別の事情に拠ります。国籍法11条1項が違憲無効あるいは親の「外国国籍取得の認識・認容」=子どもの「自己の志望」であるという行政実務が最高裁で確定的に否定されれば、別論、ある別件の案件で「個別の事情」で、親の「外国国籍取得の認識・認容」を欠くとされ、「自己の志望」に該当しない等として、あるご家族が勝訴したところで、別の家族の「安心保証」にはならないのが通例です。
※当方、法律書は1000冊程度は持っており、法律資格学校で受験生の憲法や民法の論文を数千通採点し、教壇にも立っておりましたので、皆様がご覧の書籍は拝見したうえで、申し上げております。
※一般論と個別論を区別して下さい。ここで書くのは「一般論」です。個別の事情で「自己の志望」に該当し、11条1項に該当する事案は当然あります。他方、個別の事情で「自己の志望」に該当せず、11条1項に該当しない事案は当然あります。ゆえに、ご自身の事案で仮に客観的に「自己の志望」に該当しないとしても、それを一般化し、あたかも全ての案件が当然にそうである(当然に「自己の志望」に該当しない)かのように言うことはできないと解されます。個別案件において、そうなるかどうかの確たる「安心保証」は現状ではありません。なお、本稿は、基本的には、客観的真実的に親が「外国国籍取得の認識・認容」をしているケースを想定し、かつ訴訟で虚偽の主張をするつもりがない場面を想定しています。その場合の「訴訟」とは国籍法11条1項が子どもに適用される限度で違憲無効だと主張するか、親の「外国国籍取得の認識・認容」=子どもの「自己の志望」であるという行政実務を最高裁で確定的に否定される等で国籍法11条1項を子どもに対する限度で空文化することを求めることだという想定です。
※当方は「国籍喪失届・帰化申請支持派」、「訴訟支持派」のいずれの立場に立ったものでもありません。現状をご紹介しただけです。誤解なきようお願い致します。訴訟がご希望であれば、当方は元々、行政機関のプロと訴訟のプロの弁護士との協働を重視して仕事しており、当方には国相手の行政訴訟を多数行う外国人の人権問題に強い弁護士もおります。個別の事情で「自己の志望」に該当せず、個別案件で、11条1項に該当しないというだけでは、別の家族の「安心保証」にはなりませんから(それであれば元々案件によってはありうる話です。)、社会的意義を重視した場合、正々堂々と事実関係と駐日ロシア大使館での手続状況の真実を正確に明らかにしたうえで、国籍法11条1項の違憲無効か、親の「外国国籍取得の認識・認容」=子どもの「自己の志望」であるという行政実務を最高裁で確定的に否定することを求める「等」で国籍法11条1項を子どもに対する限度で空文化することを狙うべきでしょう。しかし、裁判所の厳しい姿勢は、同じ国籍法の12条の場合ですが、NPO等でも報告されているようです。憲法を徹底的に勉強された方は覚えておられると思いますが、法令違憲・適用違憲等の用語がありますが、戦後、法令違憲の判決は数少ないです。それが2008年(平成20年)の「国籍法3条1項違憲判決」があるので、期待してしまうのかもしれません。国籍法12条も11条1項とある意味、似たような条文で親の怠慢や過失や誤解や不知で子どもの日本国籍が消えるという制度です。子どもの関係のない親の行為で子どもの人権が侵害されていると主張できそうです。しかし、東京地裁平成24年03月23日判決(※リンク切れのためリンク削除済。)は、重国籍発生の防止という理念の合理性を是認、「国籍法12条は憲法14条1項に違反しない」、「国籍法12条は憲法13条に違反しない」と判示し、続く控訴審の東京高裁平成25年01月22日判決でも是認しています。http://www.jfcnet.org/modules/pico/index.php?content_id=9(※リンク切れのためリンク削除済。)
資料から拝見すると、平成22年受付で、東京高裁までで3年間くらいかかっていますかね。あとは最高裁ですが・・・。このような判決を拝見し、私は『絶望の裁判所 (講談社現代新書) [新書]』という本を想起しました。
※考え方として、「訴訟支持派」には、大きく分けて三つくらいの分類が可能かと思います。実際にはこれらが複合された主張となるケースがあるでしょうが、考え方の整理です。(1)客観的に親が「外国国籍取得の認識・認容」をしているケースに該当しない事案なので、その旨を主張する立場。(2)客観的に親が「外国国籍取得の認識・認容」をしているケースに該当する事案で、かつ、訴訟でそれを認めるが、国籍法11条1項を違憲無効だと主張するか、親の「外国国籍取得の認識・認容」=子どもの「自己の志望」であるという行政実務を最高裁で確定的に否定すること等を求めて11条1項の空文化を求める立場。(3)客観的には親が「外国国籍取得の認識・認容」をしているケースに該当するが、訴訟では虚偽の主張をする立場。
このうち、(1)の事案は当然の主張です。民法原則の「意思表示」の理論も関係あるでしょう。ですので、この事案に該当するとお考えの方は正々堂々と訴訟して頂ければと思います。この場合には地裁で終わり、比較的早い可能性があります。文章全体をよく読んで頂ければお分かり頂けたのですが、元々、当方は一般論を書いていたのであって、この類型を排除していたわけではないです。当方は2万人以上の相談経験があります。プロとして法律の説明をする際には、どんなときでも個別の事案によりますよと言いますので(これは行政側の口癖でもありますが。)。ただ、法務局さんが多くの事案で国籍喪失届+帰化申請に誘導される現実から分かりますように、客観的には親が「外国国籍取得の認識・認容」をしているケースに該当する事案する事案のほうが「多い」と解されます。どの程度「多い」かですが、法務局の考え方による限り、日本で出生し、かつ駐日露大使館で露国籍取得をしたケースの「大半」が「客観的には」「自己の志望」に該当すると「法務局は判断する」ものと解します。けだし、法務局は個別の案件で「自己の志望」に該当すると認定しなければ、そんな誘導は、原則、しないためです(原則、と書いたのは、例外的に法務局が間違った誘導をする場合があるゆえです。)。
ちなみに、私が関与する子どもでも、この(1)の場面の事案は現に存在し、客観的には明らかに「自己の志望」に該当しないケースが存在します。ただ個別の事案で「国籍確認訴訟」をするかどうかは別論です。というのは、客観的には「自己の志望」に該当しない事案なのに、万が一、訴訟して敗訴したら、冤罪の如く、国籍が無いことが公に確定してしまう虞れがあると考える家族もあるのです。ですので、その子については、訴訟外で行政当局と交渉していく予定です(その子の事案については、経緯と立証資料等の理由で、それが可能かつ適切だと考えています。)。このように「訴訟がいいかどうかは、各々の家族の状況と考え方で大きく異なります」。裁判官には色々な方がおられ、国・行政に有利な判決をする傾向の裁判官、逆に個人側に有利な判決をする傾向の裁判官がおられ、双方の側からとんでもない判決が出る場合もあります。
(2)の立場の場合に訴訟をするかどうかは、個人の状況や立場に左右されると考えます。考え方のファクターとして、訴訟する時点で入管法的に不法滞在かそれとも合法滞在でまだ正規手続でやれる段階か、それとも海外(欧米かロシアか等)に居住しているか、欧米等を含め海外渡航を頻繁に行うので、日本旅券が常時必要な家族か(=訴訟中に日本旅券発給拒否では困る)、等々、各々の立場は異なります。
(2)の場合には国籍法11条1項を法令違憲や適用違憲等で違憲無効だと認定されるか、あるいは親の「外国国籍取得の認識・認容」=子どもの「自己の志望」であるという行政実務が最高裁で確定的に否定される等で国籍法11条1項を子どもに対する限度で空文化して頂かねば、救済されないわけですが、日露家族への影響という点でやる社会的価値があるのはこの類型の訴訟でしょう。この場合には地裁で終わるべきではなく、最高裁まででしょうし、時間がかかり、かつ、(個々人の立場や状況、ニーズにも拠りますが)リスクの高い訴訟になるでしょう。ですが、社会的意義を目標にやる意味はあるゆえ、これをなさる方は立派だということもできるでしょう。最高裁で勝訴すれば、新聞やテレビに載ると思われるのもこの(2)の類型でしょう。国籍法は重国籍防止を理念に国民全体の代表である国会が決めたルールですが、時代遅れ感があるのは事実ですから、大きな影響があり、それで国籍法3条のように11条1項の法改正まで至って頂くことを目標とすることになるかもしれません。当方には国相手の行政訴訟を多数行う外国人の人権問題に強い弁護士もおりますので、興味のある方はご検討下さい。既に訴訟提起されている方もおられるかもしれませんが、事案も違うでしょうし、訴訟のやり方は弁護士によっても違いますし、担当裁判官も違いますから、別件で敗訴しても、こちらのほうでは勝訴していく可能性もゼロではないでしょう。また、訴訟の件数が増えれば、国を動かす上で意味ある場合もあるでしょう。「社会的不正を正す」という言い方も可能かもしれません。ただ、このような訴訟で勝てる可能性を実際(弁護士の本音)よりも高く言うことが、万が一あるとしたら、好ましいとは思われません。一種の憲法訴訟かそれに準じるような大きな社会的影響があります。当方も当方の訴訟担当弁護士も、一般に、何か案件を受任する場合、国や行政(例、入管や法務行政)に勝てる見込みは、どちらかと言えば、控えめに言います。それは経験上、控えめにお客様にお伝えしたほうが、お客様を戸惑わせる結果になることがないためです。ですが、一部の法律家はこれを過大に言います。もっとも、訴訟案件を受任するに際して、「大変に酷いお話です。子どもの人権を何だと思っているのでしょうか。まさに古色蒼然とした国籍法です。法律家の大半がこれは憲法に違反すると思っているでしょう。」等と言うことは、お客様を勇気付ける等のために、申し上げることはあるでしょう。訴訟する原告側はそうだと信じて(主張して)、最高裁で勝つつもりで、憲法訴訟ないし行政側の極めて重要な見解を変えようとする訴訟をするわけですから。
(3)訴訟で虚偽の主張をするということは本稿では想定しておりません。理由は、虚偽の主張をしてある案件でたまたま勝ったところで、国際家族全体の安心保証にはならないためです。そのような場合には、突発的な日本旅券の拒否は今後も続くでしょう。原告の本人尋問等で虚偽の主張をして、ある案件でたまたま勝ったところで、11条1項の違憲無効に比べれば、先例価値も大きくはないでしょう。国際家族全体が、11条1項で悩まなくていいように、国籍法11条1項を(子どもに適用される限度で)違憲無効だと最高裁で認定されるか、あるいは親の「外国国籍取得の認識・認容」=子どもの「自己の志望」であるという行政実務が最高裁で確定的に否定される等で国籍法11条1項を子どもに対する限度で空文化して頂き、法改正にまで至ることが肝要と考えます。
※国籍法は刑事手続ではないので、以下の話は気にしないで頂きたいのですが(法律論というよりも、「法律エッセイ」です。)、自己の志望というのは、刑法学的用語を借用して言えば、主観的構成要件要素です。刑事事件では検察側に立証責任があり、刑事事件での立証レベルは民事よりも高いものが要求されます。刑法ではたとえば故意につき、**したのは自己の志望ではありませんでした、あるいは、認識・認容しておりませんでした、と主張すればどんな場合でも必ず、無罪になるのでしょうか。それであれば、法律の意味はないですね。このような主観的構成要件要素の立証は、間接証拠(状況証拠)、本人や関係者への尋問、調書等で、外形的・客観的に行うと解されています。実際、本人が全面否認しても、間接証拠(状況証拠)だけで故意ありとされる事件は多々あるのはご承知のとおりです。もっとも、国籍法11条1項の自己の志望については、刑事事件とは別論であり、行政側の解釈と先例(文献に載っている初期の代表事例だけではなく、その後の現在までの個別の行政判断で言えば数え切れないほどあるでしょう。そういう個別の判断はもはや文献にも載らず、市区町村の戸籍や法務局の判断事例として、個人の戸籍に山のように積み重なっているというイメージになります。)の積み重ねは極めて重いものがありますが、しかし、最高裁判例があるわけでもないですから(そもそも無数にある様々な法令の分野で最高裁判例がある場面は極めて少ない。)、社会全体のため、判例作るつもりで正々堂々と訴訟することは、社会的意義はあると思われます。
現行法では、外国国籍を「取ること自体」は勿論、犯罪ではないです(中東等の正常不安定な紛争状態の世界のどこかの国同士の間では、国籍を指定して、ありうる話ですが。)。ただ、「二重国籍は好ましくないという制度趣旨」に基づく「二重国籍防止」を理念とし、国籍法11条1項に該当するなら日本国籍が自動的・瞬間的に消えるという制度です。これは単なる仮定の話なので、気にしないで頂きたいのですが、仮にここがウクライナだとします。かつ、ロシアとウクライナが国家間の本格的な戦争を開始したとします。それでウクライナ政権が「わが国において、クリミアやウクライナ東部等の特定の地域にて、ロシア国籍を自己の志望で取得した者は懲役刑に処する」、という法令を作ったとします(ありえそうな話ですね・・・。何しろ、ロシア政府は自国民の保護を理由に介入をするのですから、ウクライナ政権側からすれば、ロシア国籍の市民が増えては困るはずです。またロシア側も自国民に危険があれば見過ごせるはずがありません。それで仮に同時にウクライナ国籍が残存しているとなると、その市民を両国はどう処遇するのか・・・。これが重国籍防止という思想の背景の一つになっています。子どもかどうかは関係ないという思想につながります。子どもを除外しないことに、それなりの理由があることが分かります。逆に子どもだからこそ、二国間の紛争の巻き添えにするべきではないという考え方すらあり得るでしょう。それでは世界に存在する重国籍を認める国々は何なのか。それは平和ボケが理由なのか。国内がそういう紛争状態にならない自信がある国だからなのか。ということで、法廷では、重国籍防止の理念自体が問われることになるでしょう。国籍法は元々は歴史のある法律ですから、世界中が相互ににらみ合い、国家・国民のために戦った戦争経験のある方々がお作りになったものでしょうね。そういう背景ですと、二重国籍は出生等によって自動的に取得する場合以外は、原則として許せないという発想もあるのかもしれません。木棚先生のコンメンタールによれば、旧法では明治32年(1899年)からあったようです(明治32年 旧国籍法20条「自己ノ志望ニ依リテ外國ノ國籍ヲ取得シタル者ハ日本ノ國籍ヲ失フ」)。明治32年からほとんど全く同じ文言だったのかと驚きますね。1899年というと、ちょうど日清戦争と日露戦争の間です。100年前というと、大昔のようにも見えますが、人類の歴史で言えば、つい最近のことです。ロシアとウクライナだって、少し前までは、まさかあんなことになるとはほとんど誰も思っていなかったですね。)。この場合、「いえ、私は自己の志望ではありませんでした。勘違いです。」と主張して、必ず通るでしょうか。結局、その国での(一般国民を代表する機関の)政権側がどう判断するかに尽きます。日本はウクライナではありませんが、司法権の独立といっても、一般国民の意思や、政治の影響から全く無縁なわけではないですし(これを憲法学では「民主的コントロール」といいます。もっとも、ロシアとウクライナを見ればお分かりのように、「民主的コントロール」とは何なのか、永遠のテーマですね。)、訴訟制度は相対的なものであり、永遠不変のものなわけでもないのも事実です。
本当に外国籍取得の認識・認容がない事案は、それは裁判で争えるでしょう。刑事事件だって、本当は無罪(故意なし)ならいかに起訴されたところで、冤罪だと主張するのが当然でしょう。ただ、そもそも本当に外国籍取得の認識・認容がない事案は、一定の事案で、一定の証拠がある場合、訴訟外で行政当局と交渉可能な事案もあることを付言させて頂きます(具体的な場面は、外務省ないし旅券センターから日本旅券を得る場面と、法務局とで生じることが多いでしょう。)。他方、訴訟しないと不安定な状況が確定しないという事案もあるでしょう。そもそも訴訟しないと、子どもの不安定な状況が確定しないというのであれば、誰でも訴訟できるわけではない以上、「子どもにやさしくない」この制度自体に根本的な疑義があります。
私が最も申し上げたかったのは、外国籍取得の認識・認容がある事案については、訴訟するのであれば、正々堂々と子どもに対する11条1項の違憲性や子どもに対する有効性につき最高裁の判断を求めるという点です。
※日露のケースで日露家族一般が「違和感」を感じる理由の一つは、日本で生まれた場合に出生時に自動取得しないという知識と国籍法11条1項が、戸籍関係文献や戸籍六法等には明記あるものの、戸籍専門の法律家では「常識」(というか調べればすぐ分かるレベル。)であっても、一般市民の「社会生活上の常識」にはなってはいない(いなかった)というのが背景にあります。仮に「日本で生まれた場合に出生時に自動取得しない」+「自己の志望によつて外国の国籍を取得したときは、日本の国籍を失う。」という知識が「日本人がロシアに行くときはビザが必要です。」と同じレベルで常識なら、感じ方も違ったのではないでしょうか。つまり、「日本人がロシアに行くときはビザが必要です。」は(日露家族であれば)誰でも知っています。そういう場合に、ロシアに行くとき、「ビザが必要とは私は知りませんでしたので、ロシア入国をお願いします。」で通用するでしょうか。変人扱いされるだけであり、これは通用しないですね。
そこで、論点になるとすれば、国家は、この日本で生まれた場合に日露夫妻の子は出生時に露国籍は自動取得しないという知識と国籍法11条1項につき、あたかも日本の市役所の窓口や駐日ロシア大使館の窓口ににポスターを貼りだすような形で、周知徹底する法的義務があるのかどうかです。日本の市役所の窓口に大きく書いてあれば、世間の「常識」となっていくかもしれません。ただ、市役所の窓口のスペースは限られており、他にも色々な一般市民向けの案内をする必要があるでしょうし、在留外国人は、そもそもロシア以外の国の出身者のほうが多いですし、そもそも日露家族が窓口にお越しになる頻度は極めて小さく、市役所がそういう行為に出るのは困難なのでしょう。駐日ロシア大使館側のほうは、そもそも日本国籍を喪失するかどうかは、日本政府の法令の判断の問題なので、駐日ロシア大使館の責任でも仕事でもないので、駐日ロシア大使館側の掲示板にそれを明確に書くのは難しいという背景もあるのでしょう。そもそも、日露両国の国籍法をよく読みますと分かりますが、国籍の問題は非常に広範で、日露家族の国籍喪失問題だけではないため、「法律読んで下さい。」としか言えない背景がありそうです。
ということは、ですが、国際結婚するご家族はお相手の国と日本の法律を、自分で読まないといけないということだ思うのです。「国際結婚するご家族はお相手の国と日本の法律を、自分で読まないといけない」が「常識」となれば、「違和感」もなくなるのではないでしょうか。「そんなことできない。」・・・というか、国際結婚って元々、そういう大変なものだという認識を、もはや「常識」だとするべきなのではないでしょうか。(ここでプロに相談すれば、などと申し上げると、また「宣伝」だなどと言われるので、書きません。日本人は米国等に比べ、専門家を利用するという発想が弱いです。)
国籍法11条1項については、旧法では明治32年(1899年)からある歴史ある規定ゆえ、知りませんでしたというのは、厳しいのではないかと思われます。「国際結婚するご家族は国籍法を必ず読まないといけない」を「常識」として頂くことが、こういう問題が今後発生しないようにするために必要なことかと思われ、市役所の窓口にポスターを貼って頂くとすれば、国籍を問わず「国際結婚される方は、必ず、両国の国籍法をよくお読み下さい!」と「注意書」を貼りだして頂くことでしょうか。ただ、市役所はお役所です。そういうものを貼りだすと、国籍法に関する質問が増え、仕事が増えるので、嫌がるという本音もありそうです。
※ちなみに、日本人側の陳述書(同意書)に「反対しない」とあるのを=自己の志望と同視できるかについては、これは法務省・法務局側の解釈では肯定です。これも反論ある方は訴訟して頂くしかないでしょう。私見では、そもそも露国籍法では「同意」という文言です。そこをロシア側は日本人側の陳述書(同意書)に「反対しない」という定形文言で表現させています。つまり、ロシア側の理解ではこれは「反対しない」=「同意」とみるわけです。「反対しない」=「反対しないが、同意でもない??」=「同意ではないので、自己の志望ではない??」、などと、実は私も4~5年くらい前に考えたことがあります。ただ、・・・仮に同意しないならなぜ署名したのでしょうか・・・「同意していないなら、なぜ署名したのですか。」と聞かれたらどう答えるのでしょうか・・・冷静に考えてみれば、普通、わざわざこんな書面に「反対しない」とあるものに署名すればそれは同意だろうと思われます。現にロシア側も同意と扱っているわけで・・・。私は昔々、ある案件で、東京法務局戸籍課に行っていたのですが、その場に居合わせた戸籍のプロ集団(戸籍や国籍の知識では並の弁護士とかの比較にはならないほどのものをもつ)である東京法務局戸籍課職員らも全員同じ意見でした(一人だけに聞いたわけではないです。部内で協議して頂きました。)。法務省・法務局側の解釈に反論ある方は訴訟して頂くしかないでしょう。私見では、そういう論点で訴訟するというよりも(原告が訴訟で主張するのは自由ですですし、訴訟する場合には言えそうなのは何でも主張するわけですが。)、子どもに対する11条1項の違憲性や子どもに対する無効性を求めるべきではないかと思います。
※本稿はこういう問題があることを事前に知らせ、警鐘を鳴らすためのものです。個人個人事情は異なるので、下記の記載のみで決して、ご自身の問題の法律判断はなさらないで下さい。また一部分のみを飛ばし読みなさることも、(常に必ず国籍喪失だと書いてある等といった)誤解を招くので、ご遠慮下さいませ。
なお、以下の説明は、基本的には、「日本で出生し、駐日露ロシア大使館で、ロシア連邦国籍を取る行為だという認識・認容を持ってこの申請をなさったご夫婦」を前提にしておりますので、ご自身はそうではないとか、あるいは、国と訴訟する意思がある、という方は別論です。予め、ご了承下さいませ。これだけの原稿をありとあらゆるケースを想定して書くのは困難であり、一般論であることを予め、ご了承下さいませ。
○ロシアで出生するか日本で出生するかが運命の分かれ目
ロシア国内で生まれた場合、(日本国籍留保により)生来的に日露二重国籍になります。一方、日本国内で生まれた場合、生来的には、二重国籍にはなりません。これは「現在の」ロシアの国籍法においては、その場合には、生来的な国籍付与を認めていないからです。これはロシア連邦国籍法では、「出生によるロシア連邦国籍の取得」として、以下を要件にしているためです。「父母の一方がロシア連邦国籍を有し、他方が外国人であるときは、子がロシア連邦の領域内で生まれた・・・こと。」
もっとも、ロシアの国籍法では、このような子どもにつき、在日ロシア大使館において、ロシア国籍を容易に与えています。しかし、これは生来的に付与したものではなく、あくまでも出生後に事後的に付与する形式になります。つまり、日本の国籍法では、これはロシア国籍への帰化ないしロシア国籍取得を意味します。この結果、日露夫婦の子どもが日本で出生した場合に、在日ロシア大使館で、ロシア旅券を得た場合、日本国籍法11条1項の「日本国民は、自己の志望によつて外国の国籍を取得したときは、日本の国籍を失う。 」にそのまま該当することになり、日本国籍は自動的・瞬間的に喪失します(実務・通説。但し、個別の事情で「自己の志望」に該当しない場合はありますから、一般論と個別の事情を切り分ける必要があります。また、国と訴訟する意思がある、という方は別論です。予め、ご了承下さいませ。私の書いた記事だけを読んで判断されないで下さい。)。ロシア旅券を得るということの意味は、ロシア国籍を得るという意味です。親のロシア国外旅券の子ども欄に写真だけ貼っているような場合であったとしても、ロシア国籍を得ていることに他なりませんので、注意が必要です。以上は私の個人的見解ではなく、日本の法務省・法務局・外務省・在日ロシア大使館の各々の高官レベルの職員の共通一致意見ですので、ご注意下さい。但し、窓口で対応されている知識不足の職員ですと、間違ったことを言う場合が「非常に」多いです。たとえば、東京のロシア大使館では、以前は二重国籍になると案内していたにもかかわらず、現在は、領事受付窓口の掲示板に、ロシア国籍を得ると日本国籍を喪失しますと書いているとのことです。法令が変わったわけではありません。ロシア大使館もようやく事実を知るに至ったということです。
○間違った理解をしている職員の説明で勘違いする夫婦が多数
ところで、外国政府(日本政府職員ですら誤解している人が存在するのに、外国政府ならなおさらのこと。)や市役所はもちろん、地方法務局レベルですと、この問題については、間違った回答をしてしまう場合もあるようです。それでは、テイハンの『戸籍六法』をお読み願います。その巻末付録に「出生による国籍取得に関する各国法制一覧」というものがあります。そこのロシアの欄をご覧下さい。「両親の・・・他方が外国籍の場合、国外で出生したときには(ロシア国籍を)取得しない」という趣旨で説明されています。つまり、日本で出生した日露夫妻の子どもは、出生と同時にはロシア国籍を取得しないという解釈が戸籍実務で決まっているのです(なお、日本とロシア以外の国で出産した場合は、ロシア側からすれば「外国」そのものですので、「外国」(ロシア連邦領域外)であるところの日本で出産した場合と同じです。つまり、出生と同時に(自動的に)はロシア国籍を得ることになりません。)。そして、外国に「帰化」すれば、日本国籍は喪失します。そうした子どもが在日ロシア大使館で旅券を得る行為は、帰化行為に他ならず、日本国籍は喪失します(日本国籍法11条1項。但し、個別の事情で「自己の志望」に該当しない場合はありますから、一般論と個別の事情を切り分ける必要があります。私の書いた記事だけを読んで判断されないで下さい。)。なお、これは未成年であっても同じです。親の法定代理権の行使で外国に帰化した場合、日本国籍は喪失します(日本国籍法11条1項)(実務・通説。このかなり強固な行政解釈につき、国と断固として訴訟する意思がある、という方は別論です。予め、ご了承下さいませ。)。この点、在日ロシア大使館でのロシア国籍取得申請は、ロシア人親側だけの申請行為だと勘違いされている人もいるようですが、日本人側の親の同意書への署名も要件になっていますので、明らかに親権者双方の代理行為であり、日本国籍法11条1項に該当しないという抗弁は成り立たないと解釈されています(戸籍実務。なお、国と断固として訴訟する意思がある、という方は別論です。予め、ご了承下さいませ。)。
但し、一部の法務局では、国籍喪失届を審査する際、誤って、「喪失しない」と回答したりしています。しかし、ここで注意して下さい。その判断というには、その地方の法務局の職員の、その時点での間違った判断に過ぎません。たとえば、将来、外務省ないし旅券センターが国籍喪失を発見したらどうなるでしょうか。既に長年不法滞在(や不法入国)をしてしまっていることになるのです。ですから、地方の法務局だけに聞いても不十分なのです。
以下は、外務省旅券課職員の発言そのまま引用します。「・・・ロシアの場合ですと、日本出生、生後にロシア国籍(旅券)取得の案件で、日本国籍を喪失すると法務省は回答していますよ。間違いないです。・・・」(外務省旅券課職員) そもそも、「喪失しない」という「噂話」は、当事者が、市区町村や一部の地方法務局へ、個別の事情をきちんと説明しないで、ちょっと電話で問い合わせただけで、そのうえで、法務局側が、きちんと調べないまま安易に、法務局職員が「喪失しない」回答しているケース、あるいは、外国側の大使館の職員のうち、よく分かっていない知識不足の職員が、問い合わせに回答した際に、「喪失しない」と回答しているケース、だけであり、きちんとした手続きに載っかったケース、きちんと調査されたケースで、客観的真実として、親が「外国国籍取得の認識・認容」をし、かつ、親がそのことを自認している事例に関しては、「喪失しない」との結論になったケースは、日露の現行法では、一件も確認されていません(但し、個別の事情で「自己の志望」に該当しない場合はありますから、一般論と個別の事情を切り分ける必要があります。私の書いた記事だけを読んで判断されないで下さい。また、国と断固として訴訟する意思がある、という方は別論です。予め、ご了承下さいませ。)。インターネットの投稿の掲示板や友人の話を鵜呑みにしているのは最悪です。なぜかといえば、日本人とロシア人の夫婦の場合、日本人側はこの問題については、あまり深く調べていないにも関わらず、外国人側配偶者の意見を鵜呑みにしている傾向にあります。ところが、その外国人側配偶者は、友人の同じような境遇にある人の意見を鵜呑みにしています。そして「大使館の人が二重国籍になると言っていた」という噂話が一人歩きしています(いました。※本稿を最初に書いたのは数年前です。一部、古いままですので、ご了承下さい!!!)。仕事で忙しいのは分かりますが、子どもの国籍という大事なことですから、妻や夫に任せず、まずは、日本人側がきちんと調べることが大切です。
なお、行政書士の私は、以下を確認済です。東京法務局戸籍課(日本で最大規模の地方法務局)の5~6人の意見が一致し、また、外務省旅券課のベテラン職員+中堅職員+若手職員ら全員意見一致、及び、法務省民事局民事一課のベテラン職員も同じ結論であり、現在の日本政府の公式見解では、国籍喪失の結論は、100%確かです。日本側は、外務省、法務省、法務局、入管の四者の一致した意見で「国籍喪失」、なのであって、結論は出ています(但し、個別の事情で「自己の志望」に該当しない場合はありますから、一般論と個別の事情を切り分ける必要があります。私の書いた記事だけを読んで判断されないで下さい。また、国と断固として訴訟する意思がある、という方は別論です。予め、ご了承下さいませ。)。
○世間一般の「常識」とは違う
日露夫妻の子どもが、日本で出生した後、駐日ロシア大使館でパスポートの申請=ロシア国籍の申請をして、ロシア国籍許可証明書やロシアパスポート、あるいは、母親の国外旅券の子ども欄に子どもの写真を貼った場合に、重国籍になるかどうかにつき、以前は、駐日ロシア大使館では、重国籍になると案内していた時期がありました。これも混乱の背景かもしれません。それが今では、東京の駐日ロシア大使館の領事部の掲示板に、日本国籍を失いますよ、と注意を促す掲示を貼り出す立場に変わった経緯があったわけです(掲示に変動あるようですが、想定の範囲内です。)。では、駐日ロシア大使館は昔から本当に「重国籍になる」と考えていたのでしょうか。実は私は覚えているのですが、以前(もう何年も前の話で、まだ今ほどは、日本国籍を失うという話が明らかにはなっていなかった時期です。)、ある案件で、駐日ロシア大使館の職員、それも法務担当という職員の発言を聞く機会があり、その際、なんとその職員は「日本国籍は失いますよ。」とハッキリ言われていたのです。つまり、領事部で受け付けされているような、窓口の職員レベルはともかく、法務の責任者は、前からご存知だったということです。日露カップルなら、もうおわかりだと思いますが、ロシアなら、このような事象は当たり前のことでしょう。ロシアには「FMS」(Federal Migration Service)という日本の入管のような機関がありますが、そこはもっと酷いという話も聞きます。私は長年入管を専門にしていますが、日本の外務省も、入管も、法務局も、ロシアの駐日大使館も、露のFMSも、ちょっと聞いてみるだけでは、正直、何も分からないとしか言いようがありません。ちょっと電話で聞いてみて、分かったと判断するのは最悪です。相当な法律に関する専門知識と気合いを入れて、かつ時間をかけて、しかも経験を活かして反復的に調査し、根回し等も含め、考えられることをほとんど実行しないと、今回のような「話が違う!」という事態になります。これは忠告ではなく、事実です。実際、今回、国籍を喪失したわけで、まさにそうなっていますね(但し、個別の事情で「自己の志望」に該当しない場合はありますから、一般論と個別の事情を切り分ける必要があります。私の書いた記事だけを読んで判断されないで下さい。また、国と断固として訴訟する意思がある、という方は別論です。予め、ご了承下さいませ。)。
要するに自分自身が注意するしかないのです(但し、私は日露カップルで、インターネット上に全く情報のないころにおいて、この問題を自分で法令を調べて、事前に気づいていたという夫妻は一組しか知りません。事前に気づくのは、正直、無理だと思われます。)。そして、今回のこの問題は、日本の国籍法とロシアの国籍法の両方を理解している必要があるため、各々の国の公務員が役には立ちません。なぜなら、日本の公務員は日本の法律、ロシアの公務員はロシアの法律しか、自分の仕事ではないためです。まして行政が自国の法律すらきちんと管理運用しているのか怪しいご時世ですから、他国の法律など関知するはずがありません。
さて、現行法での解釈はもう決まっており(但し、個別の事情で「自己の志望」に該当しない場合はありますから、一般論と個別の事情を切り分ける必要があります。私の書いた記事だけを読んで判断されないで下さい。また、国と断固として訴訟する意思がある、という方は別論です。予め、ご了承下さいませ。)、最近では、いよいよ外務省、法務省、及び入国管理局が本腰入れて、摘発というか、法律に違反した行為を見つけるようにしてきています。
よくアメリカに帰化すると、日本国籍を喪失するという話を耳にしたことがありませんか。外国国籍を取れば、日本国籍は失います(但し、個別の事情で「自己の志望」に該当しない場合はありますから、一般論と個別の事情を切り分ける必要があります。私の書いた記事だけを読んで判断されないで下さい。)。日本国籍を喪失することを知っていたかどうかは、全く関係ありません。日本国籍喪失を知っていなくても、日本国籍は失います(法律を知らなかったので、二重国籍になるなんておかしいですからね。)。上記に書いたことはそれと全く同じことなのです。もしロシア国籍法が、日本で出生したダブルの子どもにも生来的にロシア国籍を付与しているなら、この問題は生じないのです。しかし、「生来的にはロシア国籍を付与しない」のです(ロシア国籍法 37条1項「ロシア連邦国籍は、以下の日から取得される。・・・その他の場合は、ロシア連邦国籍を所轄する機関が当該の決定を下した日。」)。
この点で、「子どものうちは、20歳までは、重国籍を認めると聞いた。」と言う方も多いですね。しかし、それは、生まれながらにして、外国の国籍を得たケース等のことを念頭に置いていますので、こういうケースは適用対象ではありません。要するに、国籍の問題というのは、世間一般の常識とはずれている側面があって、簡単に喪失するのです。
○ロシア国籍法には旧国籍法と現行国籍法の両方があります
ンターネットにあるロシア国籍法の日本語翻訳文は、現行国籍法のものです。この翻訳文は、正確に言いますと、ロシア語原文ではその後改正されており、条文の配置が変わっていますので、ネットにある翻訳文だけ読んで手続に用いることのないよう、御注意下さい(特に、法律専門家の方々、御注意願います。ロシア語の原文をお読み下さい。)。現行国籍法は、2002年国籍法、旧国籍法とは、1991年国籍法(以下、「旧国籍法」といいます。)とされています。時々、お客様からご質問を受けるのですが、2002年の現行国籍法以前に日本で出生した子どもはどうなりますか?という点です。結論から申しますと、基本的に同じであって、一般的に言って、日本国籍を喪失されているのが通例と考えられます(が、正確に判断するには個別の事情を確認する必要があります。)。
ちなみに、法律専門家向けの業界誌であり、かつ戸籍関係の法律雑誌では最高のものだと言える『戸籍』誌に掲載の記事では、(たまたま)ロシアの現行国籍法ではなく、旧国籍法を取り上げていますが、「日本国籍喪失」という結論となっているのは周知のとおりです。実務的には、現行国籍法の案件のほうが多いでしょう。インターネット上をみると、一部のサイトで、現行国籍法の事例設定なのに、旧国籍法で解説しているものがあります。これは、法律専門家向けの業界誌である、『戸籍』誌に掲載の記事が、旧国籍法の設定だったためです。私からすると「この(法律家の)先生は、『戸籍』誌を書き写しただけですね。」と分かるわけです。どうして私はここまで詳しいのかと申しますと、ロシアとの関わり方が、普通の(法律家の)先生方とは全く違うためです。
ついでに、戸籍関係の法律雑誌では最高のものだと言える『戸籍』誌の間違いを指摘しておきましょう。『戸籍』誌といえば、法務省の「最高頭脳」が全力で作る法律雑誌です。それに間違いがあったら、日本中の法務局職員と市区町村職員が、現場で血眼になって熟読する基本書なわけで、大問題ですね。その『戸籍』誌の記事で、「・・・2002年7月1日以降に、一方の親がロシア国籍で、一方の親が外国籍である両親からロシア国内で出生した子は、ロシア旧国籍法第12条B項の規定により出生に伴いロシア国籍を取得します・・・」とある箇所があります。これは文脈上、「旧国籍法」ではなくて、「現行国籍法」の間違いではないですか。2002年7月1日に「現行国籍法」が施行されているとされているわけですから。それと、「第12条B項」という表現が気になります。「B」は英語の「B」ではありません。露語の「B」(ヴェー)です。露語アルファベットで言いますと、三個目です。原文は当然ながら露語アルファベットです。ここで、奥田安弘教授らの翻訳文を拝見すると、露語の「アー」「ベー」「ヴェー」を翻訳では英語の「a」「b」「c」に置き換えています。これはなるほどな、という工夫です(ただ、それだと、「B」が紛らわしいほか、露語の「C」と英語の「S」と紛らわしい等の問題があるので、翻訳するなら、号数は「ア」「イ」「ウ」等で翻訳したほうがよかったのではないでしょうか。)。ところが、『戸籍』誌の記事では、単純に「第12条B項」と書いています。キリル文字を意識して使っているとは思えない文面でしたので、無意識に英語の「B」と誤認されているのでしょう(仮にキリル文字という意味で用いている場合、その旨、付記するべきです。)。加えて、「第12条」は「第1項」、「第2項」の区別がありますから、「第12条1項B(ヴェー)項」が正しかったはずです。さらにまだあります。戸籍』誌の記事では、「・・・子が出生に伴いロシア国籍を取得しなかった場合、ロシア国籍法第14条第6項Aに規定する手続に則り、両親の合意文書による申請に基づき、ロシア国籍を取得することが可能であると規定されています。・・・」と解説されていますが、「両親の合意文書」は、「旧」ロシア国籍法第15条2項にはそういう表現がありますが、2002年ロシア国籍法では、これは「他方の親の同意」に変わっていますから、不正確です。実際に、ここ数年の扱いで、駐日露大使館で手続すれば分かりますが、日本人側の親の署名は、ロシア人親側の署名とは物理的に別個の紙面に、同意(サグラァスィェ)という形式で記載します。実際に駐日露大使館で出すこの同意(サグラァスィェ)書の文面は、「ザイヴリェニィェ」(「陳述」とか「申請」等の意味)というタイトルで、「・・・私こと日本国籍者 ****(旅券番号******、西暦20**年**月**日に日本国外務省で発行)は、私の子どもである****(西暦20**年**月**日出生。旅券番号*****、西暦20**年**月**日に日本国外務省で発行)が、ロシア国籍を取得することにつき、反対しない。・・・」、とロシア語で記載されてあるものに、日本人側がサインするだけです。2002年ロシア国籍法第14条第6項a号のキーワードは、同意(サグラァスィェ)」であり、「両親の合意文書」ではありません。細かいことを言っているようですが、こんなことでも、『戸籍』誌を元にした情報を一般の方々がお読みになり、誤解された状態で、めぐりめぐって私にご質問されるケースがあるので、指摘致しました(なお、『戸籍』誌の間違いは他にもあるかもしれません。)。
・・・以上、この『戸籍』誌の記事を読んで感じましたのは、やはり日本の公務員にロシアの法令を解説頂くのは限界がある、ということでした。実際に経験した人にかなうわけがなく、机上で書いているだけなのです。「最高頭脳」でこれですから、末端は言うまでもありません。
○「日本国籍を喪失したことを一生隠そう。」は「正しい」のか。
さて、これに対し、このこと(日本国籍喪失の事実)に気づいた人のうち、一部の人は「日本国籍を喪失したことを一生隠そう。」と考えている模様です。ただ、一生隠すのは無理かと思いますし、危険過ぎます。理由は以下のとおりです。
最近では、外務省、法務省、入国管理局、及び、パスポートセンターが、国籍喪失者狩りのようなことを、少しずつ始めるようになってきました。具体的には、旅券更新時、及び、出入国時に、旅券等をチェックするわけです。一般に、「自称二重国籍者」の場合、日本出入国時に日本旅券、外国出入国時に当該外国旅券を用います。しかし、日本旅券に相手国の出入国証印が押捺されないために、日本旅券を見れば一目瞭然で、「外国の旅券を行使しているな。」と推定できます。これまでのところ、日本の出入国時の入国審査官による摘発は、あまり多くないようですが(但し、最近、空港での摘発事例が出ているのを複数聞いています。)、法理論的には、簡単に摘発可能であり、いつ積極的な摘発に転じてもおかしくありません。日本旅券を提示しないと出入国できないのですから、これを一生隠すことなど無理な話です。国際家族の子どもが、一生、出入国しないのですか?という話になってしまいますので、あり得ないでしょう。
一方、旅券を作成する外務省による摘発は、主に旅券を作成ないし更新するときのチェックで行います。旅券を作る場所は、在外公館と、日本の旅券センターの二種類あります。在外公館で更新する場合にせよ、日本の旅券センターで更新する場合にせよ、外国国籍の有無を発見するために、職員が旧旅券をチェックするのが通例になってきています。また、旅券申請書に、外国国籍の有無等を問う欄もあります。これに対し、一部の人は「外国国籍を持っていないと言おう。」と考えている模様です。しかし、旅券の虚偽申請は、偽装結婚並みに重い犯罪に該当しますから、大変に危険な犯罪行為です。子どもを犯罪者にするなんて、考えられません。
○何をさせているのか
ここでそうした方々がどのくらい危険なのか指摘致しますと、やっていることは「外国人の不法入国者」、「犯罪者」と全く同じことです。つまり、もう日本国籍者ではないのですから、「外国人」なのです。外国人は日本に在留するためには、「在留資格」が必要です。在留資格がないのに、在留しているのは、「不法滞在者」そのものなのです。日本国籍者でないのに、「外国人」が、日本国籍を装って、客観的に無効な日本旅券を行使し、入国管理局も欺罔して出入国し、外務省から虚偽の申請で日本旅券をだまし取り、市区町村でも、日本の戸籍に不実の記載をし続けているのです。これは逮捕されてもしようがないほどの連続的な犯罪行為なのですが、実感がない方は、「外国人」がそういう行為をするとどういう犯罪になるのかにつき、「警察庁」に電話でお尋ね下さい。
法的には国籍喪失後、出入国していない場合には、不法残留。出入国している場合には、不法出国+不法入国になります。私たち日本人の親が、この問題を考えるとき、どうしても考えてしまうのが「日本人の子どもなのだから、特別なのでははないか。不法残留や不法出国や不法入国にはならないのではないか。」、という思考です。結論からいいますと、その思考は間違っています。「不法残留や不法出国や不法入国にはならない」ということにはなりません(但し、個別の事情で「自己の志望」に該当しない場合はありますから、一般論と個別の事情を切り分ける必要があります。私の書いた記事だけを読んで判断されないで下さい。)。子どもたちは、入国管理局にて、「不法残留」又は「不法入国」として扱われますし、その「違反歴」、「違反者」の記録は永久に残ります。かわいそうな話ですが、現実です。繰り返しますが、これは私個人の意見ではありません。私は行政書士としては、この問題に関しては少し特別でして、民間人はもちろん、公務員を含めたとしても、日本で一番知り尽くしている立場にあります(最近、『戸籍』誌や『戸籍時報』誌に、このテーマが特集されましたが、それ以前から関わっており、普通の法務局職員以上に知っています。)。
○本人の住民票が抹消されます。
市区町村では、国籍喪失手続完了に伴い、本人の住民票が抹消されます。外国人登録制度が消滅し、住民票制度に解消された現行法では、中長期滞在者以外は住民票に登録できないため、結果的に住民登録制度に結びつけられた区役所での行政事務の全てが停止されかねない状況になります。たとえば、健康保険、乳幼児医療証、予防接種、健康診断、児童手当、保育園の助成金等です。この問題は、各々の市区町村の裁量により、処分が左右される側面があります。一方、国籍喪失手続完了から在留特別許可がなされるまでは、住民登録できません。したがって、国籍喪失手続~在留特別許可までをいかに短時間で行なうかも重要になります。ゆっくりやっていると、子どもの権利が侵害されるおそれがあります。
○日本国籍が無かったという「法律効果」は遡及します。
国籍喪失時に遡ります。どういう意味でしょうか。たとえば、健康保険、乳幼児医療証、児童手当等に影響します。以下、個別に見ていきましょう。
*健康保険(国民健康保険)
:まず、健康保険ですが、国民健康保険は昔は不法滞在でも加入できました。しかし、不法滞在者でも加入できることへの批判の高まりを受け、厚生労働省が不法滞在者では加入できないことにして久しいのは周知のとおりです。この結果、過去の加入が不適法だったことになり、意図的に(国籍が無いと知りながら)加入していた場合には詐欺罪として刑事告発の可能性があり(生活保護の不正受給がありますね。それと法的に同じです。)、過失で(国籍が無いと知らず)加入していた場合でも、払ったお金につき、全額返金を請求されるおそれがあります(理論だけではなく、実際に返金を要求された事例があります。これは可能性を指摘して警鐘を鳴らしているのであって、そうなると決まっているわけではありません。)
*健康保険(国民健康保険以外)
:会社員等の方の被扶養者の保険が、不法滞在者をどう扱うかは、各々の保険機関毎に扱いが異なります。
*乳幼児医療証
:自治体側がどう判断するかによりますが、これも払ったお金につき、全額返金を請求されるおそれがあります。子どもの場合、健康保険+乳幼児医療証で、無料になるため、頻繁に病院に行くわけですが、過去全て返金となると数百万円になるおそれがあります(これは可能性を指摘して警鐘を鳴らしているのであって、そうなると決まっているわけではありません。)。
*児童手当
:これも(国籍喪失=露国籍取得日以降)払ったお金につき、全額返金を請求されるおそれがあります(これは可能性を指摘して警鐘を鳴らしているのであって、そうなると決まっているわけではありません。)。
*保育園の助成金その他の市区町村独自の助成金
:これも(国籍喪失=露国籍取得日以降)払ったお金につき、全額返金を請求されるおそれがあります(これは可能性を指摘して警鐘を鳴らしているのであって、そうなると決まっているわけではありません。)。
=以上から、「カミングアウト」するのは、大変な負担になるおそれがありますが、以下に説明するように、逃げることは困難であり、逃げる(つまり、放置する)ほうが危険です。「カミングアウト」しなければ、返金請求されるおそれのある金額も年々増えて行きます(但し、個別の事情で「自己の志望」に該当しない場合はありますから、一般論と個別の事情を切り分ける必要があります。私の書いた記事だけを読んで判断されないで下さい。また、国と断固として訴訟する意思がある、という方は別論です。予め、ご了承下さいませ。)。
○子どもが大きくなったらどうなるか
この点、子どもが小さいうちは、こうしたことを親が気をつけて、「出入国しないようにしよう」とか「旅券の更新でもうまくやろう」などと考えるのかもしれません。しかし、子どもが大人になった後はどうされますか?いつまでも親がコントロールできるわけでもありません。子どもにしたって、こんなややこしい話、いつまでも覚えてられないでしょう。海外に留学だって行くでしょうし、外国人と交際することもあるでしょうし、海外出張の多い商社や海外の日系企業や外資系企業に就職もするでしょう。ロシアに長期滞在する子もいるかもしれません。そして、こうした子どもが20歳を過ぎても、状況は変わらないことに注意して下さい。つまり、依然として、日本国籍を偽装した「不法滞在者」のままなのです。最近のニュースで中国残留孤児で血縁を偽装した事件がよく摘発されていますが、それと同じ偽装日本国籍者なのです(但し、個別の事情で「自己の志望」に該当しない場合はありますから、一般論と個別の事情を切り分ける必要があります。私の書いた記事だけを読んで判断されないで下さい。)。
○子どもの子孫は?配偶者は?
このような子どもが、結婚したらどうなるでしょうか。もしも、子どもも外国人と国際結婚した場合、子どもは、日本国籍を偽装していますから、外国人側配偶者は、「日本人の配偶者等」の在留資格になりますし、その夫婦の間の子どもは、「偽装日本人」の子どもで、偽装が露見しなければ「形式上」、日本国籍を付与されてしまうでしょう。しかし、長年の人生において、人間というのは、いつも注意深く行動できるわけではありませんし、入管も外務省もパスポートセンターも在外公館も、今以上に厳しく調査する場合もあるでしょうから、いつか、事実が明るみになってばれてしまう日が来ることでしょう。そうなると、例えばですが、自分の子どもが国際結婚していた場合、その外国人妻や夫の在留資格は取消し、退去強制手続、子ども(自分からみれば「孫」)は親(自分からみれば「子」)も含め日本国籍のない単なる不法滞在者ということが明るみになり、しかも、この法理論の効果というのは、孫、孫の子、孫の孫、というふうに、末代まで続きます。「親亀の上の子亀」が全てひっくり返るようなイメージです。そうした場合に、子どもや孫やその配偶者達が、就職していて会社員だったらどうするのでしょうか。公務員だったらどうするのでしょうか。会社に知られれば、仕事をクビになる可能性があると思われますが、日本人としての証明を失うということは、戸籍は除籍、住民票(昔なら「外国人登録」)も消滅、日本旅券は剥奪、ということになるので、職場や家族等に知られる可能性が非常に高いと言えます。
○「不法滞在外国人」への政府の扱いは保証がない。
現在、「偽装日本人」であることが露見した場合、以下のような措置を取っています。たとえば、外国人が日本人を装って不法入国したケースで、最も、厳しい措置は、警察が逮捕し(日本旅券は没収)、検察は起訴して、裁判で懲役1年半前後、初犯なら執行猶予3年~5年程度にしたうえで、入管に引き渡し、それから強制送還にして、「国籍国」に帰します。
日露カップルのお子さんもこの場面にほとんど該当し、故意か過失かの差違だけです(但し、個別の事情で「自己の志望」に該当しない場合はありますから、一般論と個別の事情を切り分ける必要があります。私の書いた記事だけを読んで判断されないで下さい。)。なお、国籍喪失を知った後は故意になり、親の行為は不法入国の幇助の構成要件に該当するおそれがあります。ところで、こうした「不法滞在者」に対する手続が在留特別許可なのですが、在留特別許可は、あくまで退去強制が原則であり、在留特別許可は例外的に与えられるに過ぎない措置ということになっています。つまり、100%確実に許可されるという保障はありません。たとえば、過去10年の入管での在留特別許可の扱いをみると、ある時期に許可していた事例を、ある時期には不許可にするという事象が観察されます(無論、「個別の事情理論」を踏まえており、「個別の事情」を考慮にいれても明らかに判断規範を変えているとしか思われない事象があります。)。
このように、未来のある時期において、「偽装日本人」(日系1世)であることが露見した場合、日本政府がどう対応するか、保証はありません。日系人への扱いは、入管では案外軽いもので、飲酒運転等で退去強制になっている事例があります。
特に成人した後で、かつ、子どもが何か事件を起こして、前科持ちであるような場合、最悪の事態を想定すると、退去強制処分になってしまう場合もあり得ます。そして、「保証」が無いという意味は、こうした扱いは、今後の法改正や制度の運用の変更で10年後、20年後、30年後等に一体、どういう制度になるのか、想定しきれないことです。
○就職や学校に影響する。
また、仮に在留特別許可を得られたとしても、国籍喪失届を受理して、戸籍から除籍にした後、在留特別許可を得られるまでの間、しばらく時間がかかります。一般に、通常の違反ではない在留審査よりも時間はかかります。審査の期間には大きなばらつきがあり、1年~2年かかる場合もあります(逆に非常に短期間で済ませることのできたケースもあり、基礎事情と対応の仕方次第です。)。この間、子どもは、戸籍から除籍されているのに、在留資格のない不法滞在者だという扱いにされてしまいます。 警察に職務質問されれば、(成人している場合は)逮捕されることもあります。この期間中に、勤務先や学校から、あるいは、就職活動中等で、住民票の類の提出を求められたらどうするのでしょうか。あるいは、外資系企業ないし日本のメーカーや商社に勤務している場合で、海外出張を命じられたらどうするのでしょうか。不法滞在者の場合、日本から出国するのは、自由ですが、当然には戻って来れません。在留特別許可というのは、在留している場合のみだからです。もし、こうした子どもが、在留特別許可の審査中に出国しなければならなくなった場合、退去強制処分になることがあり、その場合、初回の退去強制処分では、5年再入国できなくなりますし、仮に出国命令の適用があった場合でも、最低1年再入国できなくなります(なお、よく誤解されていますが、出国命令は、1年後に入国できるとは限りません。)。そして再度入国するには、「在留資格認定証明書」で来ることになるのが通例ですが、普通の外国人と同じように審査には時間がかかります。職場や学校はどうするのでしょうか。
以上から、「日本国籍を喪失したことを一生隠そう。」と考えるのは、困難だし、適切でも賢明でもなく、最悪の選択だと思われます。本当の意味で、子どものためにならないのです(但し、個別の事情で「自己の志望」に該当しない場合はありますから、一般論と個別の事情を切り分ける必要があります。私の書いた記事だけを読んで判断されないで下さい。)。
○賢明な対応とは?
(繰り返しますが、本稿は、基本的には、客観的真実的に親が「外国国籍取得の認識・認容」をしているケースを想定し、かつ訴訟で虚偽の主張をするつもりがない場面を想定しています。その場合の「訴訟」とは国籍法11条1項が子どもに適用される限度で違憲無効だと主張するか、あるいは親の「外国国籍取得の認識・認容」=子どもの「自己の志望」であるという行政実務が最高裁で確定的に否定される等で国籍法11条1項を子どもに対する限度で空文化することを求めることだという想定です。)
では、(上記の意味の訴訟以外に)一番、賢明な対応というのは何でしょうか。そもそもなぜロシアの国籍をみな取るのでしょうか。それは、日本国籍しかない場合、ロシアへ渡航するには、査証が必要なこと、査証の期間制限があること、現地での医療保障の問題があること、等が理由です。子どものころは、ロシア国籍がないと、非常に困るのです。原発事故のときでも、ロシア国籍が無ければ、すぐに出国などできないわけです。ですので、上記の様々な事柄を全て承知のうえで、それでも敢えて、今からロシア国籍を取りたいという場合には、完璧に法律を遵守することです。すなわち、そもそも外国国籍を取得した子どもは、喪失の日(=外国国籍取得の日)から30日以内に、「在留資格取得許可申請」をするのが原則になっています。ここで喪失の日(=外国国籍取得の日)は、ロシア旅券を得た日ではなく、在日ロシア大使館の大使が署名した「ロシア国籍許可証明書」の日付けになりますので、旅券を得る日よりも遡ります。
一方、「在留資格取得許可申請」をするには、予め、国籍喪失届を市区町村に出し(必要に応じて、管轄の法務局の審査を経て)受理され、戸籍から除籍しなければなりません(なお、以前は外国人登録を行いましたが、現行法では、この時点では住民登録できません。)。それから次に、「在留資格取得許可申請」をするのが原則になっています。ところが、国籍喪失届を市区町村に出し(必要に応じて、管轄の法務局の審査を経て)、受理されるのには、時間がかかります。実際問題、在日ロシア大使館から、「ロシア国籍許可証明書」を得た時点で、「ロシア国籍許可証明書」に記載されている「ロシア国籍許可証明書」の発行日よりもだいぶ遅れているのに、法務局での審査で、2~3週間かそれ以上かかる事例があるので、「30日以内」に、「在留資格取得許可申請」をせよ、という入管法の法令の要求は、正直、かなり、厳しい要求なのです(いかに外国人の権利や立場が弱いか分かりますね。)。 ですので、ロシア大使館に国籍取得申請をする時点で、もう「国籍喪失届」、「在留資格取得許可申請」といった一連の準備をことごとく事前に行っておくのがよいでしょう。要領よく手際よく、時間に余裕のある、日露の国籍法や戸籍法、入管法等につき、かなりの法的知識と経験のある人が、対応してギリギリという感じです。こうした作業を期限内に行い、不法残留にならないように行うのは、かなり難しいのですが、仕事しながらそんなことはできないと思われる場合、実は(合法的な)抜け穴的な方法もあるので、経験・知識のある法律専門家に相談するのがよいでしょう(但し、ここに書いたレベルの経験・知識のある法律家は、ほとんどおりませんが。)。
「在留資格取得許可申請」で許可されれば、子どもの「在留資格」は「日本人の配偶者等」の「等」に該当します。つまり「日本人の子」というカテゴリーです。なお、国と断固として訴訟する意思がある、という方は別論です。予め、ご了承下さいませ。
○不法滞在状態では、帰化はできません。
そして、こうして「日本人の配偶者等」の在留資格を取得許可された子どもは、その後、永住許可申請、さらに日本への帰化許可申請が考えられます。ちなみに、在留資格が無い状態(=不法滞在状態)では、帰化はできません。
その理由は、帰化申請は適法な在留状態であることが当然の前提で、不法滞在者という法律違反者に対し、いきなり帰化を許可することがあり得ないためです。これも私の個人の意見でなく、国籍の実務です。不法滞在者では住民登録できず、住民票もなく、外国人が不法に居住しているだけでは、「住所」とは認められないことも理由です。
ロシア国籍の未成年の子どもの日本への帰化の可否についても、私の事務所(あさひ新日本総合法務事務所)では、調査済です。この場合、ロシア国籍がどうなるかの問題があります。日本の国籍法では、本来は、帰化して二重国籍にすることはできません。理由は、元国籍の放棄を条件に帰化許可しているためです。しかし、例外(重要)もありますので、二重国籍の可否は個別にご相談下さい(この点、国は二重国籍を認めない日本政府の立場以外、基本的には回答しませんので、御注意願います。今回の件で、もうおわかりになったはずですが、国(※裁判所を含む)や外国大使館に全てを任せてしまうというのは避けたほうがよいです。)。なお露国籍離脱する場合、この点、ロシアは男の子の場合、軍役義務がある点が気になるかもしれませんが、現状では、日本に在住している場合、軍役義務を履行していない男の子でもロシア国籍離脱可能とされています。
(出入国管理及び難民認定法)
第二十二条の二 日本の国籍を離脱した者又は出生その他の事由により前章に規定する上陸の手続を経ることなく本邦に在留することとなる外国人は、第二条の二第一項の規定にかかわらず、それぞれ日本の国籍を離脱した日又は出生その他当該事由が生じた日から六十日を限り、引き続き在留資格を有することなく本邦に在留することができる。
2 前項に規定する外国人で同項の期間をこえて本邦に在留しようとするものは、日本の国籍を離脱した日又は出生その他当該事由が生じた日から三十日以内に、法務省令で定めるところにより、法務大臣に対し在留資格の取得を申請しなければならない。
○不法残留または不法入国状態の場合
一方、既にロシアの国籍を取り、長年放置しているという人は、もう「在留資格取得許可申請」はできません。ところで、入管法の規定により、「在留資格取得許可申請」をしないで、在留できる期間は「60日間」までなのです。
60日を過ぎたらどうなるか。不法残留(不法滞在)になります。では、この子どもがいったん出国して、日本旅券を行使して戻ってきたらどうなるか。こちらは不法入国になります。したがって、お子さんは、不法残留か不法入国かのいずれかです。出入国していない子どもは少ないので、ほとんどが不法入国でしょう(但し、個別の事情で「自己の志望」に該当しない場合はありますから、一般論と個別の事情を切り分ける必要があります。私の書いた記事だけを読んで判断されないで下さい。)。「国籍喪失を認識しながら、意図的に」子どもにそういうことをさせている両親は責任を問われかねないと思います(不法滞在の間接正犯のような意味合いで。)。
○「在留特別許可」を得た人の「永住許可」や「(日本への)帰化許可」
「在留特別許可」自体が、法律に違反した外国人として記録されるため、「在留特別許可」を得てしまった人の「永住許可」や「(日本への)帰化許可」は、そうでない人よりも、時間がかかる場合もありえます(これはやりかた次第ですが。)。できれば就職活動するころよりは先に済ませておきたいものです。このことからも、できれば、「在留特別許可」経由にしないようにしたいものです。
帰化許可された場合、戸籍には帰化許可と書かれてしまいます。生まれながらの日本人でありながら、こんな経緯になるというのが大変に不憫ではあります。兄弟姉妹で戸籍の記載が違ってしまったりします。ただ、帰化許可後、戸籍の外観上、帰化が分からないように戸籍技術的に工夫することも可能ですので、そのことを付言しておきます。
○「国籍喪失届」受理後に市区町村からもらう書類とは?
その後のことを考えると、一般には以下の書類をもらうとよいでしょう。
*国籍喪失届受理証明書
*国籍喪失届記載事項証明書
*戸籍謄本(子どもの除籍の記載のあるもの)
*住民票(子どもが除票となったもの。)
*出生届受理証明書(日本国籍喪失後ももらえるのが普通です。これが発行されないと、子どもの親子関係等の身分を証明する基本資料が無くなってしまいますので、実際上も発行する義務が日本政府に存すると解されます。ロシア国籍取得後も、日本政府の発行した出生届受理証明書を在日ロシア大使館で翻訳認証したものを、ロシアの国外旅券を発行するときに証印を裏面に押捺する等、ロシア側は、あたかもロシアの出生証明書かのように扱っています。)
○「在留特別許可」をいかにして得るか、「在留特別許可」を迅速に得る方法。
ある意味、これが一番重要ですが、文面が長くなりましたので、別の機会に書かせて頂きたいと思います。ご質問がある場合、当方までお問い合わせ下さい。
○国相手の訴訟について
(繰り返しますが、本稿は、基本的には、客観的真実的に親が「外国国籍取得の認識・認容」をしているケースを想定し、かつ訴訟で虚偽の主張をするつもりがない場面を想定しています。その場合の「訴訟」とは国籍法11条1項が子どもに適用される限度で違憲無効だと主張するか、あるいは親の「外国国籍取得の認識・認容」=子どもの「自己の志望」であるという行政実務が最高裁で確定的に否定される等で国籍法11条1項を子どもに対する限度で空文化することを求めることだという想定です。)
この問題につき、国相手に訴訟をするという考え方があります。それも一つの方法です。しかし、怒りの余り、そう口にするだけで、実際に訴訟しようという人はまずいません(ので、私としては残念です、ということを言いたかったのです。上記の意味の憲法訴訟等をされる方については、頑張って下さい、という気持ちです。また、客観的真実的に親が「外国国籍取得の認識・認容」をしていないケースは別です。以下は客観的真実的に親が「外国国籍取得の認識・認容」をしているケースが想定です。)。
理由ですが、国籍法11条1項の沿革は、旧法では明治32年(1899年)からあるもので、現に目の前に国側の公定解釈と長年の行政実績があるわけです。そもそもこの問題はロシアだけの問題ではないのです。他の国籍との組み合わせでも類似の話はある。ところが国の考え方は長年、基本は変わっていないのです。これを変えるというなら、日露だけでなく、様々な国籍の戦後長年、行われてきた扱いの根幹に影響が出てしまいます(但し、従来の行政実務の立場であっても、元々、個別の事情で「自己の志望」に該当しない場合はありますから、一般論と個別の事情を切り分ける必要があります。私の書いた記事だけを読んで判断されないで下さい。)。
そして、こういう憲法訴訟ないし行政側の極めて重要な見解を変える訴訟はリスクがあり、お金と時間をかけ、長期間かかって勝てる蓋然性が低い(※どの程度低いとみるかは、訴訟を担当する弁護士によりますが、受任時に、全然見込みありませんなどと言うわけにはいきませんので、一定の見込みはあると一般にはおっしゃるでしょう。)こうした訴訟をどうこうするよりも目の前の子どもの色々なリスクのことを考えるわけです。敗訴した場合、訴訟を理由に既に長期間放置していた子どもの法的状況が最悪の状況になりかねません。訴訟するのが客観的に適切とは思われないケースについては私なら訴訟はしません(勿論、訴訟をして頂くべき事案はあります。文脈を無視して一部だけ切り出してご判断されないようお願い致します。)。私が関与したご家族の事案(法務局の見解で、客観的真実的に「自己の志望」に該当するといえるケース)では、「訴訟」はしませんということを皆さんお選びになられましたが、これは価値判断の問題で、かつ、客観的真実的に親が「外国国籍取得の認識・認容」をしているケースを想定し、かつ訴訟で虚偽の主張をするつもりがなく、かつ憲法訴訟、あるいは親の「外国国籍取得の認識・認容」=子どもの「自己の志望」であるという行政実務が最高裁で確定的に否定される等で国籍法11条1項を子どもに対する限度で空文化することを求めるつもりがないという場合を想定した考え方です。現実に多くのご家族が法務局の誘導にしたがうところからみて、大半のご家族の見解と一致すると考えています。ですが、勿論、訴訟をして頂くべき事案はあるでしょうから、訴訟される方を否定する意思は全くありません。
ですから、訴訟をするということは選ばないのが通例です(訴訟しないほうがいいとか悪いとかではなく、実情を述べています。憲法訴訟と11条1項を子どもに対し最高裁で空文化することを求める訴訟には個人的には賛成派です。)。
たとえば、国喪届+入管(在留資格取得or在特)+帰化で行う場合、最短で国喪受理は即日+在留資格取得も(最短で)即日許可で、なんとわずか数日~1週間程度でもう出入国は完全に合法的に自由となることすらありえます。在留資格取得とは、まだ国喪の直後で、合法滞在段階の話です。目の前にどうしても、ロシア(とか欧米とか)に行かないといけない用事があった場合、「まだ合法滞在段階なのに、わざわざ訴訟して不法滞在にさせるべきか?」、「やむを得ない」、と判断する家族がいるのも事実なのです。仮に在特だとしても、+入管で30日前後で合法滞在へと転換され、出入国は、わずか1か月後辺りには、もう完全に合法的に自由となります(その後の帰化申請入れても、最短で+半年程度で、日本人復帰です。)。(※かかる時間や経過や許可の可否は、個別の事情と対応方法によります。当方の記事だけお読みになって法律判断されないで下さい!)
他方、訴訟で、客観的真実的に親が「外国国籍取得の認識・認容」をしているケースを想定し、かつ訴訟で虚偽の主張をするつもりがない場面を想定し、その場合の「訴訟」とは国籍法11条1項が子どもに適用される限度で違憲無効だと主張するか、あるいは親の「外国国籍取得の認識・認容」=子どもの「自己の志望」であるという行政実務が最高裁で確定的に否定される等で国籍法11条1項を子どもに対する限度で空文化することを、正々堂々と求めることだという想定では、上記の国籍法12条の無効を争う訴訟や、国籍法3条違憲訴訟に準じれば、最高裁まで3~4年程度と思われ(しかもかかる期間は保証はなく)、これに加えて、そもそも第一審に訴訟提起する前の準備時間も加わります。さらにそのうえ結果の保証もありません。(※かかる時間や経過は個別の事情と対応方法によります。当方の記事だけお読みになって法律判断されないで下さい!)
最高裁で敗訴した場合、そこから、国喪+入管(在特)+帰化で行うわけですが、無論それには時間がかかります。つまり、敗訴の場合、提訴準備~最高裁で敗訴~国喪届+入管(在特)+帰化=概算で4~5年程度でしょうか。4~5年後、家族の状況(や夫婦関係)がどうなっているのか、予想できません。10歳の子どもは高校生に近くなります。高校生だった子どもはもう成人してしまっているかもしれません。それどころか、夫婦に離婚の危機が訪れているかもしれません。奥様が怒って、子どもをロシアに連れ帰ってしまったかもしれません。日本人側は忍耐強いですが、ロシア人側がチルピィェニエ(忍耐)がない場合もあるでしょう。また、帰化申請については、実務上、こうしたお子さんを扶養する親の経済状況や扶養能力の証明書を求めていますが、このご時世ですから、4~5年後のある時期に、公務員その他の一部の職種を除き、親がまだ仕事を続けているという保証もありません。また、4~5年後に、親がまだ健在でいられるという保証もありません。既に家計を支えている側が50代、60代だという事例もざらにありますし、あるいは、親が夜の仕事である等、健康に悪い仕事をしているという場合もあります。今は、保険会社のパンフレット・CMで「2人に1人が癌になる」といわれる時代です。実質、一人親で家計を支えている世帯ですと、親が健康ないし健在かどうかが子どもに直接影響するため、自分が元気な今のうちに、できる限り短期間で、日本人に戻すまでの全てを完全に済ませておきたいというご家庭もあるのです。法律論や正義感だけでは処理できないわけです。それに入管と法務局実務を知る人間として申し上げますと、4~5年後のある時期の在特や帰化が今のように早くて甘いなどという保証は全くないです。特に入管と長年付き合ってきた専門家として言えば、付き合えば付き合うほど、そんなに確実性のある官庁ではないと実感として分かるのです(これは経験の長いプロであればあるほどそうです。経験の浅い先生には分かりません。逆に一般の方ですと、絶対確実だみたいな印象がある場合すらあるのではないでしょうか。真実は真逆です。)。また、帰化における重国籍の可否の扱いも、結局、あれはロシア政府側の見解に左右される不安定な可変的暫定的措置であって、法務局職員がしばしば間違った説明、あるいは、職員さんは間違った説明をしていないつもりでも、聞き手側が誤解するような説明をされるように、本来の根本原則的には、日本は重国籍を認めないのですから、ロシア国籍法が昨今ロシア側でも色々議論されている情勢では、4~5年後にどうなっているのかも不明であり、合法的な日露重国籍になれる機会を失う虞れすらあります。そもそも3~4年の訴訟の間、子どもの日本旅券は当初は残っているでしょうが、この場合、訴訟する方は、日本国籍ありだと信じて日本旅券を行使することになるので、表見上、日本旅券で出入国すると思われますが、敗訴の場合、全部不法出入国+不法滞在だったことになります。もし、「もしかすると日本国籍はないかもしれない。しかし、なくても構わないので、使う。」という主観であれば、理屈でいえば、未必の故意となりかねません。親の社会的立場・公的立場・仕事にもよるのですが、そういうことはできないと考えるご家族もあるのです。そもそも3~4年の訴訟の間に、日本旅券の更新時期が来て(子どもは5年毎更新)、外務省側は旅券を拒否し(事前に拒否しないと言われていたところで、そのときになってみないと、それは不明です。)、その後、ロシアで子どもの祖父母(ロシア人側の父母)等に不幸があった場合、どうするのでしょうか。日本旅券がないと、成田空港等の出国審査で、ロシア旅券を提示しますが、そこには入管として在留許可をしたものはありません。で、なぜ日本旅券がないのか入管職員は聞くでしょう。正々堂々と「外務省で日本国籍がないと言われて、拒否されました。」と回答するとします。「そうですか。では、外国人扱いする場合には、国籍喪失届を出し、戸籍から除籍されていることが必要です。現在、不法滞在になっていると思われますので、入管で在特を得て下さい。不法滞在のままでは出国できません。在特の審査期間は決まっておりません。許可されるかどうかは言えません。なお、不法滞在のまま、在留許可を得ずに、すぐに出国したい場合、出国命令を得て下さい。その場合も外国人扱いすることが前提ですので、戸籍から除籍されることが必要です。なお、出国命令の場合も、通例、出頭~審査~出国命令交付に1か月ほどかかります。なお、出国命令の場合、上陸拒否期間は1年間です。もっともお子様が国籍喪失後に出入国されている場合には、不法入国ですから、不法残留者のみが対象の出国命令制度の適用はありませんので、本則に戻り、自主的に出国する場合も、退去強制処分ですから、上陸拒否期間は、5年間です。」、と言われたらどうするのでしょうか。この場面で出国命令や退去強制処分を選ぶ方は普通、いないと思われますが(入管職員の説明が不十分等で、勘違いして選んでしまわれた方のケースを知っていますが。)、出命であれ在特であれすぐには出国できないことに変わりはありません。出国がどうしても必要で不義理を避けるなら、仕方ないとなるかもしれません。日本人夫が訴訟賛成派、露妻が訴訟反対派ないし消極派の場合で、奥様も「アンタ、いい加減にしてよ!もういいよ!Ты дурак! Блин!」等と夫に対し、怒るかもしれませんし(この辺りは夫婦の力関係にも拠ります。)。ただ、そこで、国籍喪失届を出す場合、訴訟中だとわかっている法務局側は、市区町村に指示し、「国籍喪失届を受理するには、自己の志望により、自由な意思で外国国籍を取得したのだと認める陳述書を書いて下さい。」と求めるかもしれません。書く義務はないですが、この場面ですと、国籍喪失届の受理権限は、法務局側+市区町村側にあるため、書かないと受け付けないとか、延々と審査で時間を引き伸ばされるという「事実上の態度」に出られた場合、目の前に「親の葬式」とか「親の危篤」等があるとなれば、従うしかない場面もあるかもしれません。元々、訴訟を予防するために、国籍喪失届を受理するに際して、調書のようなものを作る場合はあります(一般には作らない場合が多いのですが、訴訟を予防するために、その辺りは法務局はもっとしっかりしたほうがいいでしょう。)。それはその後、訴訟で国側の証拠の一つとして出されるかもしれません。もっとも、この場面では、客観的真実的に親が「外国国籍取得の認識・認容」をしているケースを想定し、かつ訴訟で虚偽の主張をするつもりがない場面を想定し、その場合の「訴訟」とは国籍法11条1項が子どもに適用される限度で違憲無効だと主張するか、あるいは親の「外国国籍取得の認識・認容」=子どもの「自己の志望」であるという行政実務が最高裁で確定的に否定される等で国籍法11条1項を子どもに対する限度で空文化することを、正々堂々と求めることだという想定なので、それは訴訟上の争点にならないかもしれませんが、念のため、申し添えます。(※かかる時間や経過は個別の事情と対応方法によります。当方の記事だけお読みになって法律判断されないで下さい!)
しかし、真実、ロシア国籍取得につき、親の認識・認容が無かった事案なのであれば、これは現在の行政実務の見解であっても、子どもに対する関係での違憲無効とか、子どもに対する関係での11条1項の無効性を求めるようなものではないわけで、地裁で終わって、もっと早い場合もあるでしょうし、そもそも訴訟は必要ではなく、訴訟外で外務省and/or法務局との交渉で足りる場合すらありえます。
ですので、どれがいいとか悪いとかではなく、ご本人のお考え、お立場、状況の問題なのです。
なおまた、児童手当その他、子どもに係る手当と受給資格の遡及的消滅の場合の返還義務の範囲の件も問題になります。児童手当以外に、「児童扶養手当」、「児童育成手当」、「乳幼児医療証」等で問題になります。特に、母子家庭の場合、この手当は巨額です。この点、日露ご家族の中には、口頭で返還請求をした市区町村は実在するものの、さしあたり、実際に返還請求を法的に執行した市区町村が今のところ、知られていないこと等を主な理由に、この件を杞憂に過ぎないものと判断する見解があります。こういった場合に、市区町村のサイトにみられるのが、「※受給資格がないまま手当を受給していると、遡って手当の全額を一括返還いただくことになります。」という記載です。この場合はいわゆる過払い金の返還請求の場面であり、ご存知のとおり、不当利得返還の法規範の場面となります。ただ、そもそも受給者の主観(善意・悪意)は個別に異なるうえ、現存利益の有無等の考え方につき、議論があり、絶対に返還義務が生じないとの法的保証は御座いません(この点でも、全く同じ事案、全く同じ場面での、最高裁判例は御座いません。)。真実、国籍喪失している事案だったとして、国籍喪失に気づいた直後に、行政側の行政指導にしたがって早急に手続すれば、実際に返還請求を法的に執行する市区町村は稀かもしれませんが、しかし、真実(客観的に)、国籍喪失している事案だったとして、国籍喪失に気づいたが、それを重々承知で、これはまずいことだと思いながらも、まあいいやと思い、子どものことなんだから、行政も甘いだろうとみなし、それを隠して(言わずに)、長年、受給資格がないと知りながら、『現況届』を出し、漫然と受給していた場合はどうでしょうか(ちなみに、現在の在特には遡及効はないです。ベテランの入管職員から昔話を聞いた際に、昔々は、許可証印を複数枚つないで同時発行し、事実上の遡及効を在特に与えていたことがある、という話を聞いたことはありますが。)。
たとえば、児童手当法14条の「偽りその他不正の手段により」、とは、厚労省では、「積極的に不正行為を行う場合はもちろん、消極的に真実をゆがめ、または隠すことによって不正を行い、児童手当の支給を受けた場合をいう」との回答です。我妻栄・債権各論 下巻1・1099頁や、新版注釈民法(19)478頁等も参考となるでしょう。また悪質なものは、刑事手続的には、詐欺罪の構成要件該当性まで生じると解釈する余地があると解します(こう書くと常に犯罪になるなどと書いているなどと批判される可能性がありますので、犯罪はTB該当性が生じ、違法、有責性が生じなければ、成立しないことも書いておきます。)。事例として、お子様が亡くなったのに、手当を受給し続け、逮捕された事例がありますが(児童手当法では第14条に該当し、かつ刑法246条にも該当したという意味です。)、国籍が無くなって不法滞在になっているのも受給資格がないという点では類似する側面があります。
法律の世界には、「合法性・違法性」の問題と「妥当性・不当性」の問題があり、実際に違法かどうかはともかく、真実(客観的に)、国籍喪失している事案であるならば、上記のような受給行為は、「好ましくない」話ではないでしょうか(厚労省の担当課結論同旨)。親の社会的立場にもよるのですが、そういう「好ましくない」というだけで、そういうことはやりたくないと考えるご家族もおられるのです。
それでは国籍確認訴訟をする場合、たとえば児童手当はどうなるでしょうか。厚労省の担当課に確認したところ、国籍確認訴訟をする場合、事案にもよるが、国側(被告)の判断では国籍喪失、原告側の判断では、国籍不喪失、という訴訟で、仮に原告敗訴確定なら受給資格が無かったことが確定する、という訴訟だと、受給資格の存否が不明になるので、訴訟の間、支給を停止する場合があるとのことでした(勝訴確定すれば、貯まったものを全額支給。敗訴確定すれば、その期間、不支給に決定との話です。※停止する「場合がある」と書いているのであって、常に停止するとは書いておりません。一部だけお読みになって法律判断されないで下さい!)。この点、児童手当は大した額ではないので、停止されても構わない、という方もおられるかもしれませんが、母子家庭でギリギリで生活をしている場合、児童手当以外に様々な母子関連の手当があり、合算するとかなりの高額で、手当無しでは生活できない場合があり、万が一にも、停止されることがあっては困る、という家庭もあるのです。
ちなみに、児童手当の返還に関し、国から示している指針としては、『児童手当関係法令上の疑義について』(昭和62年7月23日児手第23号厚生省児童家庭局児童手当課長通知)において、「・・・児童手当の返還については、処分が既往に遡って取り消された場合、児童手当を支給すべき事由がなかったのであるから、市町村はその支給した児童手当に係る債権を有する者である。この場合、市町村は児童手当法第14条に定める場合を除き、地方自治法に定める債権の管理を行う必要がある。・・・」、とあり、児童手当の過誤払いにより発生した不当利得に関しては、地方自治法及び、市町村の債権の管理規則に従って処理をしていただくことになります。そして、『児童手当の支給に関する処分について誤りがあった場合の処理について』(昭和47年4月15日厚生省児童家庭局長通知)では、たとえ、「・・・当該取消処分が相手方にとって著しく不利益となる場合・・・」であっても、「・・・偽りその他不正の手段によるとき、または正当な理由なく届け出をしなかったとき等・・・」は、「取消処分の効力を既往にさかのぼらせること」ができるという趣旨で書いてあります(こちら、私の私見ではなく、厚労省回答そのままですので、予め、ご了承くださいませ。)。なお、このような国籍喪失と各種手当ての受給資格に係る最高裁判例も御座いません。
以上は可能性を指摘して警鐘を鳴らしているのであって、そうなると決まっているわけではありません。また、以上の話は厚労省だけではなく、自治体の判断と裁量に拠る側面と、本人の個別の事情による側面が大きいので、大半が「善意」だと思われるこうした案件では、実際に返還請求を法的に執行する市区町村は稀かもしれませんが、しかし、受給者が明らかに「悪意」の場合はどうでしょうか(<注>民法用語の「善意・悪意」を用いています。道徳的判断ではないです。)。「絶対にない、絶対に大丈夫」というのと「聞いたことがないので、たぶん大丈夫」、とは異なります。
ですので、どれがいいとか悪いとかではなく、ご本人のお考え、お立場、状況の問題なのです。
「自己の志望に該当しません」、「出生届にサインしただけ」・・・露大使館に出す同意書には「ロシア国籍を取得することにつき、反対しない」と書いてますね。「出生時に露国籍があると思っていた」・・・「ロシア国籍を取得することにつき、反対しない」ことには変わりはないです。「出生時に露国籍を取得しないという法律を知らない場合には許される」??それが正しいなら、露で出生した日露のお子さんが国籍留保期間内に日本国籍を留保しないと、日本国籍は消えますが(消えたケースが実際にあります。)、そのことを知らない場合には、消えないのでしょうか(そんなわけないですね。)。・・・それらの主張が正しいかどうかは、誰が判断するか。最後は裁判官ですが、認容される保証がありません。弁護士に相談すると「お客様のいうとおり。国が間違っている。」(それが破産、債務整理等をメインに何でも行うごく平均的な弁護士であった場合、ロシア語の知識も必要である日露の国籍法に通じたうえでの発言とは思えませんが。※一般の弁護士の知識レベルを知っているため。日露国籍法や戸籍法、入管法、旅券法は受験試験科目ではないうえ、普段扱っていません。)と訴訟を勧める場合がありますが、それは訴訟が仕事だからであって、ある意味当たり前です。お金さえ払えば、訴訟は可能です。ご存知のはずですが、弁護士はものすごくレベルの差異があります。昔、ある人が霞が関の弁護士会の相談所へ行ったところ、「あなたの奥さんは不法残留ですね。」と指摘されました。昔の外国人登録カードは裏面に更新を書くのです。その弁護士は裏面を見ること自体を知りませんでした。実話です。で、そういう弁護士が特別かといえば、そんなことはなく、似たような話は長年、法律実務に携わっておりますと、よく見かけます。ですから訴訟をする場合、弁護士選びは極めて重要です。
誰もが自分に都合のいいように考えます。確かに、私もそういう「抗弁」はないかと色々考えました。抗弁できるものはないかと。ネットに書かれてあるような「国籍を喪失していないとの抗弁(反論)の解釈」は私は昔、色々考えましたので、当時全て検討済です。しかし、結局、「自己の主張」です。一時的に(あるいは、短期的・中期的に)、属人的に(担当官によって見逃したり、大丈夫と言う場合があります。)、それで言い逃れできても、長期的な子どもたちのリスクは何も変わらないのです。それが結論でした。仮に訴訟を勧める弁護士がいるとしたら、それが本当に子どものために勧めているのか、考える必要があります(但し、個別の事情で「自己の志望」に該当しない場合はありますから、訴訟をするべき場合はあります。その場合は憲法訴訟ではないです。一般論と個別の事情を切り分ける必要があります。私の書いた記事だけを読んで判断されないで下さい。また、国と断固として訴訟する意思がある、という方は別論です。予め、ご了承下さいませ。)。法廷に傍聴に来たマスコミ等に出てしまう可能性もありますし。憲法訴訟ないし行政側の極めて重要な見解を変える訴訟の場合、重大な問題なので、高裁で終わるとは思われず、最高裁で勝訴になったら大変なことで、全国新聞の一面記事、テレビでもニュース扱いでしょう。
確かにヒドい国籍法です。親の無知で子どもの国籍が消えるんですから。「立法論」としては、親の行動では子どもの日本国籍は消えないようにするべきかもしれません。憲法学の本など100冊以上持っていますが、憲法的な規範からすれば、話にならない(ほどヒドい)ですね。ですが、国籍法がそういう恐ろしいものだということは、戦後、法律学の世界では膨大な文献が摘み重なっており、一朝一夕に出来上がったものでないのです。つまり「昔から」です。世間一般の行政書士や弁護士等と違って、前からそれを知っていたので、一番最初に日露の子どもの国籍の問題に触れたときは、まだ誰もネットで問題視してなかったころでしたが、喪失する先例の類型に該当することは(誰に聞くまでもなく)すぐに分かったため、直感的に冷やっとしたものです。それで、ある子どもの件につき、その子については、全く法に違反せず、不法滞在にもならないように対応できた経緯があります。また、ある子どもの件については、日本で出生したが、100%合法的かつ国籍喪失せずに重国籍にできたこともあります(職業法律家が一般の方と違うのは、これに限らず、様々な事柄につき、行政機関側が情報をもつ前の段階で先に知りうる点です。)。訴訟するだけなら誰にでもできることではないですか。訴状出して書類をやりとりするだけです。本当の法律家っていうのは、問題になる前に解決するものではないですか。ところが、当時は誰にその話をしても、(一部の方を除き)真剣に聞いてくれませんでした。「生まれながら重国籍でしょ。信じられない。まさか。」というお決まりの反応。それからはしばらくは言うのをやめました。医師もそうなのですが、病気になる前に色々申し上げても真剣には聞いてくれないのがよくある話です。
誰かが憲法訴訟ないし行政側の極めて重要な見解を変える訴訟をするかもしれません。万が一原告勝訴になり(※判決には射程範囲というのがあり、個別事例に適用されても、一般的にどの範囲まで効力が及ぶかは別論です。)、かつ、最高裁の判断で、国籍法11条1項が子どもに適用される限度で違憲無効あるいは親の「外国国籍取得の認識・認容」=子どもの「自己の志望」であるという行政実務が最高裁で確定的に否定される等で国籍法11条1項を子どもに対する限度で空文化になり、かつ、法改正で救済措置が取られれば、いったん客観的に既に消えていた(※国籍喪失届は報告的届出なので届出の有無に関わらず「客観的に」という意味)子どもたちの日本国籍が復活するかもしれません。子どもたちの日本国籍が復活するなら、それはそれでいいではないですか。しかし、単なる可能性だけで現状放置はできません。(これは親の社会的立場や子どもたちの状況にもよるのですが)現状、不法滞在では話にならない、犯罪の「客観的構成要件該当性」があるんですから、今やるしかない。そう考える方が多いのです。
それから旅券の発給を拒否されたら訴訟をするんでしょうか(繰り返しますが、ここでは、客観的真実的には親が「外国国籍取得の認識・認容」をしているケースを想定し、かつ訴訟で虚偽の主張をするつもりがない場面を想定しています。その場合の「訴訟」とは国籍法11条1項が子どもに適用される限度で違憲無効だと主張するか、あるいは親の「外国国籍取得の認識・認容」=子どもの「自己の志望」であるという行政実務が最高裁で確定的に否定される等で国籍法11条1項を子どもに対する限度で空文化することを求めることだという想定です。)。憲法訴訟ないし行政側の極めて重要な見解を変える訴訟というのは、数か月で終わるものではないです。最高裁まで行くと何年かかりますか。その間、日本旅券はどうするんでしょうか。それなら早く日本国籍を取り直したほうが得策だと考えるご家族が多いのです(成人前の子どもの場合は入管も法務局も概して早いです。)。お怒りごもっともですが、怒りのエネルギーは、別のことに使ったほうがいいと考える方が普通のようです(ので、私としては残念です、ということを言いたかったのです。憲法訴訟ないし行政側の極めて重要な見解を変える訴訟をされる方については、訴訟できなかった日露ご家族の皆様の気持ちを込めて、頑張って下さい、という気持ちです。また、客観的真実的に親が「外国国籍取得の認識・認容」をしていないケースは別です。以上は客観的真実的に親が「外国国籍取得の認識・認容」をしているケースが想定です。そもそも、個別の事情で「自己の志望」に該当しない場合はありますから、一般論と個別の事情を切り分ける必要があります。私の書いた記事だけを読んで判断されないで下さい。)。
○まとめ
以上、みてきたように、国籍というのは重大な影響を与えるものであると共に、簡単に喪失されるものです。
外国人として生活する場合でも、住民登録で「通称」を登録し、日本人だったころの漢字の氏名をそのまま使い、健康保険、年金、銀行、学校等の様々な場面で、元の氏名を使い続けることは可能です。乳幼児医療証や児童手当も(中長期滞在者として認められた後は)使って構わないのが普通です。勇気をもって決断するべきだし、いつかやらなければならないことですから、やるなら早くしたほうが子どものためになると思います。いつかまた日本国籍に戻れるよう、学校や就職や結婚に影響が出ないよう、計画的に統制できる方法でやるべきです(繰り返しますが、ここでは、客観的真実的には親が「外国国籍取得の認識・認容」をしているケースを想定し、かつ訴訟で虚偽の主張をするつもりがない場面を想定しています。その場合の「訴訟」とは国籍法11条1項が子どもに適用される限度で違憲無効だと主張するか、あるいは親の「外国国籍取得の認識・認容」=子どもの「自己の志望」であるという行政実務が最高裁で確定的に否定される等で国籍法11条1項を子どもに対する限度で空文化することを求めることだという想定です。)。
○ロシアの国籍法が改正されれば、子どもは救済されるか。
最近、ロシアの国籍法が改正されれば、子どもは救済されるかもしれないと信じている方々が一部におられる模様です。しかし、法律学を専門的に学んだことのある人の間ではそういう発想は出て来ないのです。なぜなら一般に法律の世界は「遡及適用の禁止」がなされます。未来は変わっても、過去は変わりません。ロシアの国籍法が改正されたところで、過去の出来事につき、「日本国籍が喪失しなかったことになる」とは全く考えられません。ウィキペディア等でも、「法の不遡及」という題で解説がありますので、ご覧下さい。
○ロシア国籍放棄を選ぶ?
近時、日本国籍喪失はもはや隠せないとの判断により、「ロシア国籍取得を無かったことにしよう。」という判断で、ロシア側に対し、ロシア国籍放棄をされるケースがあります。それが大丈夫な(?)理由の一つとして信じられているのが、「出入国履歴はばれないし、長期間保存もしないので、大丈夫、とロシア人のアドヴァカート(法律家)が言っていた。」という話だそうです。
しかし、これは「大いに早まった判断」ではないでしょうか。まず、「出入国履歴はばれないし、長期間保存もしない」というのは誤りです。そもそもロシア人のアドヴァカートは日本法の専門ではないし、日本法の訓練も受けていないのですが、法務省の出入国記録のことを指しているのであれば、長期間保存されます。1970年以降のものでも保管あるほどです。
次に「大いに早まった判断」というのは、法的には日本で出生した日露お子さんの在日露大使館での露国籍取得時点で日本国籍は通例、自動喪失していますから、その後、露国籍を放棄した場合、いわゆる「遡及効」ではなく、「将来効」だと解釈するのが自然であり、「無国籍」になる、が法理論的帰結です。この点、露国籍を放棄があたかも「遡及効」があるかのように思っておられる方もおられますが、仮に法的に遡及効がある場合、「ロシア国内への出入国で露旅券を提示し、ロシア人であるがゆえに、ビザ無しで、かつ、外国人としてのレギストラーツィヤ(到着通知)もしないまま露で滞在していたのはいかなる法的根拠に拠るのか。」とか、「露で児童手当をもらった際に、露国民であることを理由としてもらったお金はいかなる法的根拠に拠るのか。」、「(子どもなので、今はないにせよ、たとえば)露国民として選挙権行使した投票はどうなるのか。」、等々、露国民であることに付随して露国内で生じる権利行使が法的根拠に基づかなくなります。
そのうえ、この方式だと重国籍にすることも不可能になるわけで、今、日本は戦争も新たな原発事故もありませんが、この先、国際情勢は、どうなるかもわからないにもかかわらず、「早まった判断」としか思えません。
確かに徹底した「隠蔽工作」をすれば「事実上」ばれない場合はありうるかもしれません。しかし、そもそも在留資格なしで、無国籍状態で在留していること自体が不法滞在です。正直、これが本当に「子どものためになる行為」なのでしょうか。
「それではどうすればいいのですか?」とか、「このページに書いてある方法以外の方法はないのですか。」とか「法務局職員にこんなことを言われたが、何かいい方法はないですか。」とか聞かれる場合があります。そもそも一般の法務局職員のこの問題への知識レベルは極めて限定的であり(法務局全体からすればあくまで少数派マイノリティの問題のため)、私のサイトをご覧頂いて勉強して頂いている模様なのですが(※日本政府の公的文書や文献でこのページ以上に詳細なものはないです。)、それはさておき、答えはこのページを熟読頂ければ、概ねお分かり頂けますが、最後は個別の事情と価値判断になりますから、万人がこうすればいいというのは無いともいえます。なお、不法滞在市民扱いされたくない、その記録を残したくないという方もおられます。私が扱う事例では、全員が不法滞在扱いなわけではありません。結果的に不法滞在扱いされずに済む事例もありますが、何をどこまでやるのかとか、何を優先させるのかによっても変わると思われ、その時点でのお子様の状況にもよりますし、ご家庭の事情によっても左右されると思われます。但し、いったん喪失した国籍は戻ってはきませんし、こういう国籍喪失の事案では日本国籍復活には(訴訟を別にすれば)帰化申請しかありません(繰り返しますが、ここでは、客観的真実的には親が「外国国籍取得の認識・認容」をしているケースを想定し、かつ訴訟で虚偽の主張をするつもりがない場面を想定しています。その場合の「訴訟」とは国籍法11条1項が子どもに適用される限度で違憲無効だと主張か、あるいは親の「外国国籍取得の認識・認容」=子どもの「自己の志望」であるという行政実務が最高裁で確定的に否定される等で国籍法11条1項を子どもに対する限度で空文化することを求めることだという想定です。)。
最近はこのページをご覧頂いたある会社の顧問弁護士の方から当方をお客様に推薦頂いたことがありました。やはり圧倒的に詳しいので、きちんとしたプロがみれば分かるんだなと思った次第です。
○法律の世界で実務や通説を知るとは?
日露子どもの国籍喪失に係る法務行政と旅券行政当局の判断が間違いであり、かつそれが、あたかも民間の法律事務所等の多数意見であるかのように書かれているものがありますが、そういう事実は一切ありません(憲法訴訟ないし行政側の極めて重要な見解を変える訴訟を受任する際に、お客様を勇気付けるために申し上げる場合はありえます。)。理由は以下です。法律業務に関わる職種はいくつかありますが、職種に関わらず、そもそもこの問題に即答できるような法律家はほぼゼロです。なぜなら普段全く扱っていないためです。したがって、一般の方が法律家の事務所に電話等をされたところで、きちんとした回答はできません。「鑑定業務」として依頼は可能ですが、おそらく「きちんとした法律家」ですと、そもそも仕事にならず、他の仕事の妨げになる(普段やらない仕事をする場合、非常に負担が大きいため)ので、調査・回答自体を断るでしょうし、やるにしても、調査だけで高額な費用を求めるでしょう。そもそも論の話で、一般の法律事務所等はこの問題の知識を全く持っていませんので、知識レベルは一般人とほとんど同レベルか、むしろ平均的な日露カップルのほうが基本的な知識はお持ちでしょう。法律事務所等は法律のことなら何でも知っているかといえば、そんなことは全くなく、普段やっている仕事しか知りません。これは医師の世界と同じことです。特に国籍の分野は、一般の法律家にとっては、マイナーな分野で、そもそも依頼や契約につながるケース自体が(帰化申請等を除き)、少ないわけです。帰化申請ですら、「世間一般の法律事務所」等はむしろ、ほとんどやったことはないでしょう(それは入管と違って、法務局国籍課では法律家のバッジを付けた人をほとんどみかけないことで分かります。なお、入管でみかける法律家のバッジはほとんど全員が行政書士だということも事実として指摘できるでしょう。)。
こういったことから、本件のような「超マイナーな法律問題」について、電話で気軽に聞いたところで、まともな回答など得られません。破産や債務整理や相続等の法律家なら誰でもやるような案件ではないためです。よって、「民間の法律事務所等の多数意見」など、(数軒聞いた程度では意味ないので、仮に法律事務所100軒の統計を取るとしたら)政府レベルの大規模な予算でやらない限り、調査自体が不可能です。このことは法律業界関係者ならば、すぐに気づくことです。
ところで、そもそも国籍喪失に係る法務行政と旅券行政当局の判断は、国は膨大な先例と戸籍実務の蓄積を前提に判断しているものであり、国は生半可な調査や覚悟で行政処分しているわけではありません(繰り返しますが、ここでは、客観的真実的には親が「外国国籍取得の認識・認容」をしているケースを想定し、かつ訴訟で虚偽の主張をするつもりがない場面を想定しています。その場合の「訴訟」とは国籍法11条1項が子どもに適用される限度で違憲無効だと主張するか、あるいは親の「外国国籍取得の認識・認容」=子どもの「自己の志望」であるという行政実務が最高裁で確定的に否定される等で国籍法11条1項を子どもに対する限度で空文化することを求めることだという想定です。)。一般の「民間の法律事務所等」が行うよりもはるかに高いレベルで調査したうえでの決定事項です。「民間の法律事務所等の多数意見」を仮に調査可能であったとしても、「民間の法律事務所等の多数意見」は、行政側の判断は間違っている、という回答にはならないと思われます(立法論や政策論的には間違っている、ヒドイ話だ、という意見は出るでしょうが、法律論、憲法論は別論です。なお、憲法訴訟ないし行政側の極めて重要な見解を変える訴訟を受任する際に、お客様を勇気付けるために申し上げる場合はありえます。)。なお、外務省に至っては、全国のパスポートセンターの職員を対象にした研修会にて、この日露の子どもの国籍喪失の件を講義しているほどです(但し、パスポートセンターの末端職員においては、そもそも旅券発給申請書に虚偽ないし書き方を間違った記載をされるケースが多いゆえにセンター職員が気づかないケースが多いのではないかと推定されるうえ、きちんと書いてあっても気付かずに見過ごす事例が多々あり。)。そして、入管も日露子どもの国籍喪失に係る案件は、子どもを不法滞在・不法入国だとして「現実に」処理しています。モスクワやサンクトの日本大使館では、ロシア国内で滞在している際のロシアビザの有無を確認のうえ、ロシアビザがないなら=露旅券ありと分かり、かつ、一定の事項を確認し、日露子どもの国籍喪失案件と分かれば、日本旅券を拒否し、日本人学校を拒否するケースが現実にあります。それが「現実」であって、「現在の実務」です。「一般論」として、こうした実務がひっくり返される可能性は低いものです。そんなことがもしも頻繁にあれば、国家運営が成り立ちません。「例外的に」ひっくり返される可能性(=たとえば国籍法11条1項が子どもに適用される限度で違憲無効だと憲法訴訟で最高裁で国が敗訴。)はそれはゼロ%ではないですが(何事もゼロ%だとはそれは言えませんので。)、法律実務を知る人間として「可能性の低い行為に賭けることはできません。」(但し、状況によっては訴訟がいいケースは当然ありますので、誤解されないで下さい!)。ギャンブルではないわけで、まして子どもの問題です。行動選択の考え方として、ある行為を選択する場合、普通は、行為の時点で可能性の高い行為を選択するほかないはずです(行為時基準)。それが「結果」からみて万が一違っていたとしても、それはやむを得ないことのはずです(繰り返しますが、ここでは、客観的真実的には親が「外国国籍取得の認識・認容」をしているケースを想定し、かつ訴訟で虚偽の主張をするつもりがない場面を想定しています。その場合の「訴訟」とは国籍法11条1項が子どもに適用される限度で違憲無効だと主張することだという憲法訴訟か、あるいは親の「外国国籍取得の認識・認容」=子どもの「自己の志望」であるという行政実務が最高裁で確定的に否定される等で国籍法11条1項を子どもに対する限度で空文化することを求めることだとの想定です。)。そして、本件では、行為の時点では、行政判断が合法であり、行政判断に従わないことは違法となります(但し、個別の事情で「自己の志望」に該当しない場合はありますから、一般論と個別の事情を切り分ける必要があります。私の書いた記事だけを読んで判断されないで下さい。)。客観的な真実として、違法な行為を勧めるとしたら、それ自体が違法なことです。
議論になる背景には、「何とかこの問題を変えて欲しい。」、「行政側の判断は間違っていると主張したい。」、という動機があると思われます。動機や気持ちはよく理解できます。
ただ、訴訟をすること自体は合法ですが、訴訟を勧めて(あるいは、放置することを勧めて)、結果的に不法滞在を助長・教唆することになれば、刑法学で言うところの、不法滞在や不法出入国への教唆・助長をしていることになりかねないことに注意が必要です(繰り返しますが、ここでは、客観的真実的には親が「外国国籍取得の認識・認容」をしているケースを想定し、かつ訴訟で虚偽の主張をするつもりがない場面を想定しています。その場合の「訴訟」とは国籍法11条1項が子どもに適用される限度で違憲無効だと主張するか、あるいは親の「外国国籍取得の認識・認容」=子どもの「自己の志望」であるという行政実務が最高裁で確定的に否定される等で国籍法11条1項を子どもに対する限度で空文化することを求めることだという想定です。)。ご本人(子ども)の人生にそこまで責任を負えるのでしょうか。敗訴の可能性が常にある以上、慎重にコメントする必要があります。どうなるのかの保証がないような憲法訴訟行為ないし行政側の極めて重要な見解を変える訴訟に自分の子どもを危険に晒したくはないという考え方も当然出てきます(但し、状況によっては訴訟がいいケースは当然ありますので、誤解されないで下さい!)。いつ終わるのかが確定しないという問題のほか、敗訴すれば不法滞在確定ですし、その間、意図的に(故意で)不法出国・不法入国をさせるのも問題なため、出入国も長期間困難かつ危険なものになります。それと、こうした案件で帰化申請する場合、法務局側は「意図的に(故意で)不法出国・不法入国をさせていたかどうか」を問う質問をしているのをご存知でしょうか。「意図的に(故意で)不法出国・不法入国をさせていた」場合、帰化申請の審査上も不利益になる虞れがあります。
(繰り返しますが、ここでは、客観的真実的には親が「外国国籍取得の認識・認容」をしているケースを想定し、かつ訴訟で虚偽の主張をするつもりがない場面を想定しています。その場合の「訴訟」とは国籍法11条1項が子どもに適用される限度で違憲無効だと主張するか、あるいは親の「外国国籍取得の認識・認容」=子どもの「自己の志望」であるという行政実務が最高裁で確定的に否定される等で国籍法11条1項を子どもに対する限度で空文化することを求めることだという想定です。)もっとも当方は訴訟を頭ごなしに否定した立場ではないので、国と訴訟されたい方は、専門家にご相談頂ければと思います(当方にはそういう行政訴訟を手がける弁護士もおります。)。私はこの問題につき、無批判な立場ではなく、酷い話だと思っています。(憲法)訴訟ないし行政側の極めて重要な見解を変える訴訟をするならやって頂ければという立場です。で、(憲法)訴訟ないし行政側の極めて重要な見解を変える訴訟(但し、仮にやるなら、必ず、最高裁までやるべきでしょう。高裁と最高裁では全く違い、高裁で終わってしまっては、先例としての価値が薄れます。)で白黒付けば、迷っていた方でも判断に迷うこともなくなるでしょう(ただ「自己の志望」の個別判断に終わってしまって国籍法11条1項の違憲性等、国籍法11条1項を子どもに対する限度で空文化できるかどうかについては白黒付かないおそれあり。)。ただ、繰り返しますが、普通の法律事務所はこの問題の知識も経験も本当に皆無です。どこの法律事務所でもいいわけではないことに注意が要ります。神谷町の露大使館や法務局の国籍課に行ったこともないような法律家に依頼するのが適切とは思えません。
昨今は、在留露人の間で、この問題が「ヤポンのママ」やフェイスブックで議論され、「カミングアウト支持派」、「非支持・隠匿派」、「訴訟派」等に分かれ、相互に攻撃(非難)し合っていると聞きます。不毛だし、気の毒です。高度な知識とレアな分野の経験が要るうえ、そもそもどこで出生したのか、どのように露国籍を得たのか、等によっても別の説明が必要なうえ、そもそも各人の立場も状況も露国籍申請時の主観も異なり、ネット上の掲示板では結論は出ないでしょう。
一部の方は、私が法律家なので、現在の行政側の解釈にしたがって手続するにせよ、訴訟の話にせよ、「宣伝」のためにこんなことを書いていると思っている模様です。しかし、私がこれをここまで書いている本当の理由は、「宣伝」というよりも、個人的な事情でこだわりのある案件のため、単に本当のことを理解して頂きたいだけです。無責任でデタラメなことを、ネット上が匿名であることをいいことに、流布する方、あるいは、口コミで適当なことを言われる方が余りに多すぎます(最近の事例でいえば、「露国籍」を今から放棄すればいいという見解。しかしながらこの見解を採用すると、日本国籍が喪失されている時点でそれを行えば、「無国籍」になります。「無国籍」で不法滞在しているという状況になりかねませんが、現実にそういう行動に出ている人がいるというのです。これなどは、間違った情報に基いて行動してしまった「被害者」だと言えます。)。当方はこの問題については、日本で一番習熟していると考えておりますが、それでも扱う業務全体の比重から言えば、こうした案件のウェイトは小さいのです。ですので、「宣伝」のためにこんなことを、ここまで手間かけて書く意味など全くないです。そして、私は名前も身分も立場も、どういう人(www.atlo.jpもご覧下さい。)かも、明らかにしてこれを書いていますから、ネットの匿名の書き込みと違って、ウソが書けるはずもありません。
○国籍喪失後の帰化申請
国籍喪失後の帰化申請は必ず許可されるわけではありません。たとえば、子どもの問題なのに、親の経済状況や納税状況、果ては親の年金の納付状況を問題にする場合があるためです。たとえば、離婚してしまい、困窮する母子家庭(親権は露人母親)になってしまった場合のお子さんについてそういう問題が生じます。普通の日本人ですら、容易には対応出来ない問題です。まして言葉が不自由で漢字も読めなければ、何もできません。何もできなくなるか、後手後手になったり、臨機応変な対応ができなくなることが予想されます。日露カップルでは、離婚はよくある話です。夫婦関係が良好なうちに手を打っておくべきでしょう。それが親としての責任ではないでしょうか。
離婚されて母子家庭となっても、頑張ってお子さんを養育されておられる露人女性の方は多いようです。しかし、税金を払っていない、払っていても、住民税だけで所得税が支払われていない、年金が払われていないといった事象が観察されます。帰化申請で年金の納付義務を問題にするかどうかは、担当官や案件でも変わるのが実情ですが、これらは障碍になりえます。ところが、ギリギリで生活している場合に今から未納分を支払えと言われても、支払いできない事態が予想されるわけです。
そうなると、お子さんはすぐには帰化申請できないことになる場合があり(最悪、子どもが成人して就職してからという事態すらあり得ます。就職活動の時点で日本国籍が無いと、一般には就活上、不利です。※住民票を見れば外国籍だと分かります。)、子どもが日本人の配偶者「等」の在留資格で更新申請をしていかねばならないという事態も予想されるところです。
私は離婚したロシア人女性の子ども(母子家庭)を助ける場合があります(弊社にはロシア語に堪能なスタッフがおります。)。そういう場合、日本人男性の援助はもう無く、誰も助けてくれないのです。日本語もほとんど読めないのに、日本人男性ですら悩むこんな問題を、異国で、どうするのでしょうか。そういう場合、個別の事情をよく聞き、法務局見解も踏まえ、本人希望、ニーズ、事柄の優先順位、本人にできるのは国喪・在特・帰化なのか、訴訟外での外務省and/or法務局との交渉なのか、訴訟なのか、等を極めて慎重に聴取することにしています。上記のように何がいいかは個別事情によります。弁護士に依頼するにしても、費用は安くはありませんし、個別の事情を無視して「絶対確実ですよ」などとは絶対に言えないでしょう。あまりに慎重に行うために、正直、非常に大変なのですが。
○アメリカやカナダの場合との比較と旅券発給拒否のリスク
繰り返し申し上げますが、この問題は日露だけではないのです。昔から知られた典型例は、アメリカやカナダの国籍を日本人が(出生によらず)自己の意思で取得した場合です(これは成人は勿論、子どもも含みます。)。法理論的にはそれと同じです。「米国 国籍喪失」や「カナダ 国籍喪失」でググって下さい。おそらく一般の方にはこちらのほうが馴染みがあるかもしれません。在米や在カナダの日本大使館、領事館等が多々言及していますし、ネット上の情報も豊富にありますので、議論をよくお読み下さいませ。相当に厳しいことが書かれてあるのが分かると思います。
ある案件で、個別の事情が理由で「自己の志望」とはいえないとされたとします。しかし、その場合、国籍法11条1項を「違憲」だと判断することとは別のことです。ゆえに、別件では、依然として旅券発給を拒否することが容易に考えられます。それだけでも「リスク」です。それにそもそも、日露の事案は、駐日露大使館は日本人側親に、子どもに「ロシア連邦国籍を与えることにつき」、同意書に署名させることを要件にしており、露の国籍法上、その場面では日本人側親の同意が要件になっていて、そうでなければ(ロシア政府側が日本人親の同意ありだと認定しない限りは)ロシア側は国籍を許可しない仕組みだったわけです。つまり、ロシア政府が両親の合意(=法定代理権行使による自己の志望)ありと認定したからこそ、ロシア国籍が許可されているわけです。その証拠に、露国籍許可時に発行される駐日露大使館大使の署名の入った国籍許可証明書には、「●●●●は、日本国籍者●●●●の父であり、当該子どもに、ロシア連邦国籍を与えることにつき、反対しない。」という文言が記載されています。つまり、自然に解釈すれば「自己の志望」ではないと言い切るのは無理があると解されます(繰り返しますが、ここでは、客観的真実的には親が「外国国籍取得の認識・認容」をしているケースを想定し、かつ訴訟で虚偽の主張をするつもりがない場面を想定しています。その場合の「訴訟」とは国籍法11条1項が子どもに適用される限度で違憲無効だと主張するか、あるいは親の「外国国籍取得の認識・認容」=子どもの「自己の志望」であるという行政実務が最高裁で確定的に否定される「等」で国籍法11条1項を子どもに対する限度で空文化することを求めることだという想定です。)。
「客観的真実」は親が「外国国籍取得の認識・認容」をしているケースがほとんどでしょう。さらに、親が元気なうちはまだしも、親が亡くなり、子どもだけになった後、当時の事情を知らない子どもが、旅券発給拒否になったらどうなるのでしょうか。子どもは裁判するんでしょうか。親のことをどう思うでしょうか。仕事等で欧米等の海外と日本と行き来しないといけない場合どうするのでしょうか。法務局や外務省側は供述調書を証拠とする場合がありますが、このようなややこしい話を知らない子どもが調書で何を供述するでしょうか。たとえ亡き親が、法律知識のプロであったとしても、子が親の生前の思い通りに供述するとは思えません。
この事案の最高裁判例はないです(繰り返しますが、ここでは、客観的真実的には親が「外国国籍取得の認識・認容」をしているケースを想定し、かつ訴訟で虚偽の主張をするつもりがない場面を想定しています。その場合の「訴訟」とは国籍法11条1項が子どもに適用される限度で違憲無効だと主張するか、あるいは親の「外国国籍取得の認識・認容」=子どもの「自己の志望」であるという行政実務が最高裁で確定的に否定される等で国籍法11条1項を子どもに対する限度で空文化することを求めることだという想定です。)。予測不能な(結果の保証のない)訴訟になる可能性があるというだけで、子どもを巻き込みたくはないところです(但し、状況によっては訴訟がいいケースは当然ありますので、誤解されないで下さい!)。
訴訟をされる方に申し上げたいのは、個別の事情で「自己の志望」とは言えないとされて当該案件について国籍を喪失していないとされたとしても、それをもって、この問題全体が変わるというわけではないということです。ですので、万が一勝訴されても、判決の射程範囲をよくお読み頂く必要があります。個別の事情で「自己の志望」とは言えないとされるか、11条1項を違憲無効にするか等の点が重要でしょう。
誤解されている方がおられるようですが、訴訟自体に反対なわけではありません。これは価値判断の問題だと思います。当方の論旨はよくお読み頂ければ分かるはずです。全員が訴訟できるわけではないですよね。皆さん、色々な事情を抱えているわけですから。色々な公的立場等で親の立場的に、子どもを公に不法滞在や不法入国させるリスクを取るわけに行かないケースもあります。また、たとえば、訴訟係属中に日本旅券の更新時期が来てしまう事例もあります。旅券法に違反するわけにいかないので、正々堂々と外国国籍あります、日本で出生したのあれば、理由は外国国籍を生後に取得したからです、と旅券発給申請書に書くのが自然です。で、訴訟係属中に日本旅券の発給が拒否された場合、子どもの出入国や海外渡航に支障が生じる場合があります。日露だけ行き来するとは限りませんし、子どもによっては欧米に行く場合もあります。
ですが、正々堂々と法廷で争うことを否定しているわけではないです。私自身も、昔、もう5年くらい前ですが、訴訟は真剣に考えた経緯があります。
この原稿を書いた当初は、誰もこの問題を理解してなかったので、色々と知識をご案内したわけですが(思い出して頂きたいのですが、昔は、重国籍で当然程度の認識が一般だったのです。それへのアンチテーゼ的意味がありました。アンチテーゼの書き方が刺激的過ぎ、かつ、分量があまりに多いため、誤解を招いたようです。)、ようやくここまで議論されるようになったんだな、という感です。憲法訴訟ないし行政側の極めて重要な見解を変える訴訟をされるなら、それはそれで歓迎します。この問題が曖昧なままでいるのは、よくないことですので。ただ心配しているのは、中途半端な個別事情での「自己の志望」とは言えないという判断にとどまってしまった場合です(それは日露家族に限らず、全国際家族につき、あり得る話です。)。そういう判決だと、国際家族はますます混乱してしまいかねません。11条1項を違憲無効にして頂ければ、スッキリするんですがね。
こうした現状を前提にどうなさるのかは、最後は当事者の選択だということになります。少なくとも個別の事情を前提に喪失届されるのが、現状で間違っているということにはなりません。私は行政書士というよりも、国際家族の一員であり、関係者なので、どちらかといえば、国際家族を応援する立場です。議論の土台を提供したのだと思っています(書いたものの一部を切り出して批判することは極めて容易です。しかし、法律家の中では、他に誰もここまで書いていないですよね。書いてあっても、『戸籍』誌の丸写しです。なぜ書かないか。書けないからです。)。子どもに対して「親として間違ったことをしたわけではない。」。それは親なら皆、同じ気持です。ですので、「カミングアウト支持派」、「非支持派」、「訴訟派」等で非難し合うのはやめるべきではないでしょうか。それだけは言いたいです。みなさん、あくまで個別の事情により、間違っているわけではないです。なお、この原稿は一部の内容が数年前のままですので、予め、ご了承下さい。
なお、これを書いて感謝されたことも多々ありますが(駐日露大使館で露国籍を得る前にこれを読んで助かったという話もたくさんあります。)、この議論に関わると仕事の妨げになるのも事実です。ただ、当方がこの記事を書く以前も含め、既に全国で国籍喪失届をなさった日露のご家族は無数に存在すると思われます。といいますより、日露の組み合わせに限らないです。その方々を代表し、その方々が親として、間違ったことをしたわけではないのだという記録を残すのも大切なことかと思い、これを残します。
○駐日ロシア大使館サイトの日本語版についてのコメント
多くの日本人側配偶者がお読みになると思われる日本語版につき、コメントしておきます。駐日ロシア大使館サイトの文言は変動するでしょうから、ある時期の文言へのコメントに過ぎません。
*「・・・出生登録・・・在日ロシア連邦領事機関は、両親もしくは単親(例:シングルマザー)がロシア国民である子供の出生のみ登録手続きを取扱っています。日本人とロシア人との婚姻で出生した子供は、日本人配偶者の居住地の役所で登録することになります。この場合、ロシア領事部は、出生証明書のロシア語への翻訳サービスのみ行っています。・・・」
→これの意味=よくお読み頂ければ分かりますが、日本人とロシア人との婚姻で出生した子供とそれ以外が区別され、日本人とロシア人との婚姻で出生した子供が出生登録の対象外になっています。これは国際的にはよくある事象で、日本国の場合も、海外で出生した「外国人」については(たとえ日本人の子孫であっても)、日本国籍がない限り、出生届は受付されません(なぜか?それは日本国籍がないからです。外国で生まれた外国人は日本と直接関係ありませんので日本への出生届はありません、というニュアンスになります。)。出生登録(出生届)と誤認されていたという方は、こちらはご覧になっておられなかったうえ、露国籍申請時に、大使館職員が虚偽の説明をされた、または、ロシア人側配偶者が事実と異なる説明を(過失または意図的に)された、ということでしょうか。
しかし、駐日ロシア大使館サイトでは、続けて誤解を招くことが書いてありました。
*「・・・この場合の子供は、ロシア国籍として認められ、日本の国籍と同時にロシア国籍も有することができます。(現行のロシア連邦法では、二重国籍が認められています)。・・・」。
→これの意味=まず、「ロシア国籍として認められ」とはロシア国籍を申請すれば、許可した時点で認められ、露国籍取得は許可日から将来に向かって発生するという意味と解されます。駐日ロシア大使館側の見解では、日露の親の間で日本で出生した子どもが露国籍を申請で「許可」された場合、露国籍取得は許可日から将来に向かって発生するとされています。「は?」、「紛らわしい」、「誤解を招く」、というご批判はあり得るでしょう。ただ、多くの日露家族は、普通、大使館サイトだけ読んで判断するわけではなく(そもそも読まない場合も多いうえ、日露家族であれば、そもそも相手はロシア政府なのですから、大使館だけではなく、何か物事を判断する際、経験則上、全般的に言って、そう簡単には盲信しないのが普通ではないでしょうか。「FMSがこう言った」=そのとおりに違いない、とはならないですよね。まして、翻訳自体の正確性が疑わしい日本語版です。)、ロシア人側配偶者等の話も聞いて、色々なことを判断します。もしロシア人側配偶者が、日本人側を騙してロシア国籍を子どもに取らせる、というつもりで、かつ、日本人側がロシア語を読めなかった、というなら、それはもう致し方ありませんが、そうでないなら、遅くとも、国籍取得申請の申請書類の文面を読む時点で気づくことが多いのではないでしょうか。
で、「・・・日本の国籍と同時にロシア国籍も有することができます。・・・」は、国籍法11条1項を無視しており、誤解を招きます。ちなみに、同時期のロシア語版では、「Японское законодательство не предусматривает двойного гражданства. В нем существуют механизмы, призванные уменьшить количество случаев двойного гражданства. Так, согласно ст.11 Закона о гражданстве, гражданин Японии, по собственному желанию приобретающий гражданство другого государства, должен выйти из японского гражданства.」(原文のママ)と書いてありました。要するに、日本語版の読み手は無視されているというか、翻訳する手間も惜しいのか放置されているといえます(これは意図的だ、ロシア国籍者を増やすためだ、という意見すらありますが、最近、外務省旅券課の方とお話した際、興味深い話を聞きました。自己の志望でアメリカやカナダの国籍取得をする際も、アメリカやカナダの政府職員が、日本人に対し、「二重国籍になるから大丈夫ですよ。」と本気で言うケースが多々あるのだそうです。つまり、これは二重国籍を認める国々の政府職員にとっては、日本の国籍法11条1項のような規定は普段意識をしていないゆえの誤った発言ということだろうと思われ、ロシアもそう側面があると思われ、日本人としては、今後共、要注意です。そもそも日本国籍が消えるかどうかの判断は日本政府に決定権限があるので、外国政府の職員の意見—外国政府の駐日大使館サイトに書いてあるものを含み—など当てにしてはいけないということです。逆の立場で考えてみましょう。私は仕事柄、フィリピンや中国等、日本国外にある日本大使館・領事館のサイトを拝見します。そういうサイトには日本語版と現地語版があります。現地語版はその国に住んでいる方々がお読みになります。ところが、日本語版よりも情報が不十分だったり、古かったり、間違っている場合、誤解を招く場合があるのです。現地の方々にとっては、振り回される原因になるでしょう。で、今回は、逆の立場で、「現地の方々」である日本人がそういう振り回される犠牲となったのです。)。
もっとも、駐日ロシア大使館サイトでは、続けて、その直後に「・・・子供にロシア国籍を申請できるのはロシア人のみ。(詳細はロシア語の国籍の項目でご確認下さい)。・・・」とあり、ロシア国籍は「申請」しないともらえない趣旨だと分かりますし、ロシア語版を読むようにと書いてあるので、ロシア語版を読まなかった場合には、読まなかった方の過失ないし帰責性だとも言えるでしょう。ロシア人側しか申請できない(これはロシア国籍法の露国籍許可申請の条文の文言に依拠すると解されます。)となると、ロシア人側が反対したり、死別してしまった場合には、日本人側の親の申請だけでは、もうもらえないという意味と解されます。ここで、「最初から、生まれたときから、露国籍あると思っていた。」という言われ方をする方もおられます。しかし、もしもですよ、本当に、客観的に、生まれたときから、「自動的に」(=申請行為なしで)露国籍があるならですよ、よくお考え下さい、親が国籍申請する必要ないのです。もうロシア国籍あるなら、両親共に事故等でお亡くなりでも、もう既に露国籍あるのですから、国籍申請ではなく、ロシアのパスポート(国外旅券)の発給申請をすればいいだけです。仮に何らかの事情で、たまたまその時点で、ロシア国内にいる場合には、ロシアのパスポート(国外旅券)の発給申請をする必要もなく、既にロシア国籍があると主張し、大きくなったら「国内旅券」(一種の身分証です。)だけもらってそのままロシアで、ロシアビザ無しで、暮らすこともできるわけです。
また、実際、日本人夫が子どものロシア国籍取得に反対するゆえに、子どもをロシアに連れて行く際に、ロシア政府から外国人扱いされ、ロシア査証を駐日ロシア大使館から得てからロシアに渡航する事例も非常に多くあります。なぜならその場面では、日本人夫の同意がなければ、ロシア国籍が許可されないからです。このことからも分かりますように、出生時に自動的に(国籍申請なしで)ロシア国籍を取得する制度ではないわけです。もし出生時に自動的に(国籍申請なしで)得ているなら、その子どもは=「ロシア人(ロシア国籍保有者)」ですから、ロシア査証も不要ですし、なぜ日本人親の同意を得る必要があるのか、という話になります。
そうした子どもであっても、出生から何年も経った後、日本人夫との婚姻が破綻し、離婚し、離婚時に親権をロシア人妻側の単独親権とした後は、ロシア人妻側単独でロシア国籍の申請が可能であり(そういう事案の露国籍許可証明書は文言が少し変わりますが、ほとんど同じです。)、それで離婚してから、駐日ロシア大使館で、ロシア国籍を得る事例もありますが、それでロシア国籍を許可されても、過去の何年もの間、ロシア国籍だったことに遡って(遡及して)なるわけではありません。そういう事例でのロシア人女性側の認識では、出生時に露国籍を得ない制度であること、露国籍の取得の認識・認容があり(ロシア国籍申請書類のロシア語が読めないわけではない。)、自己の志望での露国籍取得であるのが通例です。
結局、露国籍法や国籍取得時の申請書類(ロシア語)と併せてよく読めば(特にロシア語版サイト含め)、事前に分かった話ですが、誤解された人がそれはおられるには違いないでしょう。ただし、「誤解」には幅があります。「自己の志望」を否定しない程度の誤解、「自己の志望」を否定するほどの誤解、両方があるでしょう。ですので、個人個人異なるので、訴訟を否定する趣旨で本稿を書いているわけではないですし、本稿だけをお読みになって法律判断するのはお控え頂きますようお願い致します。
繰り返しますが、本稿の立場は、問題点や現状をきちんと指摘したうえで、国籍法11条1項の子どもに対する有効性を最高裁で否定して頂くことです。国籍法11条1項が子どもに対して有効である限り、「被害者」は決して無くならないのです。
○最後に
まず、ロシア大使館等の関係機関が皆様にどういうふうに応じたのか、どうしてこんなことになったのか、いまさら国家機関(※裁判所を含みます。)の言うがままに任せて、国家機関を信用できるのか、思い出して頂ければと思います。事前に「こうなる」というアナウンスはありましたでしょうか?何も無かったのではないですか。法務省のホームページに何と書いてありますでしょうか。今回のことは書いていないですね。
国家機関に「任せる」というのは、こういう結果を招くのではないでしょうか。そして、上記に書いたことを読んで、初めて「状況が分かった」という方が多いはずです(最近はこのサイトの内容は、他の掲示板やブログ等に転載されていますが、ネット上に最初にきちんと書いたのは私です。)。ということは、言われなければ、ずっと分からないまま、数年、数十年経って、問題がもっと深刻化してから分かる問題だったということです。今回の問題は、並みのレベルの法律家でも、法務局職員でも、分かりません。裁判所職員はなおさら知りません。この前は入管に行ったら、入管職員から「国籍法11条の国籍喪失の効果は出生時に遡る」等と言われ、閉口しました(それは違うと主張したら撤回されましたが。)。
ですが、私は、今回の問題が表面化する以前から、「こういうことだろう」と思っていました。それは入管業務と国籍業務の専門家として、過去数十年の戦後の日本の国籍実務を研究したことがあり、ロシアのケースではないのですが、別の国籍の事例で類似の問題が過去にあったことを知っていたこと、及び、自身が国際家族の一員であり、諸般の事情で案件を詳しく研究する機会があったためです。
なお、相談くらい来たほうがいいのではないですかと書くと、「宣伝」などと言われるので、それは書きません。ただ、当方にお越しになった場合でも、「国籍喪失+入管+帰化申請希望」なのか「訴訟外で行政機関と交渉することを希望」(それができるかはケースによります。上記に説明事例あり。)なのか「訴訟希望」なのか、ご希望はお聞きします。
ここに全てのことを書いたわけではないので、これだけで法律判断されないで下さい!事例としては、日本旅券を取り上げられたとか、日本旅券の発給を拒否された、子どもを海外の日本人学校に参加させようとしたら日本人ではないと言われて現地の日本大使館に拒否された、「30日以内」までに「在留資格取得許可申請」が間に合わなかった、友人から今回の件を聞いてビックリしたが国籍の有無を知りたい、等があります。
※ あさひ新日本総合法務事務所 古川峰光
ДВОЙНОЕ ГРАЖДАНСТВО (Россия, Япония)
以下は、上記の内容をロシア人にロシア語に翻訳頂いた要約です。※翻訳は難しいものなので、ニュアンス等が異なっている場合があります。ご了承下さい。
Вопрос о двойном гражданстве, как таковом, ранее нигде и никем подробно не описывался, что породило множество проблем и недоразумений среди пар, состоящих в международном браке (Россия, Япония). Поэтому этим вопросом было решено заняться впервые специалистами адвокатского бюро “Асахи Токио” в Токио во главе с мистером Когава Минэмицу высококвалифицированный специалист по имиграционным вопросам. и международному законодательству в сфере защиты прав человека.. (звания, регалии).
Предлагаем вникнуть в некоторые нюансы так называемого двойного гражданства вместе.
1. Роды в России или в Японии?
Рано или поздно перед семейной парой встаёт выбор: где рожать? И соответственно: гражданство какой страны принять?
Если Вы при постоянном проживании в Японии решаете рожать в России, то Ваш будущий малыш получит гражданство РФ по праву рождения. В этом случае Вы имеете еще и право по возвращении в Японию, сделав визу малышу, подать документы на японское гражданство и получить второе гражданство на законных основаниях. Российское гражданство получается на основании:
– один из родителей является гражданином России;
– рождения на территории РФ.
Японское приобретается так же на основании того, что один из родителей – японский подданный и последующей подачи документов в соответствующие административные органы Японии.
Однако, если ребенок от смешанного брака рождается на территории Японии, то это вовсе не означает двойного гражданства. Посольство РФ в Японии по заявлению родителей легко даст Вам российское гражданство, тем не менее помните, что по японскому законодательству, как только Ваш ребенок вступит в российское гражданство, японское, если таковое имелось, он теряет автоматически без какого-либо уведомления от японской стороны.
В свою очередь, если Вы вписываете ребенка, имеющего японское гражданство, к себе в заграничный паспорт, то ребенок так же теряет японское гражданство. Процедуру по вписыванию в паспорт одного из родителей проводят только по отношению к гражданам РФ, т.е. уже имеющим российское гражданство.
Будьте осторожны, решаясь на те или иные действия без профессиональной консультации, так как последствия от неправильных решений могут быть без преувеличений плачевными.
2. Недоразумения и ошибки ввиду различия в законодательствах России и Японии.
Никто не застрахован от столкновений с правовой некомпетентностью персонала при обращении в государственные учреждения разных уровней. Дабы несколько прояснить ситуацию, пожалуй, стоит обратиться к наиболее достоверным источникам, таким как Семейный Кодекс Японии, в котором существует так называемый “Национальный Свод Законов о Гражданстве по рождению”. Где четко прописано в отношении России о двойном гражданстве, что если ребенок от смешанного брака родился в России, то он считается россиянином, т.е. японское гражданство он по праву рождения не получает, только по предоставлении и подаче соответствующих документов в административные органы Японии. И, если ребенок, рожденный в Японии, вступил в гражданство РФ, то японское гражданство для него теряется (статья.11, раздел 1).
Из-за неточностей, несостыковок в российском и японском законодательствах возникают различного рода недоразумения, когда родители в Посольстве РФ в Японии получают информацию, противоречащую японскому законодательству. Хотя совсем недавно на доске объявлений появилась информация, предупреждающая о потере японского гражданства.
К слову, многие всерьез считают, что если они скроют сведения об имеющемся у их детей российском гражданстве, то японская сторона об этом не узнает до совершеннолетия, а между тем, японское гражданство уже утеряно, что выясняется родителями случайно, например, при смене японского паспорта.
Самым ужасным является тот факт, что вся информация распространяется среди русско-японских пар посредством “цыганской почты”, то есть из уст в уста через слухи, сплетни, порой даже ничем не подтвержденные , в следствие чего возникают новые споры и еще больше вопросов по поводу двойного гражданства.
Важно также знать, у каждой семьи складывается своя собственная уникальная ситуация, которую необходимо рассматривать и разбирать индивидуально, дабы исключить ошибки и решить все вопросы.
3. Факты о двойном гражданстве.
Только владея знаниями о действующих законодательных базах России и Японии, можно с уверенностью принимать те или иные решения. Например, если исходить из старого Закона о гражданстве, выпущенном в 1991 г., Вы могли вписать своего ребенка в свой заграничный паспорт, но по новому Закону о гражданстве от 2002 г. с учетом японского законодательства, это является основанием для лишения Вашего ребенка японского гражданства. Не стоит этому удивляться, так как вписанным в заграничный паспорт родителя может быть только несовершеннолетний гражданин России.
Интересно, что сотрудники ФМС России, Посольство России в Японии сами как бы подбивают своих граждан сделать своим детям российское гражданство, не заботясь о последствиях, предлагая скрываться от японской стороны до достижения совершеннолетия. Такой подход мы считаем не только не профессиональным, но и не законным. Зато это воспринимается как должное российскими гражданами, отсюда – слухи, недомолвки, паника при “неожиданной” потере японского гражданства и все вытекающие проблемы.
Конечно же, это сугубо Ваше дело, действовать ли по советам российского Посольства или нет, но к чему точно следует прислушаться, так это к японским законам, которые, кстати, не менялись в отношении гражданства, когда как Посольство России выдает каждый день противоречивые сведения.
А между тем, незнание японских законов не освобождает Вас от ответственности.
Частые вопросы возникают также по поводу изменений, внесенных в Закон о гражданстве РФ. Здесь действительно кое-что поменялось. Например, если раньше Вы подавали заявление на получение российского гражданства без согласия второго родителя, то новый Закон гласит, что непременным условием для вступления в российское гражданство является письменное согласие второго родителя. Это, видимо, сделано в предупреждение гражданам, желающим иметь так называемое двойное гражданство. Подписывая согласие, Вы понимаете, что японское гражданство теряется.
* Повторимся, двойное гражданство возможно лишь в случае рождения ребенка на территории РФ по праву рождения, и получения японского гражданства в Японии.
4. Чем грозит сокрытие российского гражданства?
Волнующий вопрос для всех родителей, кто все-таки решился на скрытое двойное гражданство.
Это Ваше “право”, однако помните, что это таит в себе опасность.
МИД, Министерство Юстиции, Миграционные службы, паспортные столы России и Японии занимаются в том числе и выявлением лиц с двойным гражданством. Как это происходит?
Дело в том, что ввиду отсутствия правовых норм и регулирования в отношении двойного гражданства, возникает двойной учет одного и того же лица, как граждан двух разных стран. Таким образом, основное выявление таких лиц происходит при прохождении иммиграционного контроля на границах обеих стран и при смене японского паспорта.
Ни в коем случае не скрывайте сведения о наличии российского гражданства! Не прячьте российский или японский паспорта от работников таможни на границе! Умышленное сокрытие карается вплоть до уголовного наказания и последующей депортации. Также, при оформлении японского паспорта в графе об ином имеющемся гражданстве многие заведомо лгут, отвечая “нет”, что относится к серьезному уголовно наказуемому преступлению в Японии.
Своими, казалось бы, благими намерениями Вы можете поставить крест на своей жизни и, более того, на жизни своих детей. При обнаружении российского гражданства, японское гражданство уже давно утеряно, а дети автоматически становятся “нелегалами”, и соответственно, с точки зрения японского законодательства, преступниками. Ведь иностранцы подлежат регистрации и получению разрешения на пребывание, чего у “псевдо японцев”, конечно же не имеется.
Важно знать, даже если проблема нелегального пребывания иностранца на территории Японии разрешится со временем положительно, то такое имевшее место быть событие останется в истории семьи навсегда, и может прямо и негативно отразиться на взрослой жизни Вашего ребенка и будущих поколений. Это печально, но факт.
Когда Ваши дети достигнут совершеннолетия, проживая благодаря Вашим стараниям с сокрытым российским гражданством, то риск необратимых последствий возрастает до предела.
Допустим, Вам удавалось каким-то образом менять детские паспорта, без проблем проходить иммиграционный контроль, но после совершеннолетия ребенок будет принимать все решения сам. Он может пожелать уехать учиться/жить в другую страну/Россию, связать свою жизнь с иностранцем, строить карьеру в иностранной компании, пойти учиться в престижный университет и так далее. И всё это будет происходить под маской японского подданного, а по своей сути, нелегального иммигранта.
Если Вас не выявили до совершеннолетия, это еще не значит, что можно вздохнуть свободно, это лишь некая отсрочка, так как данное преступление не имеет срока давности. Еще раз повторимся, последствия будут неприятными для всех: невозможность устроиться на престижную работу не только Вашему ребенку, но и его детям, либо увольнение с работы, арест, судебные преследования, обвинительные акты, депортация… Причем, попасться Вы можете на любой мелочи, например, банальном ДТП.
Призываем Вас не доводить до крайности, не допускайте нарушения законодательства Японии, если Вы всерьез связываете свою жизнь и жизнь своих детей с этой страной.
5. Итак, в заключение, как лучше действовать?
Этот вопрос задает себе каждая пара, живущая в смешанном браке. В первую очередь, необходимо определиться, какое гражданство Вам важнее: российское или японское? Какие Вы цели преследуете? Свободно ездить в Россию на любой срок без визы? Или же делать визу в упрощенном порядке на 90 дней? Или Вам проще делать ребенку визу в Японию? При участившихся ЧС в Японии легко ли Вам уехать с ребенком на родину?
И только хорошо все взвесив, можно смело подавать заявление на российское гражданство, но помните, что в течение 30 дней с даты подачи заявления на иностранное гражданство, либо приобретение вида на жительство Вы должны уведомить об этом японскую сторону. После чего в день получения российского гражданства японское гражданство упраздняется, и Вам следует незамедлительно подать документы на специальное разрешение на пребывание иностранца в Японии и регистрацию.
Знайте, что несвоевременное обращение в административные органы по месту жительства, равно как и жизнь под маской японского подданного, может сильно влиять на получение/ оплату таких услуг, как: медицинское страхование; выплаты детских пособий; детская вакцинация и др. Это влечет за собой огромные непредвиденные расходы. Оговоримся, что в случае обнаружения двойного гражданства пользование этими услугами за истекший период будет признано не законным, а следовательно, будет требовать возмещения убытков, понесенных Японским государством.
При грамотной юридической поддержке можно будет избежать многих ошибок, а также, получить помощь в оформлении вида на жительство, специального разрешения на пребывание. При этом в административных органах будут исключены иностранные граждане и сделан переучет.
Действовать важно незамедлительно, поэтапно, не бросаясь из крайности в крайность.
Если Вы не знаете всех тонкостей российского и японского законодательств, не представляете, с чего начать, то всеми интересующими вопросами с удовольствием займемся мы. Проконсультируем и окажем профессиональную юридическую поддержку.
Имейте в виду, чем честнее Вы будете перед законом, тем проще будет Ваша жизнь и жизнь Ваших детей.